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直木賞作家東山彰良の第1作は『NARUTO』の小説!ジャンプブランドは小説もその販売戦略も実はすごい

飯田一史ライター
原作コミックスのサイズとノベライズの判型は揃えている(撮影:「新文化」冨田薫)

マンガのみならずノベライズでもヒットシリーズを連発することができるということは、つまり「まぐれ当たり」ではなく、コンスタントにそれを生み出せる組織ができているということを意味する。

JUMP j BOOKSおよびジャンプ編集部、そして営業(販売)まで含めた集英社の体制について、j BOOKS編集長の浅田貴典氏、副編集長の島田久央氏らに訊いた。全3回インタビューの第2回。1回目はこちら、3回目はこちら

■作家と担当編集しか知らない情報を小説家に中継することで生まれる「本物」感

――集英社としての体制と言いますか、ジャンプ編集部とj BOOKS編集部の連携について教えてください。

浅田貴典:作家(マンガ家)さんに最小限の負担でどれだけ世界観を膨らませるお手伝いができるか、というのがj BOOKSの基本哲学になっています。

小説を売るために何十ページも挿絵やマンガを描いてもらったり、おいしい展開を小説でやらせてもらったり、小説の原稿を何度もチェックしてもらうわけにもいかないですから。……『双星の陰陽師』の助野(嘉昭)先生みたいに筆がめちゃくちゃ速くて小説の巻頭にマンガを描き下ろしちゃうようなケースもあるんですが、そういったケースは例外です。

ですから、小説の編集者はマンガの担当編集者と常日頃コミュニケーションして、どの話をすればいいか、どのキャラクターがいいか、そもそも作家が求めているスピンアウトの方向性とはどんなものかなどを詰めています。赤背時代は、今ほど密にやりとりしていなかったんですね。

でもマンガを読んでいるお客さんが「あ、この小説に書かれているのはマンガと同じキャラクターなんだ」と思えることが大切ですから。マンガ編集者として20年やってきて、担当作品のアニメの脚本を読む機会もありましたが、初めて入ってきた脚本家さんだとどうしてもキャラクターがつかみきれていなくて、「このキャラクターはこういう行動を取らないんだけどな」と思うこともあったんです。だけどマンガと地続きのキャラクターだと視聴者に思ってもらえないとまずいわけですよね。

小説でもそうならないように、j BOOKSの編集者はキャラクターを深いレベルまで理解しないといけない。「ジャンプ」の担当編集が作家さんとやりとりしている「この人物はこういうときにこうする」「こういうことはしない」という細かい情報やニュアンスを、j BOOKSの編集者が小説の書き手に中継をする。そのことでプロットやキャラ描写の精度を上げて、より読者が納得できるものにしてもらっています。

島田久央:だからj BOOKSの編集者はめちゃめちゃマンガを読み込みますし、お願いする作家さんも有名無名よりまず第一に「本当にその作品のことが好きかどうか」を大事にしています。

――単純に、名前も実力もある作家さんだから秋田禎信先生が『血界戦線』を書いたり、成田良悟先生が『BLEACH』を書いたり、東山彰良先生が『NARUTO』を書いたり、平山夢明先生が『テラフォーマーズ』を書いたりしているわけではないと。

浅田:そうですね。ちなみに、なんと平山先生から長篇の原稿をいただいたのは、先生のキャリア20年にしてうちが3社目だったという。

ジャンプ編集部・齊藤優:平山先生は僕も本当に尊敬している作家さんなので、びっくりしましたけどね。

浅田:ただ、もちろんタイトルごとに「このタイミングでこのタイトルだったら名前のある方にお願いした方がいいだろう」「このタイトルは漫画家さんのリクエストが多いので柔軟にやってくださる書き手がいいだろう」という判断はあります。

小さいころからマンガを読んできた小説家さんが増えていて、「マンガのノベライズ? やりたい!」という方もいらっしゃるくらいで、ありがたい限りです。

東山先生はうちでは『魔人探偵脳噛ネウロ』のノベライズに始まり、出しているタイトルがレーベル/版元単位で言うと最多なんじゃないでしょうか。

島田:『流』で直木賞を取られたあと、『NARUTO ド純情忍伝』のオビに「『直木賞受賞第一作』って入れていいですか?」と聞いたら「もちろんもちろん!」という感じで。ありがたかったですし、東山先生の直木賞受賞は僕らにとってもすごく嬉しいことでした。

■黙っていても「尸魂界」と書いてあれば「ソウル・ソサエティ」と振れる校正陣

――他に内容面でこういうことをしている、ということはありますか?

浅田:校正さんは各タイトルごとに統一しています。「この作品ならこの方に」と決めています。というのもそのマンガオリジナルの固有名詞やキャラクター名がたくさん出てきますので、担当者が頻繁に変わるとミスが多くなってしまうんです。

島田:たとえば『BLEACH』で技名を間違えたり、適切なルビが振られていなかったら、ファンはがっかりしちゃいますからね。いつもお願いしている校正チームのみなさんは、もう「尸魂界」と書いてあれば「ソウル・ソサエティ」と、さっと振れます。

浅田:そこでルビに「・」が入るか入らないかを間違えるだけで「なんだよ!」ってファンは思いますからね。

――たしかに。

浅田:あとは……『ジャンプSQ.』連載のマンガ『終わりのセラフ』は原作の鏡貴也先生がライトノベル作家としても著名な方でしたので小説版もお願いしまして、それぞれの発売日を計算した上でマンガと小説の展開を絡めるような仕掛けになっています。

島田:『ブラッククローバー』では小説で先に登場したキャラクターがその後マンガ本編に出てくる、といったこともやりましたね。

■マンガと小説の編集部間で足の引っ張り合いがない!

――j BOOKS編集部はジャンプ編集部の中にあるわけではなくて、部署としては独立した関係にあるわけですよね。

浅田:はい。

――小説版の売上がどちらの部署に付くかで揉めたりとか、マンガの担当編集者が「小説版のイラストをたくさん描き下ろすヒマがあったら本編に集中してもらいたい」みたいな非協力的な態度になることってないんですか?

浅田:んー、あんまりそういうの考えたことないよね?

齊藤:そうですね。小説が出るのは「作品を広げる」という意味ですごくいいことだと思っています。作品には大きくなっていくステップがあるわけですよね。まず連載を取って、次にコミックスが出て、小説が出て、そのあとアニメ化、みたいな。だから「小説出さない?」って言われると「お、ちょっと認められたかな?」という感じが少年ジャンプ編集部側にもあるんです。

浅田:『バクマン。』でも描かれていたよね。

アニメが放映されるときには書店に小説も3、4冊出ているようになるように、アニメ化企画が成立すると小説の方も腰を据えて動いています。

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齊藤:''' そういえば『黒子』のときは1巻が出たくらいで、担当していた僕の方から「小説にしませんか」って島田さんに言ったんですけど「……まだ早いな」って言われたりしましたよね(笑)。

島田:ごめん(笑)。「各作品のブランド力を上げていきたい」ということはジャンプとj BOOKSで目標が共通していますし、小説はそのための「いいブーストになる」という認識も共通していると思います。

浅田:ただ、単純にコミックスの部数だけでノベライズのタイトルを決めているわけではありません。元の部数が6、7万でも「やらせてほしい」とお願いするものもあります。どれだけファンが熱いか、濃いか、というところを見ています。作品によって小説にしやすいタイトル、しにくいタイトル、という部分ももちろんありますが。

■編集部だけじゃない! 「書籍なのにコミックス売場に並ぶ」を実現させた販売部の力

――j BOOKSって昔は書店でも講談社ノベルスとかがある新書棚にあったと思うのですが、最近はコミックスの新刊のところでよく見かけます。配本の導線が変わったということは、書籍のコードではなくコミックスのコードでの流通に変えたんでしょうか?

浅田:いえ、書籍コードです。

――ん? でも、ほとんどの版元でそうだと思いますし、御社でも書籍の販売を担当する部署とコミックスの販売を担当する部署は別ですよね?

それに、書店でも小説(書籍)担当とラノベ担当とコミックス担当はそれぞれ別、なんてこともよくあって、マンガのノベライズって書店によって何担当が扱うかが分かれそうなものなのに、どうしてj BOOKSの「書籍」(ノベライズ)は、文芸の棚にもラノベの棚にも行かず、「コミック」の平台や棚に行くようになっているんですか?

島田:それはもう、販売部が粘り強く10年間「コミックスの隣に置いてください。その方が売れます」と資料を作ってご説明したりですとか、周知をし続けてきたからですね。

浅田:書店さんには毎日たくさん本が入ってきますから、「うちのレーベルの本だけオペレーションを別にしてください」とちょっと言ったくらいでどうにかなるものではなくて、大きな流れの中で自然にそうなるように、販売部が地道に体制を整えてきました。

ジャンプコミックスのノベライズならジャンプコミックスと同じサイズ、ヤングジャンプのコミックスのノベライズならやはり同じサイズで出しているのも、そういうことです。

書籍販売部・仁平裕貴:ジャンプコミックスの発売日となるべく同じか、翌月に連続発売するように設定していますし、書店さんには2冊置きの面陳台をお送りして「このタイトルはコミックスと小説を一緒に持っていってください」というディスプレイができるようにしたりですとか、いろいろやっています。

今ではコミックスの新刊が出た際にj BOOKSの既刊を送本すると返品がほとんど来ない、という感じになってきました。

――なるほど。先ほどマンガの編集と小説の編集の連携のお話が出ていましたけども、コミックスと書籍の販売部間の連携もあるわけですね。他社さんのマンガノベライズではラノベの文庫棚か一般文芸の棚に配本されることが多くて、原作マンガの読者の目に入らないこともありますけど、j BOOKSはそうならないように徹底していると。

浅田:そうですね。書籍販売部とコミック販売部、『ジャンプ』とj BOOKSの編集部、宣伝部の各担当が同席して『このタイトルのファンはこういう人たちだから、こういう売り方でいこう』ですとか『アニメの劇場版公開までの間も楽しんでもらえるように、毎月刊行物があるようにしよう』といったことを話しあいながら展開しています

2014年春から編集長を務める浅田貴典氏(撮影:「新文化」編集部・冨田薫)
2014年春から編集長を務める浅田貴典氏(撮影:「新文化」編集部・冨田薫)

島田:ちなみにj BOOKSはネット書店さんよりも現場の書店さんで強いんです。ネット比率はほかの書籍と比べても低いほうです。中高生の女の子が朝読(朝の読書)のために買ってくれることも多いみたいですね。マンガは学校に持っていくと没収されるけれども、小説は没収されないので。

浅田:あとは、ライトノベルが強い書店さんよりも、マンガが売れる書店さんで売れる傾向にあります。

――最近だと電子書籍もやられていますが、何か傾向はありますか?

浅田:電子の売れ方は、コミックスよりは書籍に近いかもしれません。特に「電子でだけこのタイトルは売れた」みたいなことはないですね。もちろん、値段を下げれば売れやすくはなるのですが。

電子配信では『東京喰種』が跳ねたのが個人的には意外でした。もともと女性ファンが多いタイトルですが、それまでは「電子書籍はガジェット好きな男性のものだから、女性はあまり電子は買わないんじゃないか」と思っていたら、そんなことはない、と最初に認識した機会になりました。

(この出版不況下に部署設立20余年にして過去最高売上を叩き出した浅田改革の全貌が明らかになるインタビュー3に続く。部署設立の経緯から現在に至るまでの流れがわかるインタビュー1はこちら

ライター

出版社にてカルチャー誌や小説の編集者を経験した後、独立。マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材&調査してわかりやすく解説・分析。単著に『いま、子どもの本が売れる理由』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』『ウェブ小説の衝撃』など。構成を担当した本に石黒浩『アンドロイドは人間になれるか』、藤田和日郎『読者ハ読ムナ』、福原慶匡『アニメプロデューサーになろう!』、中野信子『サイコパス』他。青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。息子4歳、猫2匹 ichiiida@gmail.com

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