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G7 安倍ドクトリンでオバマ大統領はリーダーシップを取り戻せ

木村正人在英国際ジャーナリスト

安倍晋三首相は4日からブリュッセルで始まる主要7カ国(G7)首脳会議に出席する。ロシアでG8首脳会議が開かれる予定だったが、ロシアのプーチン大統領によるウクライナのクリミア編入で、急遽、ロシアを外してG7に切り換えられた。

ポイントは、オバマ米大統領がロシアの侵略と、南シナ海と東シナ海で領土的野心をむき出しにする中国に立ち向かう断固たる意思とリーダーシップを示せるかだ。

3日、ロンドンではシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)主催のロンドン会議「グローバリゼーションと世界秩序」が開かれた。キーワードは「封じ込め(contain)」だった。

筆者はストリーミングで会議を傍聴した。注目したのは、英国のヘイグ首相が基調講演のあとの質疑応答で、先のアジア安全保障会議(シャングリアダイアローグ)で安倍首相が表明した安倍ドクトリンに「歓迎」の意を表明したことだ。

安倍ドクトリンの概要

(1)巡視艇の供与や専門家の派遣など政府開発援助(ODA)の戦略的活用、自衛隊による能力構築の支援、防衛装備協力を組み合わせ、「航行の自由」を守るため東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の能力を支援

(2)法の支配3原則(イ)法に基づく主張(ロ)力を用いない(ハ)平和的解決を提唱

(3)南シナ海の領有権をめぐるフィリピンとベトナムの対応を支持

(4)関係国が一方的行動をとらないと約束した2002年の行動宣言(DOC)に立ち返る。日中が合意した不測事態回避の連絡メカニズムの実施

(5)東アジアサミット(EAS)を地域の政治・安全保障を扱うフォーラムとして強化するため常設委員会の設置

ヘイグ外相「日本が広範な意思を示したことを歓迎する。安倍首相が集団安全保障のため大きな役割を果たすと表明したことは重要なことだ。緊張を悪化させないよう話し合いと同時に実行することが大切になる」

G7首脳会議でも、安倍ドクトリンへの支持と、ロシアの侵略、中国の冒険主義に対する非難を盛り込む方向で日本政府が懸命の調整を進めていることをうかがわせた。安倍ドクトリンはオバマ大統領への大きな援軍になる。

「世界を再均衡させる第一歩」というこの日のセッションでは、英紙フィナンシャル・タイムズの著名コラムニスト、フィリップ・スティーブンス氏が「10年前、欧米は既存の国際システムの中で中国を『責任あるステークホルダー』と位置付け、ロシアは欧米と統合する利益を理解するだろうと考えていたが、今になってどう思うか」と質問した。

先の中ロ首脳会談で結束を強調した中国の習近平国家主席は今や、冷戦思考に凝り固まったプーチン大統領と同列に扱われている。

パネラーの米ハーバード大学ケネディスクールのニコラス・バーンズ教授は「中国が高度な責任を負う大国であることに変わりはない。北朝鮮の金正恩第一書記を封じ込めるのにも中国が必要だ。米国は北京と緊密に話し合っているが、問題を協議するにつれ、対立が生じている。中国は安全保障の問題になっている」と話した。

バーンズ教授は「米国はアジアから立ち去るな」と強調した。同教授はブッシュ政権の2005~08年に米国務次官(政治担当)を務め、米国とインドの民生用原子力協力を実現させたベテラン外交官だ。

米紙ボストン・グローブ(電子版)への寄稿で、バーンズ教授は「冷戦でソ連を打ち負かすため、レーガン米大統領はまず米国の核となる強さを再構築することが不可欠だった」というシュルツ元米国務長官の言葉を引き、「ロシアの侵略と中国の冒険主義を封じ込める(contain)ためには、米国は外交力、経済、軍事力を強化することが必要な前提条件になる」と書いている。

米国の元ベテラン外交官が「contain」という言葉を使ったことは、変わり始めた米国の空気を表しているのかもしれない。クリントン米政権以来、米国は中国に対し一貫して「関与(engage)」政策をとってきたからだ。

ソ連が崩壊した1991年、オバマ大統領はハーバード・ロー・スクールを修了したばかり。一方、プーチン大統領は前年の90年、ソ連国家保安委員会(KGB)に辞表を出し、政界進出の足掛かりを得ようとしていた。

政治家として冷戦を知らない「ウィンウィン思考」のオバマ大統領と、冷戦をKGBの中で生き抜いた「ゼロサム思考」のプーチン大統領とではお話にならない。

バーンズ教授は別のインタビューで、「オバマ大統領は東欧とアジア諸国のために旗を掲げよ」と檄を飛ばしている。

これに対して、もう1人のパネラーの発言が面白かった。中国通というより親中派のラッド前オーストラリア首相である。

「中国は歴史的に、外国は恐ろしいと考えている。21世紀、中国は世界に貢献してきたのに、結局は封じ込められている(contained)というのが中国内部の結論だ」

「北京の友人は私にこう語った。中国を封じ込める(contain)ことができる国が一つだけある。それは中国だ。中国の政策によって近隣諸国が米国のアジア回帰を求めているのに、中国は米国が近隣諸国をけしかけていると誤解している」

「米国とオーストラリアの同盟関係は変わらない。中国に関与政策をとったことで、大胆に合意したこともあったし、対立したこともあった」

グローバリゼーションの最大の勝者は誰か。国民1人当たりの国内総生産(GDP)を1990年の314ドルから2012年には6091ドルに増やした中国だ。経済協力開発機構(OECD)のデータをもとに11年のGDPと2030年のそれを比較すると次のようになる。

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この予測はグローバリゼーションが継続することを前提にたてられている。しかし、ロシアのクリミア編入と中国の冒険主義がグローバリゼーションの未来を脅かしている。

環太平洋経済連携協定(TPP)にも環大西洋貿易・投資連携協定(TTIP)にも新興国のBRICsは含まれていない。経済のブロック化が進み、中国の経済成長にさらなるブレーキがかかる可能性がある。

オバマ大統領はカギを握るインドのモディ首相との関係改善を急ぐだろう。安倍首相が橋渡し役を務めるチャンスもある。

米国家安全保障会議(NSC)の元関係者は筆者に「アジアでは、中国が米国最大の外交官だ」と解説する。中国が脅威になったおかげで、ミャンマーをはじめ、フィリピン、ベトナムまで米国との関係を強化している。中国がオバマ大統領のアジア回帰政策の追い風になっている。

日本は日米同盟を強化し、集団的自衛権の行使容認に向け憲法解釈の変更を検討している。トウ小平以来、約30年続いた「韜光養晦(野心を隠して、力を蓄える)」の外交政策を転換したことで、中国は自ら孤立してしまった。

シュルツ元国務長官の言葉は日本にも当てはまる。まず、自分から歴史問題を蒸し返して、先の大戦と同じ孤立状況に陥らないことだ。日本は、日本の強さである経済力を復活させることが急務である。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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