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冬将軍、いよいよ本領発揮か? 渡辺明棋王(37)大熱戦を制して防衛に向け先勝 棋王戦五番勝負第1局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月6日。静岡県焼津市・焼津グランドホテルにおいて第47期棋王戦五番勝負第1局▲永瀬拓矢挑戦者(29歳)-△渡辺明棋王(37歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は19時16分に終局。結果は140手で渡辺棋王の勝ちとなりました。渡辺棋王は後手番で勝利し、棋王戦10連覇に向けて幸先よいスタートを切りました。

 第2局は2月19日、石川県金沢市・北國新聞会館でおこなわれます。次局に向けて、両対局者は次のようにコメントしました。

渡辺「開幕戦から大変な将棋だったので、またそういう戦いにはなるかと思うんですけども、せいいっぱいがんばっていきたいと思います」

永瀬「内容をよくしてがんばりたいと思います」

 両者の対戦成績はこれで渡辺17勝、永瀬5勝となりました。

 公式戦5連敗中だった渡辺棋王は、年が明けてから初勝利となりました。

渡辺棋王、相手玉を自陣でとらえる

 振り駒で先手は永瀬挑戦者。角換わり模様の立ち上がりから、後手番の渡辺棋王は角筋を止めて雁木に組みました。

永瀬「雁木に対してこちらがどうするかという将棋だったと思うんですけど」

 永瀬王座が序盤早々から動いたのに対して、渡辺棋王は1歩損で局面を収めます。

渡辺「ちょっと序盤でなんか、軽率な手を指してしまって。ちょっと予定ではなくなってしまったんで。そうですね、ちょっと軽率だったですね、序盤は」

渡辺「基本ちょっと無理気味の動きをすることにはなりますね。歩損してるんで」

 矢倉に組んだ永瀬挑戦者は、相手の動きに応じながら上部に盛り上がっていきます。

永瀬「(45手目▲7六銀のあたりでは)不満はないつもりではあったんですけど、ただちょっと組み立てが変だったかもしれないので。そこはよくわからない気がします」

 形勢はほぼ互角のまま、盤面全体で戦いが始まりました。渡辺棋王の飛筋が素通しのまま、永瀬挑戦者は自玉上部で妥協せず、相手の攻め駒を圧迫していきます。

永瀬「(63手目▲8四歩の代わりに▲2四歩は?)えーと、そこだと・・・。なんでしょう。ああ・・・。△6八歩(王手で飛の横利きをさえぎる)▲同飛車を気にしてたような気はするんですけど。うーん、なんかたしか本譜、△4五歩が入って2筋(の歩の突き捨て)が完全に入らなくなってしまったので、うーん、▲2四歩をつけるタイミングがわからなかったですけど。▲8四歩△同飛車▲7六金打よりは▲2四歩でしたか。ちょっとよくわからないんですけど」

渡辺「(66手目、角取りに突き出した)△4五歩、△2二玉のあたりは感じがいいかなと思ってたんですけど。ただそのあとなんか・・・。うーん、なんかちょっとおかしなことをして、あんまり、そのあとは基本的に自信はなかったです。(70手目、飛車取りの△2七銀は?)いや、銀自体はいい感触かな、と思ったんですけど。そのあと何手かやってるうちに、なんかやっぱりいまいちだったかなっていう感じで思い直して」

 渡辺棋王ややよしで迎えた76手目。渡辺棋王は相手陣に角を打ち込む強手を放ちます。これが飛車取り。互いに駒が当たり合う、複雑な終盤戦。永瀬陣は危ない形ですが、永瀬挑戦者は受けず、取れる角も銀も取らず、じっと相手の雁木に向けてと金を寄せます。これが渡辺棋王が見落としていた好手でした。

渡辺「(76手目は)ちょっとほかの手がよかった気がしますね。△8七角、無視されちゃったんで。そっからはなんかあんまり自信ないな、と思いながらやってました」

永瀬「こちらの金銀がはたらいていればそんなに薄くないのかな、という気はしました」

 渡辺棋王は飛を手にして永瀬陣に打ち込み、攻め続けます。しかし永瀬玉は、そう簡単には寄らない。きわどいながらも上部に逃げる希望が生まれ、形勢は混沌とします。

渡辺「なんか本譜じゃでも、後手が自信がなさめですよね」

永瀬「なんかいいのかもしれないと思ってしまったんですけど、難しかったですか」

 永瀬挑戦者も相手の飛車を取り返し、その飛車を王手角取りに打ちながら駒得に。上部も開け、形勢は好転したようにも見えましたが、しかし難しい。

 106手目、渡辺棋王は金取りに歩を打ちます。これが難しい対応を迫る、さすがの勝負術でした。玉、龍(成り飛車)、金と3つの駒が利いている焦点で、どう応じても味がわるい。持ち時間4時間のうち、残りは永瀬40分、渡辺38分。永瀬挑戦者は5分考え、強く玉で応じました。いかにも強者らしい一手でしたが、本局ではよくなかったようです。

永瀬「(終盤は)判断が常に難しい気はしたんですけど。(106手目)△7六歩▲同玉が変だったかもしれないですけど、ちょっと難しくてよくわからなかったです」

 2月4日におこなわれた竜王戦1組2回戦。渡辺棋王は八代弥七段の入玉を阻止できずに敗れています。本局、渡辺棋王は相手の入玉に気をつけながら、上下はさみうちの形で寄せの網をしぼっていきました。

渡辺「やっぱり入玉を阻止しないといけないんで。そうですね、ちょっと時間がないので、なんかいやなことが起きるかもしれないな、とは思ってたんですけど」

 苦境でも決してあきらめることのない永瀬挑戦者。玉はついに渡辺陣にまで到達します。渡辺棋王は頭に手をやりながら、永瀬玉を逃がすことなく追い詰めました。

渡辺「(入玉してきた相手玉に対して、136手目)△4一角の王手をして、ちょっと残ってるかなとは思ってたんですけど。まあただ、入玉には気をつけないといけないなと思ってました」

 140手目。渡辺棋王は自陣二段目に飛車を打って王手。相手玉が一段目にもぐる一手に、龍を引き上げれば詰んでいます。「冬将軍」と呼ばれる渡辺棋王が大熱戦を制し、10連覇に向けて、まずは1勝を挙げました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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