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ベンゼマはフランス代表の救世主になれるのか?10番の魂を持ったストライカーが加えるスパイス。

森田泰史スポーツライター
ドリブルするベンゼマ(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

彼は、フランス代表の救世主になれるだろうか?

「救世主」という言葉はふさわしくないかも知れない。2018年のロシア・ワールドカップで優勝したフランスは、文字通り世界王者としてこの夏に開催されるEUROに臨むのだ。

だがディディエ・デシャン監督が何かしらの変化を求めていたのは明らかである。そして、決定されたのが、およそ6年ぶりのカリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)の招集だ。

■リヨンでの日々

ベンゼマは1987年にフランスのリヨンで生まれた。決して裕福な家庭ではなかったが、幼い頃からフットボールに夢中になった。「何もなかった。でも、一日中、ゴールに向かってシュート打っているだけで、幸せだった。フットボールのためだけに生きていた」とベンゼマが当時を振り返っている。

9歳でリヨンの下部組織に入団。順調に成長して、2004-05シーズンにトップデビューを飾った。そして、2007-08シーズン、ブレイクの時を迎える。フローレン・マルダ、ジョン・カリューといった選手たちと一緒にチームの主軸になり、公式戦51試合に出場して31得点をマークした。

A代表デビューは2007年3月だった。国際親善試合のオーストリア戦で、チャンスを得る。40分ほどのプレータイムで、1ゴールを記録。大きな未来を予感させた。

だが、2015年10月8日の出場を最後に、ベンゼマはフランス代表から離れることになる。

フランス代表でのベンゼマ
フランス代表でのベンゼマ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

かの有名な「ヴァルブエナ事件」によって、ベンゼマは実質的にフランス代表から追放された。ヴァルブエナ事件とは、ジェイミー・ヴァルブエナの性行為を映像に残した”SEXテープ”をもとに、彼を恐喝した疑いがベンゼマにかけられたというものだ。

EURO2016のメンバーから外れた際に、ベンゼマはスペイン『マルカ』のインタビューで「フランスの一部の差別的な人たちのプレッシャーに屈したんだ」と痛烈に言い放った。それに対して、デシャン監督が「その言葉を決して忘れないだろう。暴力的であり、受け入れられるものではない」と応戦する事態に発展した。

また、デシャン監督はオリヴィエ・ジルー(チェルシー)を重宝していた。そして、ベンゼマ不在の期間にキリアン・ムバッペ(パリ・サンジェルマン)という新しいスターが現れた。彼らにアントワーヌ・グリーズマン(バルセロナ)を加えた攻撃は十分過ぎる破壊力を備えていた。準優勝したEURO2016、優勝を果たした2018年W杯と結果も付いてきていた。

突破を試みるベンゼマ
突破を試みるベンゼマ写真:ロイター/アフロ

6年という歳月は長かった。

その間、ベンゼマはマドリーで3度のチャンピオンズリーグ優勝を経験している。ガレス・ベイル、クリスティアーノ・ロナウドと共に「BBC」と呼ばれる3トップを形成して、ロス・ブランコスの攻撃を牽引した。

2018年夏にC・ロナウドがユヴェントスに移籍して以降は、エースとしてマドリーの得点源になった。フレン・ロペテギ監督、サンティアゴ・ソラーリ監督、ジネディーヌ・ジダン監督はいずれもベンゼマへの信頼を示していた。以前、ベンゼマがフランス代表に招集されない理由について問われたジダン監督は「私にも、君にも、誰にも理解できないだろう」と語っていた。

■ベンゼマのプレースタイル

「人々はFWの選手にゴールを求めるだろう。でも、僕は10番の魂を持った9番の選手だ」

これはベンゼマの言葉だ。そう、彼はトップ下の役割をこなせるストライカーである。まさに”9.5”番といえる選手だ。

C・ロナウドがマドリーに在籍していた頃は、頻繁にアシスト役に回っていた。ベンゼマが左サイドに流れ、その空けたスペースにC・ロナウドが飛び込む。マルセロ、ダニ・カルバハルと良質なクロスを送れる選手、トニ・クロースやルカ・モドリッチといったパサーがいるマドリーにおいて、全体のバランスは完璧に調和していた。

ゴールを喜ぶベンゼマ
ゴールを喜ぶベンゼマ写真:なかしまだいすけ/アフロ

もちろん、現代フットボールに於いて決定力のあるストライカーが重用されるのは間違いない。ディディエ・ドログバ、ディエゴ・ミリート、マリオ・マンジュキッチ、ジエゴ・コスタ、フェルナンド・トーレス、ルイス・スアレス...。チャンピオンズリーグや欧州5大リーグで優勝できるようなチームには、典型的な9番タイプのストライカーがいた。

近年、例外的に活躍しているのはベンゼマとロベルト・フィルミーノ(リヴァプール)くらいだろう。彼らは前線と中盤の繋ぎ役である。フリーランニングでスペースを創造する。縦パスを受け、ボールをキープしてタメをつくる。相手のディフェンダーを釣り出して、空間を生み出す。

リンクマンとして機能した上で、ゴールを陥れる。そういった意味で、ベンゼマの貢献度は計り知れない。

デシャン監督とベンゼマ
デシャン監督とベンゼマ写真:ロイター/アフロ

「私はベンゼマと個人的に話をした。長い会話だった。それから、時間をかけて、彼が言っていたことを吟味した。重要な決断だったので、それは大事なことだった。ただ、いつ、どこで、何を話したのかを明かすつもりはない」

この夏のEUROに向けた26名の招集メンバーを発表した際に、デシャン監督はベンゼマについて、そう話していた。

スポーツ的側面、政治的側面で、このタイミングでのベンゼマの招集が正しいと判断された。その是非は、新型コロナウィルスの影響で開催が一年延期されたEUROで問われることになる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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