室温かつ低圧で超伝導物質を新発見!超伝導の基本と新発見の室温超伝導物質を解説
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「室温で超伝導状態になる物質を新発見!?」というテーマで動画をお送りしていきます。
先日、室温で超伝導状態を示す画期的な物質が発見されたと発表があり、大きな話題を呼んでいます。
今回の動画では超伝導に関する基本的な知識と、室温超伝導の最新の話題を解説していきます。
●超伝導体が持つ代表的な性質
超伝導という言葉自体はたまに耳にすることもあるかと思います。
では超伝導状態になっている物質(超伝導体)は、どのような性質を持っているのでしょうか?
○電気抵抗が0になる
物質は電気をよく通す導体、通さない不導体(絶縁体)、中間の性質を持つ半導体に分類できます。
金属などの導体でも電気抵抗があり、電流が流れると電気エネルギーの一部が損失します。
そして失われた電気エネルギーはジュール熱と呼ばれる熱エネルギーに変換されます。
電気抵抗は、導体の温度が下がるほど小さくなります。
温度とは固体を形成する原子の振動であり、その振動が小さくなると、電子の流れ(電流)が邪魔されにくくなるイメージです。
導体の温度を下げると、ある一定以下の温度で突然電気抵抗が0になることがあります。
これが「超伝導」と呼ばれる状態です。
突然電気抵抗が0になるメカニズムはとても面白いものの少し複雑な上、そこまで知らなくても本動画は楽しめるので、本動画の末尾に補足として説明したいと思います。
○マイスナー効果を示す
磁石の上に超伝導体を置く場合を考えてみましょう。
この時、超伝導体は磁場の影響を受けるものの、超伝導体の表面付近に磁場の侵入を防ぐ方向の誘導電流が流れ続けることで、超伝導体内部に磁場が侵入しなくなります。
これは「マイスナー効果」と呼ばれる、超伝導体が示す特有の現象の一つです。
通常、金属に磁石を近付けるとくっつくか、反応しませんが、超伝導体の場合反発します。
超伝導体内部に不純物が含まれているなどの理由で、超伝導体の一部が常伝導状態(超伝導ではない状態)のままである時、磁場が常伝導部分に流れ込んで固定されることがあります。
このように磁力線が超伝導体を貫いたまま固定され、超伝導体全体が空中で安定する現象は「ピン止め効果」と呼ばれます。
これらをはじめとした特異な性質を示す超伝導体を活用することで、送電線における電力のロスを抑えたり、リニアモーターカーや核融合炉など革新的な技術にも応用できることが期待されています。
●夢の室温超伝導
超伝導になれる物質が、実際に超伝導状態になる温度は、物質によって異なります。
超伝導は基本的に、絶対零度付近の極低温でしか起きません。
1911年には、水銀を温度を4.2Kまで下げることで世界で初めて超伝導が確認されました。
K(ケルビン)は温度の下限である絶対零度(-273.15度)より何度高いかを示した温度の単位です。
4.2Kは約-269度で、絶対零度に極めて近い低温です。
低温にするには様々なコストがかかるため、比較的高温でも超伝導状態になる物質(高温超伝導体)が探し求められてきました。
大気圧で超伝導に至る最高温度は、「Hg-1223」と呼ばれる物質が持つ「135K(-138度)」という記録です。
その後、大気圧の数百万倍という超高圧環境下に限り、さらに高温でも超伝導に至る物質が次々と発見されました。
これまで発見されていた中で正式に認められていた最高温度での超伝導体は、ドイツのマックスプランク研究所が発見した「ランタン水素」という物質で、170万気圧であれば250K(-23度)という高温で超伝導体になります。
●室温かつ低圧での超伝導体を新発見!?
ロチェスター大学などの研究チームは、2023年3月、室温かつ低圧で超伝導状態に至る物質を新たに発見したと発表し、世界的に大きな話題を呼んでいます。
室温で超伝導状態に至る新発見の物質は、「窒素を含んだルテチウム水素化合物」という物質です。
常圧では青色ですが、圧力をかけると変色し、超伝導性を示すようになります。
3000気圧を超えるとピンク色になり、この状態では-102度以下にすると超伝導体になるそうです。
そして1万気圧の環境下では、約21度で超伝導体になるそうです。
この物質はさらに圧力をかけると赤色に変色します。ただし超伝導に至る温度はより低温が必要になります。
従来は超電導状態に至るには、数百万気圧と室温よりもずっと低い温度が求められていましたが、それらと比べると今回の物質は非常に低圧で、かつ室温で超伝導に至る点が画期的といえます。
○今回の発見の懸念について
この画期的な発表に対して実は大きな懸念があり、世界中の科学者は手放しに喜ぶことができていません。
その懸念とは、今回の論文を発表した研究チームのメンバーの一部が、以前別の物質が「室温超伝導」に至ったとnatureで発表をしていましたが、その論文が2022年9月に撤回されていることです。
撤回の理由は、物質が超伝導状態に至ったと証明するために得られたデータが不完全であり、他のチームによる超伝導体の再現の成功例も得られなかったためです。
今回新たに発見された超伝導体も今後再現実験が行われ、それが本当に超伝導状態に至るのかが問われるでしょう。
これが世界初の室温超伝導の例と正式に認められるのか、決着がつくのはもう少し先になりそうです。
●超伝導が起こるメカニズム(BCS理論)
超伝導現象が起こる基本的なメカニズムは、「BCS理論」という理論で語られています。
他の普段の内容と比べると難解めですが、解説します。
○フェルミ粒子とボース粒子
物質を拡大していった先に現れる粒子は、「フェルミ粒子」と「ボース粒子」に分類できます。
原子を構成する電子、陽子、中性子は全て単体ではフェルミ粒子であり、陽子や中性子が奇数個集まってできた原子核もフェルミ粒子です。
一方、フェルミ粒子が偶数個集まって形成された粒子はボース粒子に分類されるため、陽子や中性子が偶数個集まってできた原子核はボース粒子です。
つまり陽子を2つ含む同じヘリウム原子核でも、中性子を1つ含むヘリウム3はフェルミ粒子であり、中性子を2つ含むヘリウム4はボース粒子に分類され、これらは全く異なる性質を示します。
○パウリの排他原理とBEC
パウリの排他原理によると、フェルミ粒子は一つのエネルギー準位内に2つまでしか存在できません。
エネルギー準位とは粒子が持つエネルギーの値であり、飛び飛びの値しか持てないことが知られています。
一方、ボース粒子は同一エネルギー準位内にいくつでも存在することができます。
これらは高温状態だと大差ありませんが、低温にすると顕著な差が現れてきます。
低温状態ではボース粒子のみ最低準位に集まります。
この状態は「ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)」と呼ばれます。
量子力学によると、粒子は波の性質も併せ持っていることがわかっていますが、BECの状態では全ての粒子の波の状態が重なり合い、一つの巨大な波として振る舞うそうです。
BECに見られる具体的な性質の一つが、「超流動」です。
通常の液体は粘性を持つため、回転を与えてもやがて流れは止まりますが、BECは全体として一つの波のような性質を持つため、一度与えられた流れが永久に止まりません。
今回の主題である超伝導とは、「電子の超流動現象」です。
金属などの物体を冷やすと、そこを流れる電子がBECとなり、超流動を示します。
つまり一度流れた電流が永久に止まらない現象である、超伝導が発生します。
○クーパー対
ここで、単体の電子はフェルミ粒子なので、低温でも多数の電子が同一のエネルギー準位に集まることができず、BEC状態になることもなく、超伝導を示すこともできないはずです。
実は極低温の物質中では、電子が2つペア(クーパー対)で存在するように振る舞います。
クーパー対は偶数個の電子が集まったボース粒子であり、よって低温でBECとなり、超伝導を示します。
ですが電子は-の電荷を持つので、通常は電子同士反発し合い、2つでペアを組むこともありません。
ですが低温物質中でのみ、電子間を結び付けてペアを組ませる引力が存在します。
低温物質中の原子核の隙間に電子が通ると、+の電荷を持つ原子核は電子に引かれ、少し集まります。
すると薄っすら+の電荷を持つ領域が現れますが、その領域の+の電荷が隣接する別の電子を電気的に引き寄せます。
この原子核が少し集まることで起こる「薄っすら+」の力が、電子同士を引き寄せ合い、それらがあたかもペアで存在するかのように振る舞うそうです。
これがBCS理論で語られる内容です。
物質の温度が高いと、原子核が電子の流れに寄せられにくく、電子同士を結び付ける「薄っすら+の力」が生まれません。
クーパー対が形成されないため、BECに至らず、超伝導を示すこともありません。
そのためBCS理論でメカニズムを説明できるのは低温物質での超伝導のみです。
高温超伝導は実は未だにメカニズムが解明できていません。
これは現代物理学の大きな未解決問題の一つとされています。