激動の2020シーズン、なでしこリーグ1部を振り返る。得点女王争いを制したのは?
【リーグ戦はコロナ禍の短期集中開催に】
コロナ禍で波乱も多かった今季のなでしこリーグ。11月21日、各地同時開催で最終節の5試合が行われ、最終順位が決定した。優勝争いは、11月8日の16節で2試合を残して浦和レッズレディースが6季ぶりに女王の座を射止めている。一方、2位以下は順位が変動する可能性を残していたため、最終節まで白熱した試合が続いた。
今季はコロナ禍でリーグ開幕が例年よりも4カ月遅れた。序盤はリモートマッチ(無観客試合)として開催されたが、8月以降は十分な感染予防対策をとった上で、有観客試合として開催。飲食やグッズの販売も緩和され、10月からは横断幕の掲出や、拍手・手拍子による応援が可能になった。リーグが佳境を迎えた10月末からはビジター席が設けられ、太鼓など鳴り物の使用も緩和されて、スタジアムに活気が増した。来年秋には女子プロリーグ「WEリーグ」がスタートすることが決定しており、現行のなでしこリーグとしては最後のシーズン。来季に向けて体制を一新してリーグ戦に臨んだチームもあり、これまでの継続を実らせたチームもあった。昇格・降格が行われないという異例のレギュレーションも、各チームの大胆なチャレンジを後押しし、今季のリーグを盛り上げたのではないだろうか。
優勝:浦和レッズレディース(昨年2位)
6季ぶりのリーグ女王に輝いた浦和は、どの相手に対しても高いボール保持率を貫いた。個々の技術と強さに加え、連係面でも他チームをリード。リーグ最少タイの失点数という堅守がチームの土台を安定させ、攻撃では5年ぶりに得点女王に輝いたFW菅澤優衣香を軸に、どこからでもゴールを狙えるチームになった。総得点の4割を占めたセットプレーの得点力や選手層の厚さなど、わずか2シーズンでチームの土台を築き、頂点へと導いた森栄次監督の手腕が光る。今後は「追われる」立場になり、さらなる進化が期待される。11月の代表候補合宿ではMF水谷有希が新たに候補入り。森監督は今後の伸びしろとして、最終節の後のインタビューでは「中盤での保持率」と、その後の「(ゴールに向かう)緩急の変化」、「ボールの回収率」の向上を挙げている。皇后杯ではリーグ女王として2冠を目指す。
2位:INAC神戸レオネッサ(昨年3位)
今季はゲルト・エンゲルス監督を招聘し、FW田中美南をはじめ、各ポジションの補強をしてタイトル奪還を掲げてシーズンを迎えた。9月のアウェイ4連戦で1勝3敗と苦しんだが、10月から11月のホームゲーム5連戦を5連勝と波に乗り、2018年以来の2位でフィニッシュ。拮抗した試合や上位対決では、FW岩渕真奈と田中の2トップを中心に得点を重ね、勝ち点を積み重ねた。GKスタンボー華がシーズンを通してゴールを守り、代表候補合宿に初招集されている。ディフェンスラインの層のバックアップの薄さは課題の一つだったが、19歳のDF水野蕗奈が右サイドバックで台頭。元々FWだった高瀬愛実がサイドバックからアタッカーに復帰してチームを勢いづけた。FW京川舞が調子を上げてきており、皇后杯ではさらに分厚い攻撃が見られるかもしれない。岩渕のケガからの復帰が間に合えば、4年ぶりのタイトル獲得に強力な追い風となる。
3位:日テレ・東京ヴェルディベレーザ(昨年優勝)
なでしこリーグ史上初のリーグ5連覇を達成し、特にここ2シーズンは圧倒的な強さですべてのタイトルを獲得してきたベレーザにとって、今季は苦しいシーズンだった。前線の主力だった田中美南や籾木結花が移籍し、永田雅人監督は新たな主力を生かす形でフォーメーションや戦い方をマイナーチェンジして臨んだが、6連覇には届かなかった。力を出しきれなかった最大の要因は、ケガ人の多さだろう。守備の要であるDF土光真代やDF清水梨紗が前半戦で離脱し、その後も毎試合のように複数の主力を欠いたため、戦い方を一貫させるのは難しかった。その中でも、FW小林里歌子が前線で攻撃の起点となり、13ゴールと活躍。大黒柱のMF長谷川唯、左サイドでプレーエリアを広げたFW(DF)遠藤純も自己最多得点を更新した。U-20世代のMF菅野奏音やDF松田紫野、MF木下桃香らが経験を積んだことも、未来への大きな投資となったはずだ。皇后杯で今季初タイトルと4連覇を目指す。
4位:セレッソ大阪堺レディース(昨年2部準優勝)
2部から昇格してきたC大阪堺は、今季の1部に旋風を巻き起こした。育成年代から長く指導してきた竹花友也監督の下で、開幕戦の逆転勝利で勢いに乗ると、4節では浦和に勝って4連勝で首位に立った。その後はベレーザに10失点で敗れるなど波もあったが、後半戦は対策をされる中でも粘り強い戦いで勝ち点を積み上げた。中学生からプレーをともにしてきた選手たちのコンビネーションは最大の強みだ。また、初めて1部に挑戦した2018年に比べて戦術眼やスキル、1対1の強さなど個もスケールアップ。MF林穂之香、FW(DF)宝田沙織、DF北村菜々美、MF脇阪麗奈の4人が五輪代表候補になったほか、16歳のFW浜野まいかや15歳のDF小山史乃観、17歳のMF荻久保優里などU-17世代にも原石が多い。来季はWEリーグに参戦しないが、育成クラブのロールモデルとしてさらなる飛躍に期待したい。皇后杯では3回戦の壁を越えたい。
5位:アルビレックス新潟レディース(昨年6位)
昨季に続き奥山達之監督が指揮をとった今季の新潟は、攻守に新たな色が見えた。新潟一筋で15年目のMF上尾野辺めぐみや、経験豊富なMF川村優理が攻守をコントロールする中で、新戦力が活躍。ユーティリティ性が高いMF園田悠奈や、ゴールへの嗅覚が鋭いFW児野楓香らフレッシュなルーキーが攻撃に厚みを加えた。最終ラインには昨季新人王のDF三浦紗津紀が加わり、守備の粘り強さが増した。失点数は首位の浦和と並んでリーグ最少タイ。順位が近いチームとの対戦で勝ちきれず、上位進出にはあと一歩勝負強さが足りなかったが、その中でも昨年から勝ち点・得失点差ともにプラスに転じたことは一つの成果だろう。皇后杯ではこれまでにも4度決勝に進出しており、トーナメントで強さを見せてきただけに、上位進出が期待される。
6位:ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(昨年5位)
千葉は今季、猿澤真治監督を迎えて新たな挑戦をスタートさせた。経験や年齢にとらわれない競争の中でチームが生まれ変わる中、前半戦は3節以降7試合未勝利と苦しんだ。しかし、8節から3バックを採用し、内容と結果が好転した。前線からのプレスの強度が増し、持ち前のハードワークも発揮され、11節以降は5勝2分1敗と勝ち越した。変化の中で、「いかに相手に走り勝つかとか、基本的なところに立ち返った」というエースのMF成宮唯が2列目で存在感を放ち、ジェフの「走る」「闘う」スピリットを体現。前線では173cmのFW大滝麻未がダイナミックなゴールを量産した。千葉と代表で長くプレーしたGK山根恵里奈が今季限りでの引退を発表しており、皇后杯では1試合でも多く戦いたいところだ。
7位:マイナビベガルタ仙台レディース(昨年8位)
2年目の辛島啓珠監督の下、今季は各ポジションに代表クラスの若手選手を補強したが、5節まで勝利できず。その後、守備の連係が向上し、攻撃面ではFW浜田遥をターゲットとした攻撃で決定力が上がり、ケガ人の復帰も追い風となって、後半戦で5勝2分3敗と勝ち越した。だが、上位相手の試合ではなかなか勝ちきれず、今後はリードされたなかでの“挽回力”にも期待したい。前線でチームを導いた浜田は、自身最多の15得点で得点ランク2位に。代表候補合宿にも初招集され、飛躍のシーズンとなった。来季は経営権譲渡で「マイナビ仙台レディース」としてWEリーグに参入するため、今季は「ベガルタ」として戦う最後のシーズンだ。皇后杯では、引退を発表したFW有町紗央里、MF小野瞳両選手のラストマッチに花を添えてほしい。
8位:ノジマステラ神奈川相模原(昨年7位)
今季から指揮を執る北野誠監督は、対戦相手を徹底的に分析し、自分たちのストロングポイントを活かすことができるよう逆算して戦った。今季のみ「5」に増えた交代枠も積極的に活用し、フォーメーションや各選手のポジション、交代策も試合ごとに異なる狙いが見られた。特に上位チームとの対戦ではその狙いがはまって勝ち点を得ることが多かったが、拮抗した試合ではミスから足元をすくわれることも。戦術的な狙いを実行するために、選手の成長を促しながら適材適所を探る難しいバランスの中で思うように結果が出ず、苦しいシーズンだった。それでも、攻守の基本に立ち返る中で、強調してきた「スペースの作り方、見つけ方」が向上していることに北野監督は手応えを見せる。皇后杯ではその成果を見せてほしい。
9位:伊賀FCくノ一三重(昨年4位)
昨年1部昇格初年度で4位と躍進を遂げたが、今年は苦しいシーズンだった。昨年の倍近い「33」という失点数が、その厳しい内容を物語る。攻撃的なプレッシングで相手の自由を奪い、奪うと縦に速い攻撃でシュートに持ち込むーー。大嶽直人監督の下でそのスタイルに磨きをかけ、今季はコロナ禍でも心肺機能や筋肉を落とさないようトレーニングを重ねて臨んだが、相手に対策をされる試合が増えた印象だ。ハイラインの背後のスペースを狙われたり、ビルドアップのミスから一気に崩されてしまうなど、特に運動量が落ちる後半の試合運びに課題が見られた。勢いよく試合に入り、相手を上回る2桁シュートを放つ試合も多いだけに、今後はなんとかそのチャンスを生かして試合を優位に進めたいところだ。来年のWEリーグには参入を希望しながらスタジアム要件を満たせず叶わなかったが、2年目以降に可能性を残す。悔しいシーズンを乗り越えたチームの一体感を皇后杯で示したい。
10位:愛媛FCレディース(昨年2部優勝)
J2の愛媛FCで選手として活躍した赤井秀一監督の下、今季四国からなでしこリーグ1部に初参戦した愛媛は、3勝3分12敗の成績で初年度の挑戦を終えた。2011年のチーム創設以来、「ボールを繋ぐ」スタイルを育て、トップリーグでもその姿勢を貫いた。開幕前に赤井監督が「そのスタイルが、1部の舞台でもある程度通用する部分はあるのではないかと思っています」と語っていたように、特にリーグ前半戦は厳しいプレッシャーを受けながらも小気味よいリズムで繋いでいく場面が多く、浦和やINACといった強豪相手に見せた勇敢な戦いぶりは見応えがあった。後半戦は各チームの対策も進んだが、最後までその戦い方を貫いたことで得たものは少なくないはずだ。五輪代表候補のFW上野真実はいくつかの印象的なゴールを決め、昨季2部で新人賞を獲得したMF山口千尋は左サイドで躍動した。来年のWEリーグには参入しないが、皇后杯では信念を貫いたスタイルで強豪に挑むだろう。
【得点女王争いの行方は…】
得点女王争いは、17ゴールを決めた浦和のFW菅澤優衣香が5年ぶりのタイトルを獲得した。ゴールが欲しい場面で決める勝負強さが光った。また、浦和のボール保持率の高さや、2列目からの積極的な攻撃参加を可能にしたのは、前線のターゲットとして圧倒的な強さを見せた菅澤の存在も大きい。シーズン終盤はケガでスタメンを外れており、10月、11月の代表候補合宿のメンバーからは外れたが、皇后杯に向けて早期の復活が待たれる。
2位には15ゴールを決めた仙台のFW浜田遥が入った。シーズン序盤はベンチスタートだったが、その悔しさをバネに努力を重ね、第4節から先発に復帰。苦しいシーズンを過ごしたチームを得点とポストプレーで支えるエースの仕事をこなした。173cmの高さとスピードを兼ね備えた潜在力の高さと得点力を評価され、11月の代表候補合宿に初招集されている。
3位には13ゴールでベレーザのFW小林里歌子が入った。リーグ終盤はケガのために出場機会がなくなり、15節以降は得点を伸ばせなかったが、40.6%の決定率はリーグ1位。前線の主力が抜けたベレーザの得点源となり、力強いドリブルやスキルの高さを生かしたポストプレーなど、ゴールハンターとしての魅力を開花させている。
ベレーザで4年連続得点王だったFW田中美南は、今季移籍したINACで12ゴールを決め4位にランクイン。5年目の得点王は叶わなかったが、フィニッシュのバリエーションが増え、特にシュートレンジはかなり広くなった。様々なタイプのFWやMFとの連係も含め、深みを増したプレーが代表で生かされるはずだ。
5位には千葉のFW大滝麻未が9ゴールでランクイン。ダイビングヘッドやダイビングボレーなど、173cmの長身と長い手脚を生かしたビューティフルゴールが多く、会場を盛り上げ、千葉のサッカーに彩りを加えた。
※文中の写真はすべて筆者撮影