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スマホの二次元バーコードをスキャンするだけ。日本人が知らない中国式の名刺交換とは?

中島恵ジャーナリスト
スマホがあれば、名刺交換はもう不要(写真:ロイター/アフロ)

 春節の休暇まであと1か月。その前の駆け込みなのか、最近、私の周辺では中国からビジネスで来日する人が多い。友人の紹介で初めて会う相手なので、こちらは自分の名刺を差し出そうとするが、たいていの人は名刺を持っていない。「すみません……」と相手は恐縮するが、中国では今、名刺交換をしないのが “普通”であり、当たり前になっている。

 名刺交換の代わりに行うのが、中国版LINEといわれる、中国の代表的なSNS、微信(ウィーチャット)の交換である。

 ウィーチャットなら、相手か自分のスマホに表示される二次元バーコード(QRコード)を読み取るだけでOKだ。一瞬にして、相手の連絡先が自分のスマホに入る。

 電話番号やメールアドレスがわからなくても、いつでも、どこでも簡単にメッセージや写真を送信でき、無料のウィーチャット電話もできる。長いメールアドレスを打つ必要がなく、名刺のように、紛失する可能性も低いので、とても便利なのだ。

「スマホを持っている」ことが前提だが、中国では日本よりもスマホが普及しており、ウィーチャット利用者も9億人以上もいるため、今では、これが中国流の名刺交換に取って変わった、といってもいいほどだ。

 私も中国に行く機会が多いため、連絡用としてウィーチャットを使っている。だから、「大丈夫ですよ。私もウィーチャットできますので、名刺ではなく、ウィーチャットで連絡先を交換しましょう」というと相手は喜んで応じてくれる。そのやりとりをするたびに、中国関係の仕事をするなら、もはやウィーチャットは欠かせない必須ツールとなっていることを実感する。

匿名で登録できるSNSで困ること

 しかし、ちょっと困るのは、ウィーチャット上の相手の名前だ。ウィーチャットは実名以外に匿名でも登録できるので、交換した途端、「ん?」と思うことが多い。

 私のウィーチャットでつながっている人たちも、さまざまな名前で登録している。日本と関係の深い人は、自分が気に入った日本語名をつけていたり、家で飼っている犬や猫の名前、植物の名前、英単語を名前にしている人もいる。なので、一瞬、誰だかわからなくなってしまうのだ。

 一対一で交換したときには、すぐに匿名の後ろに自分で相手の本名を入力しておくので問題ないが、パーティーなどで一度に大勢と交換したときには、さあ、大変。2時間後に帰宅してからお礼のメッセージなどをいただいても、それが一体、誰なのか、さっぱり思い出せない。投稿に本人の顔写真などが出ていれば「ああ、確か、さっきのパーティーで赤い服を着ていた、あの人ね……」と確認できるのだが、そうでなければ、お手上げだ。何しろ、名刺をもらっていないので、社名や肩書きなどもはっきり思い出せない。

 日本のSNSと同様、中国でも、SNSに登録していても、頻繁に投稿するヘビーユーザーと、たまにしか投稿しない人の両方いる。とくに連絡する必要がなければ「幽霊友だち」のままでも別に問題ないのだが、何となく気持ちがモヤモヤするものだ。だが、日本で名刺交換した場合でも、その後、一度も連絡しない人も大勢いるし、3年も経てば、部署や肩書きが変わってしまい、名刺は役に立たなくなる可能性がある。

 そういうふうに考えると、無駄な紙を使わなくてもよく、消したり増やしたりが簡単な中国流の名刺交換(ウィーチャット交換)は、案外、合理的といえるのかもしれない。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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