Yahoo!ニュース

藤井聡太七段、永瀬拓矢二冠を連破!朝日杯初優勝の千田翔太七段が磨いた必殺戦法。

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 11日に第13回朝日杯将棋オープン戦の準決勝と決勝が東京都千代田区で行われ、千田翔太七段(25)が初優勝を果たした。

 準決勝では2連覇中の藤井聡太七段(17)、決勝では永瀬拓矢二冠(27)を破った。

準決勝

画像

 千田七段ー藤井七段戦は千田七段の先手で角換わり戦法(以下角換わりと略)に。

 角換わりは双方得意としており、振り駒でどちらが先手になっても角換わりに進んだであろう。

 角換わりはテーマが定まっており、研究も日を追うごとに深まっている。

 後手も十分に戦えるとみられる一方で、勝率でいえば先手のほうが高い。

 本局は千田七段が定跡形から意表を突く手を繰り出した。

 千田七段は将棋AIを用いての深い研究に定評があるが、AIが推奨しない手を指したのには驚いた。

 筆者は千田七段の研究意図を読み取れずに見ていたが、手が進むと将棋AIの評価も次第に先手の千田七段に傾いていた。

 将棋AIを使った研究では、評価の高い手から深めていくだけに、評価の低い手を掘り下げづらい。

 しかし千田七段はそこに光明を見いだし、研究を深めて磨いていたのだろう。

 千田七段の局後のコメントによると終盤までは研究していなかったようだが、研究から外れた後も直線的な変化のため時間を使う必要があまりなかった。

 一方、意表を突かれた藤井七段は時間を使わざるを得ない展開で、難解な局面で秒読みに追い込まれた。

 手がわかりやすく、時間を残す千田七段。

 手の選択が難しく、時間の無い藤井七段。

 こうなってはさしもの藤井七段も力を発揮できない展開だ。

 そして千田七段が金を差し出すかわりに自陣を固めたのが冷静な受けだった。

 ここで千田七段が優位を築き、終盤は藤井七段も追いすがったが、中盤でのリードが大きく千田七段が押し切った。

 千田七段としては理想的な勝ちパターンだったといえよう。

 角換わりの怖さを見た戦いでもあり、これもまた現代将棋の一端だ。

決勝

画像

 準決勝のもう一つの山は永瀬二冠が阿久津主税八段(37)に勝ち、決勝にコマを進めた。

 永瀬二冠は豊島将之竜王・名人(29)、渡辺明三冠(35)と並ぶトップ棋士であり、本命といえる存在だった。

 振り駒で先手番は千田七段に。再び角換わりに進んだ。

 永瀬二冠は定跡形から実戦例の少ない強気な受けを選択した。

 これは千田七段の深い研究を外し、わかりやすい展開を避けた指し方だった。

 実際すぐに未知の局面に突入し、千田七段も時間を消費していった。

 永瀬二冠は、いかに自分の得意の展開に持ち込むか、その術に長けている。

 これで受けという自分の持ち味を発揮できる展開に持ち込んだ。

 しかし千田七段の本分は強烈な攻めだ。永瀬二冠は自分の持ち味を出せる展開に持ち込む一方で、相手の得意とする展開に進めてしまったともいえる。

 駒損ながら堅い自陣を頼りに千田七段が攻めに攻める。

 受ける側は読みを深めないと正解を見つけづらく、時間の短い将棋ではさしもの永瀬二冠も辛い展開だった。

 最後は大きなミスが出て、千田七段が角捨てから一瞬で勝負を決めた。

優勝

画像

 千田七段は磨きに磨いてきた角換わりを駆使して初優勝を果たした。

 そして優勝賞金で新しく発売されるPCを買いたい旨を述べていた。

 これで将棋AIによる研究と実力向上により磨きをかけるであろう。

 3連覇を狙った藤井七段は力を発揮できない展開だった。

 角換わりの研究において、先手番で過去にない有力手を出すなど藤井七段はトップランナーといえるが、今回は後手番でかつ研究を深めにくい展開でもあり、この敗戦は仕方ない側面もある。

 ここから藤井七段は重要対局が続く。

 18日(火)に行われる王位戦リーグ1回戦、羽生善治九段(49)との一戦には大きな注目が集まるだろう。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事