後半戦は1軍戦力としての貢献を誓う若トラ 同級生4人衆のフレッシュ球宴
昨年7月16日に岡山県の倉敷マスカットスタジアムで予定されていた『フレッシュオールスターゲーム』は、台風11号接近のため順延、翌17日は雨で中止。それ以上の延期はもともと予定されておらず、史上初めて“開催なし”の年となったのです。あれから1年、同じ場所での開催となったフレッシュ球宴。午後1時過ぎの激しい通り雨もグラウンドには影響なく、無事ナイトゲームが行われました。
開始前のセレモニーで1人ずつ名前を呼ばれてグラウンドへ出ていく際、やはり楽天のルーキー・オコエ瑠偉選手への歓声はすごかったですね。ロッテの平沢大河選手や2年目の楽天・安楽智大投手も負けず劣らず。もちろん地元出身の阪神・守屋功輝投手に送られる拍手が大きかったのは言うまでもありません。しかしオコエ選手に次ぐ盛り上がりだったのは「阪神タイガース背番号31、掛布雅之監督!」のコールがあった時でしょう。
試合前、グラウンドに立った掛布監督。「マスカットは初めてだなあ。岡山県営球場は何度も行ったけど。そうそう、ヘビが照明塔に巻き付いて停電したんだよね」と思い出し笑いです。「ジュニアオールスターは1年目に出たよ。1軍の試合があって、仙台から夜行で後楽園へ行ったなあ。夜行だけど、いい寝台を取ってくれてたから大丈夫だった」。セカンドでの出場、四球1つで1‐0だったとか。「あと1打席は三振かな?」。42年前、掛布監督が19歳。後楽園球場がまだ天然芝だった頃のことでした。
阪神の同級生4人衆の初球宴
阪神からは2年目の守屋功輝投手(22)、1年目の青柳晃洋投手(22)、坂本誠志郎捕手(22)、板山祐太郎外野手(22)の4人が出場。阪神から4人とも同じ学年の選手が出るのは1994年に札幌円山球場で行われたジュニアオールスターで、井上貴朗投手、平尾博司内野手、高波文一外野手の高校出ルーキー3人の時以来です。また、全員が1軍登録を経験(坂本選手は試合出場なし)というのも、私にわかる1993年以降では初めてのことと思われます。
1軍といえば、今回の出場選手のうち何人かは1軍登録中で、前日も公式戦がナイターであったんですよね。オリックスの奥浪鏡選手は4番DHでフル出場。ヒットはなかったものの、2ランを含む2安打で優秀選手賞を受章した2年前とは全然違いました。1軍の落ち着きというか、雰囲気というか。帰り際に「10連戦の疲れは1日で取ります!」と奥浪選手。フレッシュを入れると10連戦だったとは…お疲れ様でした。高校時代を過ごした岡山で、きのうはしっかりリフレッシュしたでしょう。
2016フレッシュオールスターゲーム
(14日 倉敷マスカットスタジアム)
イ選抜 030 030 000 = 6
ウ選抜 010 000 000 = 1
◆本塁打 神:板山ソロ(長谷川)、巨:岡本3ラン(松本)
◆二塁打 楽:オコエ、ロ:柿沼、広:桑原
◆盗塁 楽:オコエ
【表彰選手】
◆最優勝選手賞 (100万円とトロフィー)
巨人:岡本
3ランを含む2安打
◆優秀選手賞 (50万円とトロフィー)
楽天:オコエ
3安打1打点
阪神:板山
ソロでチーム唯一の得点
◆ホームラン賞 (金一封)
板山、岡本
後半戦が楽しみと掛布監督
試合後の掛布監督は、まず板山選手のホームランについて「あれだけファウルを打って、仕留めたからね。まあまあじゃない?意味のあるホームランだったと思うよ」と話し、優秀選手賞を獲ったことに「それもよかった。プロとして賞金を目指すのは大切だよ。ただ板山は次のステップにいかないと。いいホームランだけど、それに満足していてはいけない。次につながるでしょう。後半戦も厳しい戦いになると思う。どういう仕事をしてくれるか、後半戦が楽しみではあるよね」と期待も込めた言葉でした。
そして“初めての”フレッシュ球宴を終えて「若い選手たちが野球を楽しんでいるのを見てた、ただのオッサンだよ(笑)」と掛布監督。とはいえ存在感、人気とも半端じゃなかったと思われますが「それだけ浮いてたってことだけだよ~」と、やっぱり笑ってかわされました。試合前、ノックバットを手に打撃練習を見ていたんですがノックはしていません。ベースコーチもなし。「選手のための球宴」という信念を貫いた形ですね。
後半戦に向けての話になり「上位を倒さないと俺らは上にいけない。意識を切らずにやらないと。そして何が大切か考えると、いい形で1軍が戦っていくために、いい送り出し方ができるかどうか。いい選手をいかに作れるか。特に7月後半から8月にかけてはファームもスケジュールが過密になる。選手にとって8月が1つのポイントになる。8月いっぱいのゲームを、意味のあるものにしないといけない」と言います。
その中でも「1軍が勝つのが目標だから」と掛布監督。「まだまだ(今1軍にいる)若手がチームの勝ちにつながる結果を出せていない。テレビで見たり新聞を読んで感じるんだけどさ。そういう課題もある。1軍の勝利に貢献できる形を作って送り込まないといけない。もう試す時期じゃないでしょ?金本監督も色々やった。若い選手を試したりして」。―もう試す時期は終わった。ここからが真のサバイバルだと、その口調が物語っていました。
「50万円は独り占めです!」
板山選手は5番ライトでフル出場して3打数1安打1打点。高校の先輩でもある巨人・長谷川投手が相手の先発ということで、試合前にコメントを求められ「プロに入ってからしか対戦はないです。6月の甲子園の試合で、最初がフォアボールで次は自分の打席前に(足を痛めて)降板したから打っていません。今回は打ちます!」と話していて、まさに有言実行。なお「長谷川さんからメシ行くかと誘っていただいたんですけど、予定が入っていたので断りました」と板山選手。…断った!?「はい(苦笑)」
2回に迎えた第1打席で、その長谷川投手に対しファウルで粘って粘って11球目をホームラン!ライトポールにガツンと当たる音も聞こえました。「切れたかなと思ったけど、入ってくれてよかったです。先輩相手で力も入りました。途中で変化球(スライダー)を投げてきて、抑えにきているなという感じがしたので、本当の勝負ができてよかったですね」。打ったのもスライダーです。
試合前に「掛布監督から賞金を獲ったら山分けと言われた。冗談ですけど」と笑っていた坂本選手ですが、試合後は「一人占めです!」とキッパリ。50万円と金一封ですね。何に使うかはまだ未定と言っています。そして初めて経験したフレッシュ球宴は「(ホームランで賞も取れて)自信にもなるし、他のプレーを見て勉強することもできました」という感想。余談ですが、前日にパーマをかけてきてイメージが変わっています。「いい感じでしょう?」とご満悦の板山選手でした。
意外と緊張したという坂本
坂本選手はスタメンで5回までマスクをかぶっています。試合前に「オコエ選手が本盗を狙っているらしい」と聞いて「まずは塁に出てもらわないと。瑠偉(るい)だけにね」とダジャレを言っていたとか。それと「先発が高橋純平、1番がオコエ、キャッチャー・坂本って…大丈夫かよ」なんてことも。何をおっしゃいますやら。明大の、日本代表の主将も務めた坂本捕手ですよ。
打つ方では3回の1打席のみ。ライト前ヒットか?という打球でしたが、セカンド呉選手(西武)のファイルプレーで阻まれました。惜しかったですねえ。「あのへんが僕ですわ。あれが抜けていれば、もっと違う選手になれました」と笑います。守備では1回にオコエ選手に走られたものの、3回は岡本選手の二盗を阻止。「岡本でしょ?でもビックリしました」。この場面は刺した坂本選手も、なぜか刺された岡本選手も満面の笑顔でしたね。
そこへ通りかかった岡本選手に坂本選手は「俺がキャッチャーの時にホームラン打つんですよ」と。確かに6月11日と12日に甲子園で行われたファーム交流試合で、1戦目に岡本選手は8号ソロを打っていますね。坂本選手はスタメンマスクでした。2戦目は違ったんですが、しっかり9号2ランを放った岡本選手。なので、これは言いがかりかもしれません(笑)
フレッシュ球宴を振り返って「緊張しましたね、意外と。何かいつもと動きが違いました」とのこと。交代後はサードのベースコーチも務め「藤本コーチ、平野コーチの気持ちがわかりました!新鮮でした」と言っています。何もかもがいい経験だったんですね。スタンドではご両親と、ご両親のお母さん(坂本選手にとってはおばあちゃん)2人と、お父さんのいとこ、計5人が観戦でした。
なお岡崎選手が登録を抹消されたことを、この時点では知らなかった坂本選手ですが「前半戦はまったく戦力になれなかったので、後半は戦力になれるように頑張ります」と意気込みを語りました。きょう16日に再開される練習で1軍に合流するようです。
守屋は2年越しで初の凱旋
地元・倉敷市の出身で、誰よりもマスカットスタジアムに近く、縁も深い守屋投手。昨年、中止になった時の話で「高校3年の夏、最後がマスカットです。岡山理大付属に7対0で7回コールド負け。先発して5回か6回で7失点でした。だからいい思い出に変えたい」と言っていた場所。昨年は球場に行くこともなく終わったので、自身の成人式以来以来のマスカットです。
試合前のミーティングでウエスタン選抜のソフトバンク・水上監督から『ここは、来たくても来られない人がいる舞台』と言われことを受け「選ばれたことに誇りを持って、しっかり投げたいです」と誓った守屋投手。
9回に登板して打者4人に17球。先頭のロッテ・柿沼選手に二塁打、続くオコエ選手に中前打されて1死一、三塁としますが、オコエ選手の二盗を中日・木下捕手が阻止したあとはしっかり後続を断って無失点。三振と四死球はありません。「先頭に打たれてしまったけど、それでも抑えられてよかったです」というのが試合後のコメントです。
とはいえ試合後のベンチでみんなが談笑している中、かなり悔しそうな表情を見せていました。家族や友人が詰めかけた地元の球場で、ことしは「去年のこの時期と違って調子が悪くないので」と楽しみに迎えた晴れ舞台ですからね。1軍初登板はことし4月20日の広島戦、奇しくもマスカットスタジアムで組まれた試合の前日でした。来年は1軍の試合で本当の凱旋を果たして、恩返ししましょうね。
同い年のDeNA・柴田竜拓選手(岡山理大付)とは高校でも対戦していますが、この日は「柴田だ、ってくらいの感じで。いつも通り投げました」と結果は遊飛です。そして「きょうも逆球が多かったし、ピッチャーゴロを取れなくてセンター前になったりしたので。9人目の野手ということをしっかりやっておけば最少失点で切り抜けられる。そこを意識したい」と後半戦に向けての課題を挙げています。
「オコエ、うまく打ちましたね…」
試合前に青柳投手は「キャッチャーが誠志郎でよかった。真っすぐバンバンいきます。真っすぐだけだと絶対に打たれるんで、ストライクが入るボールを投げます!」と、微妙な意気込みを語っていました。また「あえて全員に投げるとかしましょうか(笑)。うーん、それは無理かな」と言っていたら…冗談でなく打者8人と相対してしまったんですよね。
2回に登板して2死を取ったあとにDeNA・山下幸選手の右前打とヤクルト・山崎選手への死球で一、二塁とし、9番の日本ハム・清水選手、オコエ選手、西武の呉選手の3連続タイムリーを許しました。8人に38球を投げ、4安打1三振1死球で3失点。負け投手になっています。
「オコエだけ、全球まっすぐでいきました!シーズンでスライダーを打たれたのが悔しくて」。でも芯で捉えられたような…。「オコエ、うまく打ちましたねえ。ストライク入るのが真っすぐだったから打たれた。って言い訳になるので『イースタンのバッターは素晴らしかった!』ということに」。ごめんなさい。全部書いちゃいました。
楽しめた?「3点取られたんで楽しくはなかったですけど」。そうですよね、確かに。「でもいろんな人と話ができてよかった。野村とかともじっくり話をしたし。他球団の話も聞けたので」
前半戦を振り返って「1軍で投げさせてもらったこと。その中で勝ちをつけてもらったことに感謝ですね。ランナーが出た時の課題が浮き彫りになった。課題は潰さないといけませんが、課題、課題といって良いところもなくなってしまうんじゃダメだなと。コントロールを狙いすぎてボールが弱くなったら良さがなくなるので」と青柳投手。後半戦の最初は?「どこかわからないですけど、上に呼ばれたら、この前みたいな、この前以上のピッチングができるよう頑張ります!」
そうそう、青柳投手は1軍の先輩方から「“リフレッシュ”オールスターじゃないんだからな。しっかり投げてこないと、1軍に戻れないぞ!」と釘を刺されていたとか。きょう再会しての反応がちょっと怖いですけど、でもちゃんと戻ってくださいね。
※最後に岡崎選手は15日、大阪市内の病院で『左手有鈎骨骨折部分の除去手術』を行い、無事に終了したと広報から発表がありました。「シーズン途中の大事な時期に離脱することになり、非常に悔しい思いと、チームに申し訳ない気持ちです。一日でも早くチームに復帰できるようリハビリに取り組みたいと思います」というのが岡崎選手のコメントです。本人の無念さは推して知るべしでしょう。何よりも早い回復を祈っています。