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その“映画上映中の拍手や光”は本当にマナー違反?改めて知る応援上映とは何なのか

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:イメージマート)

『鑑賞中はお静かに』という呼びかけの下、お喋りやスマホの使用などが厳しく禁止されている映画上映。

そんな中、普段なら絶対に許されないような、声援やペンライトの使用、拍手などの行為が許された特別興行があるのをご存知でしょうか。

この記事をご覧の人の中にも、普通に映画を観に行ったはずが、そうした場面に遭遇して驚いた経験のある方が、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。

その特別興行とは、一体どのような上映なのでしょうか。

■近年定着してきた興行形態:応援上映

上映作品毎に名称やルールは異なりますが、主に声援やペンライトの使用、拍手やコスプレなどが行える特別興行は、“応援上映”と呼ばれています。

以前から「映画プリキュア」シリーズや「アナと雪の女王」などで類似する興行も行われてきましたが、現在の形式で定着するようになったのは、2016年に公開されたアニメ映画「KING OF PRISM by PrettyRhythm」の応援上映が注目を集めたことがきっかけです。

その後も、「プロメア」や「劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム」といったアニメ作品をはじめ、「ボヘミアン・ラプソディ」や「アベンジャーズ/エンドゲーム」といった実写映画でも実施されるなど、IMAX※や4DXほどとはいかないまでも、日本の興行界におけるお馴染みの上映形態のひとつとして徐々に定着してきました。

  • ※表記はこの位置にRマーク

とはいえ、何となく聞いたことはあるけれど、実際に上映中のシアター内がどうなっているのかは、知らない人も多いと思います。

例えば上記「KING OF PRISM by PrettyRhythm」の応援上映では、上映中にこのような応援が行われていました。

こちらはあくまで一例で、前述の通り、作品毎に細かなルールや応援方法も異なり、客席の埋まり具合によっても盛り上がり方が変わるため、同じ内容の映画であっても、まるで生ものの舞台のように上映回毎に異なる鑑賞体験ができるのも特徴です。

コロナ禍以降は、感染拡大防止のために発声が禁止されていますが、現在もペンライトや拍手といった声援以外の方法で応援を行う“無発声応援上映”という形で実施されていて、最近も、話題の映画「ONE PIECE FILM RED」で、同条件での「ウタLIVE in 映画館《無発声応援上映》」が実施されたことが話題になりました。

■それは本当にマナー違反?

そうして特に2016年以降、徐々に定着してきた応援上映ですが、それでもまだまだ完全には認知されておらず、その上映回が応援上映であることや、応援上映が何であるかを知らない人が、声援(※コロナ禍以前)や拍手、ペンライトに対して、『うるさい』『眩しい』といった苦言を呈し、参加者が応援を自重せざるを得ないといった状況もしばしば生じているそうです。

というのもこの応援上映、イベントやライブなどのように開催日が決まっていて、特別な方法でチケットが販売されるのではなく、通常の映画と同様に連日上映が行われ、同じように座席も販売されることが多いため、作品を普通に鑑賞しようとした人が、応援上映とは知らずにチケットを購入し、そのまま鑑賞してしまうことも少なくないのでしょう。

いくつかの作品では、映画本編の前にその上映回が応援上映であることや、応援上映形式で上映される回があることが説明されるのですが、そうした案内がない作品では、殊更その上映回が応援上映であることが見逃され、上記のようなトラブルも生じやすいようです。

前述の通り、日本の興行は上映中のマナーが厳しいため、応援上映と知らずに参加した人にとっては、上映中急に声援や拍手、ペンライトを使って盛り上がる様子は、作品ファンの行き過ぎたマナー違反行為に映ってしまうかもしれません。

しかしここまで説明してきた通り、近年の映画館では、そうした“応援をしたい人のために設けられた上映回”が存在しているのです。

知らなかったという方は、今後そのような場面に遭遇した際、驚いて頭ごなしに批判してしまう前に、まずはぜひ購入した上映回が応援上映ではないか、確認してみることをオススメします。(もしも応援上映ではない上映回で応援行為をしていたらそれはマナー違反です)

まだまだ誤解や購入間違いが無くなるほど認識されるには時間がかかるかもしれませんが、まずはそんな特別興行があるということだけでも認識が広がり、静かに鑑賞したい人、応援をしながら鑑賞したい人、それぞれが望んだ形で鑑賞を楽しめるようになることを祈るばかりです。

因みに、万が一応援上映と知ってチケットを購入したうえで、ルールを守っている応援に対して『うるさい』『眩しい』といった苦言を呈していたとしたら、それはたとえるなら“わざわざお寿司屋に行ってハンバーガーが無いことに文句を言っている”のと変わりません。ぜひとも静かに鑑賞したい人達のために設けられている通常上映回に参加してみてください。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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