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『志村けんのバカ殿様』、何度観ても笑える理由は志村けんのアドリブと共演者の素のリアクション

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

8月11日、『志村けんのバカ殿様 笑いで暑さを吹き飛ばせ!夏祭りスペシャル』(フジテレビ系)が放送された。

同番組は、2020年3月29日に亡くなった志村けんさんが扮した往年のキャラクター、バカ殿によるコントなどを中心に構成。SNSをチェックすると、以前から番組のことを知る層だけではなく、「バカ殿世代」ではないちびっ子らも爆笑をしていたようだ。

『バカ殿様』はなぜ笑ってしまうのか。その理由のひとつは、もともと台本にあるものなのか、それともアドリブなのか分からない志村けんさんの立ち振る舞いにあるだろう。そして共演者たちは、それを目の前にして思わず吹き出してしまう。その素のリアクションにつられるように、わたしたち視聴者も笑ってしまう。つまりコントという台本のある世界のなかに、筋書きにはないリアルな笑いがたくさん入っている点がおもしろいのだ。

梅沢富美男が本音をポロリ「リハーサルと違うじゃねえかよ!」

『バカ殿様』をはじめとする志村けんさんのコントの内容は、良い意味でとてもベタである。腰元と縁日に出かけたバカ殿が、出店で買った風船を受け取って空へ飛んで行ってしまうものだったり、町に現れた怪獣と戦うためにバカ殿が巨大化するものだったり、いずれも展開がシンプルでオチもだいたい予想がつく。ただ、ベタだからこそ志村けんさんはどんどんアドリブを上乗せするなどして、アレンジを効かせることができたのではないか。つまり、本番のなかで笑いを作り上げていったのだ。

象徴的だったのが、梅沢富美男が借金取りを演じたコント。志村けんさんは寝たきりの父親、多岐川華子がその娘に扮し、「金を返せ」と梅沢富美男にツメられる。梅沢富美男は金が払えないと分かると、その代わりとして多岐川華子に手を出そうとする。手足の動作もおぼつかない志村けんさんはそこで立ち上がり、勢い良く梅沢富美男を壁に叩きつけていく。梅沢富美男は「リハーサルと違うじゃねえかよ!」と本音をポロリ。その後、何度も壁にぶつけられてボロボロになっていく梅沢富美男。だが、表情はものすごく楽しそうだった。

梅沢富美男だけではなく、各コントの共演者たちはみんな、アドリブを次々と放り込んでくる志村けんさんと絡むのが嬉しそうなのだ。そして志村けんさんに乗っかって、一緒にバカになっていく。

「バカのオリンピックがあったら、あんたが優勝だ!」

大悟(千鳥)は、マッサージ師役の志村けんさんから「私は触るだけで体の凝っているところが分かる」とお尻をキュッと押されるなど、手厚いサービスを受ける。コントを忘れるかのように普通に笑ってしまった大悟は、「(映像の)編集に立ち会うからな」とこぼしてシメた。それだけ想定外の笑いが多々あったということだろう。

侍役の松坂桃李がバカ殿に挨拶をするコントでは、志村けんさんのアドリブ質問が次々と繰り出された。松坂桃李に対して好きなタイプなどの話を振り、そして「まさか電撃(結婚)とかはないだろうな」とつぶやく。コントと称して、松坂桃李のパーソナリティに踏み込んだ内容になっており、どの範囲から志村けんさん任せになっていたのか分からない。しかもその数年後、実際に松坂桃李は戸田恵梨香とサプライズ婚を発表。この場面は志村けんさんのアドリブがもたらした奇跡と言えるかもしれない。

ナオコ姫役の研ナオコが独特のイントネーションで「赤まむし」「生たまご」など精のつくものをバカ殿にオススメするコントは、とにかくクセになる。だがクセになる理由も、研ナオコがしつこく「赤まむし」と言い続け、志村けんさんもそのノリに乗っかって延々とやり取りをしていったところにある。これもどこまでが台本で、どこからがアドリブなのか分からない。ひとつ言えることは、お互いに笑いどころを見極めていたこと。とことんまで「赤まむし」を引きずって笑いを搾りとり、さらに「生たまご」、そして「すっぽんの生き血」といったワードにまでおもしろさを波及させて畳み掛ける。視聴者的にはずっと観ていたいようなコントだ。

磯山さやか演じる腰元がバカ殿とサウナに閉じ込められてしまう話では、実際に発売された磯山さやかの写真集について、志村けんさんが「あれって(写真の)修正をしているの」などイジワルなことを言う。磯山さやかは「やっていませんから!」とタジタジに。結局そのあと、サウナ内に長時間居座ることになったふたりは、体が干からびてしまう。そのオチはなんとなく予想できたものだが、しかしそこに至るまでの志村けんさんのアドリブ質問なども効いていて、「オチは分かっているけど笑える」というムードができあがっていた。

前述したように、どのコントも、その場にいる出演者たちが本当に楽しそうだった。志村けんさんのバカっぷりを心の底からおもしろがっていた。だから、こちらも誘われるように笑ってしまう。

ちなみに番組序盤のコントで、家老役の桑野信義はバカ殿にこんなことを言っていた。

「バカのオリンピックがあったら、あんたが優勝だ!」

筆者も少年時代、『バカ殿様』など志村けんさんのコントをテレビでずっと観ていた。だが大人になった今でも、変わらず大笑いできた。金メダル級のおもしろさがそこにはあった。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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