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バカにならなきゃ恋じゃない。失った恋人に執着してしまう人たちへ~失恋ミュージアム15回記念に寄せて~

大宮冬洋フリーライター
失った恋の記憶を蒐集する「失恋ミュージアム」からのお便りです(写真:アフロ)

恋をしているときは必ず視野が狭くなっている

 最後に失恋をしたのはいつだっただろうか。今年で43歳になる既婚者の筆者は正確に思い出せない。でも、恋を失ったときの強烈な苦しさだけは何となく覚えている。体のどこかが欠けてしまったような喪失感。激しい後悔。もう二度と戻らない甘い体験を繰り返し思い出し、部屋の中で泣いたこともあった。毎日が辛いのに、「生きている」という実感は普段よりもなぜか大きい。片想いをしているときこそが本当の恋なのだと、昔の人が言ったことをしみじみと噛みしめる。

 昨年から「失恋ミュージアム」という連載を続けている。失った恋について老若男女に語ってもらい、できるだけ具体的かつ客観的に書き出し、ふさわしいイラストを添えて飾るという企画だ。数年前に別れた前夫のことを怒りとともに思い出す人もいれば、フラれたけれど諦められずに苦悩している人もいる。執着の一部はミュージアムに預けることですっきりしてほしい。

 すべての人に共通するのは「恋をしているときは必ず視野が狭くなっている」ことだ。もっと露骨に言えば、バカになっている。第三者として聞いていると、たいして優しくも美しくも賢くもない相手をなぜか大好きになり、他の人は視界に入らなくなる。特に、失恋をした後は目の前に相手がいない分だけ想像力が増し、気持ちが高まりやすい。愚かだ。そして、愛おしい。

相手にではなく、自分の想いと記憶に執着している

 しかし、失恋が苦しすぎて集中力が低下して事故に遭ったり、仕事などで重大なミスをおかすことは避けたい。人によっては自暴自棄になったりストーカーになってしまうこともある。せっかく恋という美しい経験をしたのに「嫌なヤツ」になってどうするのか。もっと自分を大事にしてほしい。

 失恋の傷が癒えるには時間が必要だ。ただし、15人への取材を通して、ある考え方をすると早めに楽になりやすいとわかってきた。まずは「バカになっている」自分を認めること。恋を否定したり、無理に忘れようとしなくてもいい。「世の中には他にも素敵な人はたくさんいるのに、その中の一人に執着している自分はバカだな。でも、仕方ない。人間だもの」と相田みつを風につぶやいてみよう。

 次に、なぜ執着するのかを考える。失った相手が「世界で一番素晴らしい人だから」とか「運命の人は他にいない」と言い切ることは誰もできない。世界にいる77億人と親しく語り合うことは不可能だからだ。そうすると、大好きな相手ではなくて、その人に捧げて深めた自分の想いと記憶に執着しているのだと気づく。想いと記憶こそがかけがえのないものだ。

 ならば、失恋ですべてを失うわけではないと断言できる。誰かに無償の愛を捧げた体験は、自分という人間を磨いて深めていくために極めて有用だから。それは、もっと昔に経験した恋と現在の自分との関係を見つめれば明らかだろう。優しくて面白い人ほど、素晴らしくもせつない恋の思い出を持っているものだ。

 失った恋はあなたの体の中で生きている。キラキラと輝く美徳として、また誰かを好きになるためのエネルギー源として。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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