ポップオペラシンガー・ノリマサ 13年目の思い 「さらに深く“命“や“人”と向き合う楽曲が増えた」
2008年にデビューし、誰もが聞き覚えのあるオペラやクラシックをポップスと融合させた、「ポップオペラ」という独自の“ジャンル”で注目を集めているノリマサ(藤澤ノリマサ)。コロナ禍の中、多くのアーティストがそうであるように、表現の場をSNSに移し、懸命に歌と思いを届けようと発信し続けている。「以前に比べ、より深く命と向き合う楽曲が増え、歌う時に、届け方の意味が変わってきたように感じます」と語っている彼の今の表現者としての思い、そして9月に愛知・大阪・東京で行われる『ノリマサ スペシャルコンサート2020』についてインタビューした。
"表記"を変え「ノリマサ」に。「下の名前だけでみなさんに覚えて頂けるように」
――まずお聞きしたいのが、コンサートタイトルもそうですが、メディアに登場する際の表記がノリマサ(藤澤ノリマサ)となっていることが多いですが、これは“改名”ということですか?
ノリマサ よく言われるんですけど、表記が変わったということです。事務所も移って、新しいアーティスト写真も撮り、12年間やってきてこの辺で心機一転ではないですが、見せ方を変えようと。藤澤ノリマサって藤原とか、マサノリとか間違えられやすかったので、ノリマサとして、下の名前だけでみなさんに覚えて頂けるようにという思いを込めました。「ポップオペラ」というと、どこか堅苦しくて、難しいイメージがまだあるみたいで、それも払拭したくて。ノリマサというと、デニム履いて、ライヴハウスとかでカジュアルにオペラを歌っているって感じにならないですか?(笑)。本当はデビューの時からそういうノリでやるはずだったのが、わりとフォーマルな感じになってしまったので、これからももっとたくさんの方に歌を聴いて欲しいので、“間口”を広げたかったというのが本当のところです。
記録も大切ですが、記憶に残るアーティストになりたい。そしてライヴアーティストと言われたい
――独自の道を切り拓いて突き進んできた12年間だっと思いますが、最初はもう少しカジュアルな感じで、「ポップオペラ」を届けたかったと。
ノリマサ 最初のプロデューサーが、いわゆるポップスシンガーはたくさんいるけど、藤澤にはオペラアリアを歌えて、弾き語りもできて、曲も作れるという武器があると思ってくださっていたみたいで、今の活動の基盤を作っていただきました。平原綾香さんもずっとクラシックをポップスとして歌われてきて、そういう意味では先駆者だと思います。その後、秋川雅史さんの「千の風になって」が大ヒットした時代でした。オリジナル曲はもちろんですが、ずっとやっているカバー楽曲も大切にしていきたいですし、そこに自分のエッセンスを入れて、藤澤ノリマサにしかできない曲を発信していきたいです。記録も大切ですが、記憶に残るアーティストになりたいですし、ライヴアーティストと言われたいです。多くの方の印象に残るライヴをたくさんやっていきたいです。
――ノリマサさんは今LINEライヴや、ファンコミュニティfaniconで、オンラインライヴを積極的に行っていますね。
ノリマサ なかなか慣れないので、準備に時間がかかったり、意外と大変なんですよね(笑)。でも自分の欲も出てきて、やる時間も曲数もだんだん多くなって、ファンの方は家でリラックスして楽しめるのはいいことだと思いますが、逆に怖いのが、こっちの方が意外とよかったりしてって思われることです(笑)。
――沢田知可子さんとはリモートレコーディングして「I feel」という作品を完成させ、好評です。
ノリマサ 全部メールでやりとりをしていました。スタジオはクローズするし、会えないし、どうしようかってなったときに、レコーディングエンジニアに相談しながら、どうやってハイレベルなボーカルを録るか四苦八苦しました。それだけで4日くらいかかって、でも納得いくものが録れて、それをレコーディングエンジニアに送って、向こうでミックスしていただきました。沢田さんは沢田さんのご自宅でミックスまでやって、という感じでした。僕が曲を書いて、松井五郎さんが命の尊さについて素晴らしい歌詞を書いてくださいました。
――どこかデイヴィッド・フォスターサウンドを感じさせてくれるAORに仕上がっていますね。
ノリマサ 沢田さんと僕の共通点がデイヴィッド・フォスター好きだったので、彼が作るサウンドのような、80年代のロースピードの感じでと、アレンジャーさんにお願いしました(笑)。
――二人の気持ちいいハーモニーと、松井五郎さんの歌詞が心に飛び込んできますね。
ノリマサ 世界中でたくさんの人が新型コロナウイルスの犠牲になって、大変な時に音楽というものに、どれだけの人たちが勇気づけられるんだろうかと考えた時、やはり命というのは本当にどれだけ尊いかという思いを込めて、松井さんが書いて下さいました。
「"ノンフィクション3部作"は、作詞家・松井五郎さんのアイディアで、この時期だからこそ、一番新しい歌、自分を、一人でも多くの人に発信したいと思い、作った」
――ノリマサさんは、松井さんと「手紙」「帰り道」「Song is My Life」という、自身の青春時代や家族、友人のことを歌にした“ノンフィクション3部作”をYouTubeにあげていますが、やはりこういう状況になって思うところがあったからなのでしょうか?
ノリマサ 松井さんのアイディアなんです。僕がどうしてもレコーディングしたくて、とにかく世に出したいと言ったら、「藤澤くん、今この状況でレコード会社だってストップしているし難しいよ。でもこれをマイナスではなくプラスの栄養と考えた時に、今発信するべきだし、ファンの人は聴きたいと思ってくれると思うし、レコーディングスタジオで完璧にいい音で録らなくても別にいいじゃない?」って言ってくださって。松井さんは自分の詞で人に何ができるのかをいつも考えている方で、今の藤澤ノリマサはこういうことやっているんだと、一番新しい歌を一人でも多くの人に発信した方がいいと思うと。聴いて下さった方は、自分自身を投影して、感動してくださる方が多いみたいで、嬉しいです。
「自分の“強み”をもっとたくさんの人に伝えたい」
――YouTubeでより幅広く、色々な人に歌を届ける、活動を知ってもらうチャンスだということですよね。
ノリマサ そうですね、藤澤ノリマサは気になっていたけど、そこまでは……という人たちに気軽に聴いてもらえるようなプロモーションも大切だなと思いました。自分の“強み”をもっと知って欲しいと。
――平原綾香さんとのリモートセッション「The Prayer」もYouTubeで公開しています。デビュー前から大切にして歌い続けている曲ですね。
ノリマサ こういう状況にならなかったら、もしかしたら(平原)綾ちゃんとリモートセッションすることもなかったかもしれない。旧友再会というか、絆というものは離れていても繋がっているということを再認識できた気がします。当たり前のことってすぐ忘れてしまって、ありがたみを忘れたり、そこで本来の自分が考えるべきものを失ったりする、それは人間としてもどうなのかなこということを、コロナ禍の中で再認識できました。「I feel」も、STAY HOME中に制作した「STAY HOME」も、以前よりもさらに深く「命」や「人」と向き合う楽曲が増えたと思います。歌う時にも届け方の意味が変わってきたように自分でも感じています。
――久々のライヴが9月からスタートしますがノリマサさん同様、ライヴを待っているファンの方も多いと思います。どんなライヴになりそうですか?
ノリマサ みなさん生で音楽を聴くこと自体が久しぶりだと思うので、コアな曲ばかりではなく、代表曲はもちろん、“ノンフィクション三部作”も生で歌うとどう伝わるか楽しみですし、とにかく幅広い選曲にしたいと思っています。ノリマサバンドもみんな弾きたくてうずうずしているので、最高の音で楽しんでいただけると思います。