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アップル、新興企業を次々買収 ネットラジオや電子書籍の拡充が狙い

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米アップルはここ最近、新興企業を矢継ぎ早に買収しているようだ。今週は「スウェル(Swell)」というインターネットラジオのアプリケーションを手がける米企業を買収すると複数の米メディアが報じた。また先週は、書籍解析技術を手がける「ブックランプ(BookLamp)」を買収したと伝えられた。

アップルは詳細について明らかにしていないが、いずれもアイフォーンやアイパッドなどのプラットフォームで展開する同社サービスを拡充する狙いがあると見られている。

「Podcast」「iTunes Radio」を強化

このうちスウェルを手がける「Concept.io」という企業のウェブサイトは7月29日に閉鎖された。

同日朝のメディア報道があった時点では、ウェブサイトに同社サービス関する詳細や、会社の成り立ち、経営者など様々な情報が掲載されていた。

しかし今はサービス終了の告知と感謝のメッセージだけが表示されている。おそらくアップルとの交渉がまとまったのだろう。

スウェルは、ニュースやポッドキャストといったトークコンテンツのラジオアプリだ。インターネットラジオは、音楽が専門の米パンドラメディアのサービスや、アップルの「アイチューンズラジオ(iTunes Radio)」などが知られているが、スウェルは会話コンテンツが中心のアプリとなる。

スウェルは、自動車を運転しながらでも手軽に扱える大きなボタンなど、シンプルな画面操作を特徴としている。利用者がコンテンツを聴いたり、スキップしたりするとそれを学習し、好みのコンテンツを判断、以降の配信に反映させるという仕組みもある。

米Re/codeなどの報道によるとアップルは、スウェルの技術やサービスを自社の「ポッドキャスト(Podcast)」に組み込むと見られている。また米シーネットは、アイチューンズラジオのサービス強化にスウェルの技術が使われる可能性があると報じている。

「iBooks Store」にアマゾンのような推奨機能

アップルが買収したもう1つの企業、ブックランプは書籍テキストの内容を解析、分類し、利用者の好みに合った書籍を推奨する「ブック・ゲノム・プロジェクト」を手がけている。

こちらもすでにサービスを終了しており、ウェブサイトには同様に「支援をありがとう」とのメッセージだけが掲載されている。

そして、ブックランプの技術も、アップルの既存サービスに組み込まれると見られている。そのサービスとは書籍販売ストアの「アイブックストア(iBooks Store)」。

アップルはアイパッドなどのモバイル端末やパソコン「Mac」向けにアイブックストアを提供しているが、米アマゾン・ドットコムにあるような優れたレコメンデーション機能がない。ブックランプの技術を導入することで、同社はターゲット広告や書籍版プレイリストなども提供できるようになると指摘されている。

アップル、今年度はすでに30社を買収

報道によると、スウェルの買収金額は約3000万ドルで、ブックランプは1000万〜1500万ドル。なお、アップルが今年5月に買収を決めた米ビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)の買収金額は30億ドルだったが、これはアップルとしては異例の大型買収。

同社はこれまで小規模な新興企業を数多く買収しており、自社のサービスに技術を取り入れてきた。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は先日の決算発表で2014会計年度の買収案件について語ったが、それによると、今年6月末までの9カ月間に同社がまとめた買収件数は29件だった。

JBpress:2014年7月30日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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