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上機嫌なハリルホジッチに問う。中国戦はそんなに良かったか?

杉山茂樹スポーツライター

試合後のハリルホジッチは上機嫌だった。

「ラストパス、フィニッシュの力に欠けていただけ。3試合で一番良かった。もっと得点が奪えそうなチャンスもあった。勝てなかったけれど、高く評価している」

その口を突いて出たのは、ポジティブな話ばかりだった。素朴な疑問に襲われる。

「そんなに良かったですか?」

比較対象を過去2戦に求めれば、そりゃあ良かった。しかし、日本代表のあるべき姿としてどうだったかといえば、良くない。褒められない試合だ。

中国は、選手個々の技量で日本の下を行く格下。攻撃は、受け手と出し手のみの関係に基づく、ミエミエのパスワークが主体だ。見ていてつらくなるサッカーをする相手に対し、結果論を振りかざすわけではないが、引き分けてしまった。押して、押して、押しまくって、不運にも引き分けてしまったわけではない。普通によく見かける引き分け劇を演じた。

結果に対して喜ぶべきは中国側。にもかかわらず、ハリルホジッチは喜んでしまった。そのピント外れとおぼしき楽観主義はどこから来るのか、心配になる。

監督の力と選手の力。試合に及ぼす影響がこの2つだとすれば、中国戦は50対50のように見えた。選手も選手だが、監督も監督。

選手について言えば、2年前、韓国で行なわれた東アジアカップに臨んだザックジャパンより劣っていた。あのときも、国内組中心のメンバーだったが、もう少し総合力が高かった。

日本人のサッカー選手のレベルは、いま右肩下がりの状況にある。だからどうするか。優秀な監督でなければ、これまでのレベルを保つことは難しい。そうした視点に基づいてハリルホジッチを眺めると、とても物足りなく見える。就任以来、劇的に改善したという感じはまるでしない。

監督の力で勝った。そう思える試合に遭遇する必要があるのだ。海外組不在の今回は、まさに監督の力、ハリルホジッチの監督力を探るには格好の機会だった。

縦に速いサッカー。推進力のあるサッカー。就任当初、耳にしたのはこの台詞だが、それ以外、サッカーの中身について、その口から出てきていない。どんなサッカーがしたいのか、ピッチ上の選手のプレイからも伝わってこない。露わになるのは、かつてに比べてレベルダウンした選手の姿ばかり。

ボール操作もさることながら、世界と比較して決定的に劣って見えるのは展開力だ。ボールを意図的に運ぶことができていない。人から人。フリーの選手が目の前に現れたからパスを出す。そんな感じだ。場所を意識しないパスワーク。方向性、ルート、タイミングにこだわりのないパスサッカー。これはザックジャパンと同じだ。繋ぎ方に定石が働いていない。

この日、守備的MFを担当した2人、山口蛍、遠藤航のプレイにとりわけそれは見て取れる。地図上でボールを意図的に操作し、動かしている様子ではない。右、左、長、短のこだわりはない。出たとこ勝負。ピッチというキャンバスに、どんな絵を描こうとしているのか、見て取ることができない。選手の技量の問題でもあるが、監督の力、指導力の問題は同じくらい、いや、もっと大きい。

いつボールを奪われるか、攻守が切り替わるのか、分からないのがサッカー。しかし意図的にボールを動かせば、そのだいたいの場所は予想がつく。

日本は奪われた時「しまった!」と、ほぼ全員で驚くサッカーなのだ。ザックジャパンの敗因をハリルジャパンも引きずっている。改善された形跡はない。

それと真反対にあるのが中国。パス交換は絶望的に巧くない。まるで洒落ていないが、進もうとする方向はいい。空いているスペース、日本が嫌がる方向に、運んでいく。

だから意外な奪われ方をしない。何十回と日本にボールを奪われたはずなのに、チーム全体で「しまった!」と、大焦りする瞬間はほとんどなかった。

これは監督の力そのものだ。この試合が引き分けに終わった最大の原因でもある。力の劣る中国に善戦を許した理由はなぜか。日本の選手のレベルは、下がったといっても中国よりは上。となれば、日本の監督の力が高くなかったからとなる。

その日本の監督は、過去2戦の不出来についてコンディションに原因を求めようとした。コンディションを敗因に挙げる監督の将来は長くないとは、よく言われるが、ハリルホジッチが任期の途中で解任されることはないはずだ。

もし解任となれば、ブラジルW杯以後、アギーレに続き2人目となる。アギーレとそのスタッフに、いくら支払ったのか定かではないが、それが億単位のお金だったことは想像するに容易い。もしハリルホジッチも解任したとなれば、さすがに協会首脳陣の責任問題に発展する。協会の首脳は残る3年間、ハリルホジッチと心中するつもりでいるはずだ。

ハリルホジッチは予選で敗れない限りクビにならない。だとすれば、なぜ、ハリルホジッチは、この東アジアカップに平均年齢約26歳という中途半端な代表を連れてきてしまったのか。なぜもっと、若手を多く連れてこなかったのか。3年後の本番を今回のメンバーで戦えば平均年齢は29歳。ブラジルW杯本大会に出場した各国の平均年齢はジャスト27歳なので、それに従えば、もう2歳、若返らせなければならない。

現在の平均年齢を24歳に。22歳以下で編成されている五輪チームから、半分近く加えないと、その数字にはならない。

3年後を考えず、国内組でいま考えられる最強メンバーを送り込み、つまり結果を欲しがり、ハリルジャパンはそれで東アジアで最下位になった。

その前の試合で、弱小シンガポールに引き分けていることも忘れてはならない。それでも上機嫌なハリルホジッチと、我々はどう向き合えばいいというのか。巨大迷路にはまりつつあるような気がしてならない。

(集英社・Web Sportiva 8月10日 掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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