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女湯をのぞき見たとして逮捕された88歳の男 驚きの弁解とその法的問題は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 宮城県の旅館で男湯から女湯をのぞき見たとして、88歳の無職の男が逮捕された。「女性の裸を見たかったわけではなく、女湯の構造を確認したかった」と供述し、容疑を否認しているという。

軽犯罪法違反に当たる

 男は2月9日午後5時ごろ、男湯と女湯の間にある高さ約2メートルの仕切り板をよじ登り、女湯をのぞき見ていたところを女湯にいた客に発見され、旅館の通報で警察に逮捕された。

 この事件の場合、盗撮まではしていないので、軽犯罪法違反の成否が問題となる。「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰の対象としているからだ。

 のぞき目的であればもちろん、女性客がいる時間帯に旅館の従業員でもない男が女湯の構造を確認することなど「正当な理由」とはいえない。したがって、男の弁解を前提としても、軽犯罪法違反が成立する。

建造物侵入罪の成否も問題に

 男はこの罪に加え、建造物侵入の容疑でも逮捕されている。こちらも「正当な理由」のない侵入を処罰の対象にしているが、やはりのぞき目的だけでなく女湯の構造を確認するためであってもこれに当たらないことは明らかだ。浴場を管理する旅館の経営者が容認するはずもない。

 そこで、男が旅館の客でなかったのであれば、勝手に男湯に立ち入っただけで完全にアウトだ。問題は、男が宿泊客や日帰り入浴客だった場合である。はじめから女湯をのぞき見るために男湯を訪れ、それこそ服を着たまま仕切り板をよじ登ってのぞき見ていたような場合であれば、建造物侵入罪に問われる。

 しかし、裸になって入浴している途中でふと女湯をのぞき見たくなり、実行に移したということであれば、男湯の脱衣場に入った時点では単に風呂に入りにきただけだから、建造物侵入罪には当たらない。

 警察は、男がどの段階でのぞきを思いついたのか、その真の目的はなんだったのか、さらにはこの旅館だけでなく周辺のホテルや旅館でも同様の犯行に及んだ余罪はなかったのか、捜査を尽くすことになるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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