ドイツの公営国際放送「ドイチェ・ヴェレ（ＤＷ）」は昨日（９日）、北朝鮮の建国７５周年関連報道で金正恩（キム・ジョンウン）総書記の後継者問題を取り上げていた。

　「ＤＷ」は金総書記の愛娘が昨年１１月から頻繁に父親の視察に同行し、２月の人民軍創建７０周年の軍事パレードに続いて９日の建国７０周年の閲兵式でも雛壇に登壇していたことから「この娘がいつの日にか共産国家北朝鮮の元帥として権力を掌握するため訓練を受けている状況が伝えられている」と報じて、後継者になる可能性を示唆していた。

　「ＤＷ」は日韓の報道に倣ってこの娘が「ジュエ」という名の第２子という前提で伝えているが、北朝鮮からの公式発表がない限り、正直言って、この娘が第１子なのか、それとも第２子なのか、また、本当に名前が「ジュエ」なのか、正確なことは何一つわからないのが実情である。

　唯一、判断材料となるのが、金総書記が１０代の頃の１９９８年から２０００年までスイスのベルン国際学校に留学していた時の同級生、ジョエル・ミカエロ氏の証言である。

　ミカエロ氏は今年５月２４日に米ラジオ・フリー・アジア（ＲＦＡ）の電話インタビューで金正恩政権が発足した年の２０１２年７月と翌２０１３年４月に２度、金総書記に招待され、訪朝していたことを明らかにしていた。

　ミカエロ氏によると、２０１２年に訪朝した際に金総書記が催した小宴で李雪主（リ・ソルジュ）夫人を紹介され、その際、金総書記から夫人が妊娠していることを直接聞かされたとのことだ。また、ミカエロ氏は翌年に再訪朝した時も金総書記から「妻が娘を産んだ」という話を聞かされたと語っていた。そのうえで訪朝中に金総書記からは「息子の話は全く聞かされていない」と答えていた。ミカエロ氏の証言とおりならば、この愛娘は第１子で、満１１歳である。

　もう一人証言者がいる。プロバスケットボール（ＮＢＡ）の元スター選手、デニス・ロッドマン氏である。

　ミカエロ氏の２度目の訪朝から５か月後の２０１３年９月に訪朝したロッドマン氏は金総書記の別荘に招かれているが、帰国後英紙「ガーディアン」とのインタビューで「金正恩氏に『ジュエ）』という名前の女児がいる」と明らかにしていた。

　ロッドマン氏の情報により「ジュエ」と言う名前が今では定着しているが、毎日新聞の元中国総局長で外信部デスクだった西岡省二氏は「（この娘の）名前は正しいのか」と疑問を呈している。

　西岡氏は今年４月１８日にヤフーに掲載した「金正恩氏の“名前未公開”娘、乗馬と水上バイク訓練で『次世代の象徴』に」と題する記事の中で北朝鮮情勢に詳しい専門家の話を引用し、「そもそも『ジュエ』という名前は正確なのか。ロッドマンがどこまで朝鮮語を解するか、はっきりしない。金総書記夫妻が『チョ、エ（あの子）』と言ったのが、ロッドマンには『ジュエ』に聞こえたという話もある。つまり『チョ、エ』を、その子の名前だと解釈した可能性がある」と指摘していた。

　どちらにしても、北朝鮮のメディアに登場している金総書記の愛娘は２０１２年生まれの「ジュエ」とされているが、「金正恩には３人の子供がいて、第３子は性別不明だが、２０１０年に生まれた第１子は長男である」との韓国情報機関「国情院」の説が崩れ、この愛娘が長女ならば、後継者になる可能性は大である。

　娘が初めてお披露目されたのが大陸間弾道ミサイル（ＩＣＢＭ）「火星１７」が発射された２０２２年１１月１８日である。この時は母親も一緒だった。

　朝鮮中央放送は「火星１７」の発射場に「金総書記が愛するお子様と夫人と共に出向いた」と伝え、朝鮮中央テレビにはミサイル発射場で白いダウンジャケットを着た娘が父親と手を繋いだ写真が何枚も映し出されていた。

　今年２月に健軍７５周年の軍事パレードでも娘は母親と一緒だったが、ヘアースタイルも服装も一段と大人びていた。

　そして、９月９日の建国記念日には半そで姿で表れたが、腕時計がはめられていた。仮に２０１２年生まれならば、まだ１１歳である。