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国慶節のパレードの陰で、一家団らんのひとときを過ごす黄さんの幸せ

中島恵ジャーナリスト
10月1日、建国70周年を祝う中国の人々(写真:ロイター/アフロ)

大興奮の大型連休

 10月1日、中国は建国から70周年の節目を迎え、北京の天安門広場前では史上最大といわれる盛大な軍事パレードや祝賀行事が行われた。中国だけでなく、日本など海外に住む中国人も、式典の様子を「直播」(生中継)で視聴し、大興奮した。

 あの日、中国のSNSであるウィーチャット(微信)上でも式典やパレードの様子を写真や動画に撮って投稿する人が多く、「我愛中国」(私は中国を愛しています)や「我是中国人」(私は中国人です)といった言葉があちこちで飛び交った。

 「この興奮を抑えきれない」といった様子のうれしそうな彼らの投稿から「世界の大国となった中国の一員としての誇りや満足感」をひしひしと感じさせられた。

 一方で、7日間の大型連休でもあるこの時期は、海外旅行に出たり、故郷に帰省したりする中国人も多い。北京や上海の空港やターミナル駅は春節並みにごった返し、まさに桁違いの大混雑だった。

 大きな荷物を抱えた黒山の人だかりの写真を投稿するのもこの時期の“風物詩”の一つだが、SNSを見ていたら、以前取材したことがある黄さんが投稿していることに気がついた。

深せんで働く23歳の中国人女性

 黄さんは湖南省出身の23歳の独身女性で、現在は広東省深せん市の中小企業で働いている。私は4年前、たまたま取材で彼女と知り合い、以来SNSで交流するようになった。

 といっても、その後会う機会は一度もなく、もっぱらSNS上での様子を垣間見て、たまにメッセージを送り合うくらいだ。彼女は田舎の専門学校を卒業後、大都会の深せんに出て、何度目かの面接を経て、ようやく事務職に就いた。

 月給は深せんの大卒の初任給(約5000元)よりも少なく、工場のワーカーとほぼ同レベルか、やや少ない約4000元未満(約6万4000円以下)。だが、社会に出てまだ2年しか経っていない黄さんにとっては、決して少なくない金額だ。

 しかし、物価の高い深せんに住んでいるので、暮らしぶりはつつましい。平日の投稿は会社帰りに買ったお弁当の写真。週末には友人と公園でソフトクリームを頬張ったり、映画を見に行ったりしたときの楽しそうな写真。ごくたまに、ショッピングセンターでアクセサリーや化粧品を買うことが、数少ない贅沢だ。

 今年から子猫を飼い始め、子猫の動画を投稿する機会が増えた。彼女によると、深せんの街角では、子猫は「20~30元(約320~約480円)で買える」そうで、投稿を見ていると、まるで自分の分身のようにかわいがっている。

待ち望んでいた一家団らん

 世界中の中国人が国慶節の祝賀行事の生中継を待ちに待っていたとき、黄さんは大混雑する深せんのバスターミナル駅に立っていた。各地方の町まで行く長距離バスの乗り場で、やっと入手したバスの切符の写真を私に送ってくれた。

両親のもとに帰省するバスのチケット(写真提供:黄さん)
両親のもとに帰省するバスのチケット(写真提供:黄さん)

「これから帰省して、両親と弟とともに連休を過ごします」

 4年前に取材したとき、黄さんと弟は湖南省に住み、両親は広東省で出稼ぎをしていた。湖南省の田舎から広東省の大都市までは長距離バスで10時間以上もかかる。

 両親とは幼いころから長い間離ればなれで、長期休暇であっても会えないこともあり、ずっとさみしい思いをしてきたと話していた。

 だが、今は両親も同じ広東省内の別の地方で働いているので、バスに3時間ほど乗れば再会できる。

 彼女にとっては、軍事パレードの視聴よりも、何よりも大事だ。

父親が作ってくれた料理。黄さんの好物だという(写真提供:黄さん)
父親が作ってくれた料理。黄さんの好物だという(写真提供:黄さん)

 昨日、家族4人で一緒に撮った晴れやかな笑顔の写真がSNSに投稿された。

 黄さんもうれしそうだが、両親はもっとうれしそうに微笑み、娘の姿を見守っている。

 めったに会えない父親が作ってくれたという手料理の写真も一緒に――。

 強大になった国家の華々しいニュースは一段落したが、黄さん一家の団らんは、あと3日間続く。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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