データが示す内田篤人の本当の価値とは?
キプロス戦でA代表2得点目となる決勝ゴールを記録した内田篤人。タイミング良く攻め上がり、混線からうまく流し込んだファインゴールだったが、そうした得点は彼を評価する上での付加価値に過ぎない。
ライン際を駆け上がってのクロス、サイドアタッカーに対するタイトなマーク、柔軟なカバーリングなども見事だが、世界レベルで彼が発揮しているスペシャリティは別のところにある。それは幅広く、正確に組み立てるビルドアップのセンスだ。
『サッカーの見方が180度変わるデータ進化論]』(ソル・メディア)の1テーマとして「パス」を扱った時に驚かされたのが、シャルケにおけるパスの多さだった。サンプルに使ったのはチャンピオンズリーグ13-14のプレーオフ。ホーム&アウェーの2試合における選手のパス本数を90分に換算してみると、右サイドバックの内田が参加20チーム全体の3位に入ったのだ。
内田は2試合で171本のパスを記録。90分で平均86.5本のパスを出したことになるが、この数字はチーム全体で1387本のパスを記録したシャルケの中にあっても際立っていた。それだけ内田がパスの供給源として機能し、安定したつなぎのパスからチャンスの起点となるパスまで、多くの局面で頼りにされているのだ。
ブンデスリーガでもしばしばチーム最多のパス本数を記録している内田。正確で効果的なビルドアップのベースとなっているのが柔軟なポジショニングだ。流れに応じて細かく上下動するのは攻撃的な左の長友とバランスを取っていることもあるが、ボランチやセンターバックと高さを調整し、角度のあるパスを受けられる様にするためでもある。
しかも、パスを受ける時に攻撃と守備の動きを同時的に見極め、素早く冷静にパスを選択している。時に厳しいプレッシャーをかけられても、相手の迫り方に応じて左足のトラップから右足でパス、右足から左足、スペースにボールを運んでからのパス、あるいはダイレクトといった具合にパスの出し方を変えることで、ボールロストやミスパスのリスクを大幅に減らすことができているのだ。
ところが日本代表に目を移してみると、例えば昨年のコンフェデレーションズカップにおいて、内田は194分の出場時間で112本。1試合あたり54本となり、遠藤、香川、本田には及ばない。シャルケほど際立った数字にならないのは「左サイドでチャンスを作り、右サイドから岡ちゃん(岡崎)が決めるのが日本の形」という内田本人の証言通り、左サイドが主な起点となる事情からだろう。
それでもサイドバックとしては高いパス本数であり、長友を上回っている。左とのバランスを取りながらも随所に能力を発揮し、預けどころとしても機能しているのは確かだ。爆発的な攻撃力を発揮する左の長友と比較するとプレー自体は地味に映る部分もあるかもしれないが、堅実な中にも高い技術とビジョン、冷静さを発揮できる内田の存在価値は得点数やアシスト数、クロスなどでは測れないものがある。
現時点でも安定したパスの出し手として十分に機能しているが、シャルケと同じとは言わないまでも、もっと高い頻度で内田をパスワークに絡められれば、攻撃の幅はさらに広がるのではないか。