映画「金の国 水の国」で考える世界の水問題
2つの国の行方は水がカギを握っている
アニメ映画『金の国 水の国』(配給:ワーナー・ブラザース映画)が現在公開中だ。
原作は“このマンガがすごい!”で史上初の2年連続1位を果たした岩本ナオの同名コミックス(小学館フラワーコミックスα)で、「長年対立する2つの国を舞台に、A国の王女・サーラとB国の青年・ナランバヤルが偶然出会い、夫婦のふりをすることに…」というところからはじまる。
ストーリーのカギの1つは「水」だと思う。
この映画は、世界各地で起きている、あるいはこれから起きるかもしれない「水問題」を考えるきっかけになる。
隣り合う「水のある国」、「水のない国」
A国(金の国)は中継貿易で栄える稀代の商業国。経済的には豊かだが、水資源の枯渇が心配されている。
一方のB国は経済的には貧しいが、水資源は豊か。
A国の水資源はオアシスに依存しているが、オアシスの数は「100年前の3分の1」に減少しているという。王都には水力で動く「動く川」「動く道」があるが、水不足と老朽化が原因で停止している。人々は水が貴重なのでワインを飲むが、残りの水も50年から70年で枯渇するとされている。雨の降り方も変わっているらしく、近年は少雨傾向のようだ。
一方のB国は北と南に海があり、そこで発生した雲が高い山にぶつかり雨を降らせる。日本の脊梁山脈に雲がぶつかり1年を通して雨が降るように。もっともB国は島国ではない。A国とは陸続きだ。
経済力はあるが水のないA国、水はあるが経済力のないB国。
両国の関係の行方は水が握っている。
他国に100%水を依存する国
さて、ここからは現実の話。「これから世界的に水不足になる」などと言われると、地球の水が均等に減っていくように思えるが、実際には水資源の多い国、少ない国がある。
中には水を自国内では十分まかなえず、他国に依存している国もある。顕著なのが上のグラフの5か国だろう。他国への依存率は96%を超えている。
シンガポールとマレーシアの対立
国同士の水の分配が難しくなることもある。
かつてシンガポールとマレーシアは水をめぐり対立していた。
マレーシア南部のジョホール海峡をはさんだ対岸にはシンガポールが見える。海峡にかかる橋のわきを、直径1.5メートルほどのパイプが走っている。これはマレーシアからシンガポールへ水を送るパイプだ。
シンガポールでは家庭用水・工業用水の半分をマレーシアからの輸入に頼っていた。
シンガポールの国土は狭く平坦で、水の確保が難しい。
一方、マレーシア政府は豊かな水資源を国の発展に活かすことを考えた。
ところが両国の関係がぎくしゃくすると、マレーシアが水の値上げを示唆するため、両国の関係に緊張が走る。
そのためシンガポールは水の自給(雨水活用、下水再生)を進めている。
メコン川の上流と下流の問題
もう1つ。東南アジアのメコン川流域には、「中国はダム建設を通じてメコン川の流れを支配しようとしている」、「下流の水の流れをコントロールしている」という声が常にある。
流域諸国はメコン川の恩恵を受けている。ラオスは水力発電量の半分をメコン川に依存しているし、タイは耕地の50%が流域に存在するし、ベトナムではメコン川の三角州で米生産の半分以上が行われている。
メコン川のように2つ以上の国を流れる川を国際河川という。
上流にある国が思いのままに水を使うと、下流の国にストレスを与える。
これが争いの原因になる。
日本は島国なので、メコン川のような国際河川がなく、水利用するときに、他国との関係を気にする必要がない。
さて、映画のなかのA国とB国はどうなるだろう。