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円形脱毛症の爪トラブル:症状から最新治療まで徹底解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【円形脱毛症と爪の関係:意外な関連性】

円形脱毛症といえば、髪の毛が突然抜け落ちる自己免疫疾患として知られていますが、実はこの疾患は爪にも影響を及ぼすことをご存知でしょうか。最新の研究によると、円形脱毛症患者さんの約22%に爪の変化が見られるそうです。

爪の変化は、特に重度の円形脱毛症や小児の患者さんに多く見られる傾向があります。全頭型(頭全体の脱毛)や全身型(体全体の脱毛)の円形脱毛症の方に、爪の症状が出やすいのが特徴です。

興味深いことに、爪の変化は髪の脱毛と同時に起こることもありますが、脱毛の前後に現れることもあります。さらに、髪の毛に全く影響がなく、爪だけに症状が出る場合もあるのです。これは、爪と髪の毛の成長メカニズムが似ているためです。どちらも体の中で「免疫特権部位」と呼ばれる特殊な場所にあり、通常は免疫システムの攻撃から守られています。しかし、円形脱毛症ではこの防御機構が崩れてしまうのです。

【爪の変化:どんな症状が現れるの?】

円形脱毛症に伴う爪の変化には、いくつかの特徴的な症状があります。以下に詳しく説明していきましょう。

1. ピッティング(点状陥凹)

最も一般的な症状で、爪の表面に小さなくぼみができます。これは円形脱毛症の爪変化の約70%を占めます。ピッティングは、爪の表面が波打ったようになり、幾何学的なパターンを示すことが特徴です。乾癬でも似たような症状が出ますが、円形脱毛症の場合はより浅く、規則的なパターンを示します。

2. 粗造爪(トラキオニキア)

爪が全体的にざらざらした感じになる症状で、約24%の患者さんに見られます。「twenty-nail dystrophy(20枚爪ジストロフィー)」と呼ばれることもありましたが、必ずしも20本全ての爪に症状が出るわけではないため、現在はこの呼び方は避けられています。粗造爪には、ざらざらした不透明なタイプと、光沢のあるタイプの2種類があります。

3. 縦線(縦溝)

爪に縦方向の溝ができる症状で、約35%の方に見られます。これは爪母(爪の根元にある爪を作る部分)の炎症が原因で起こります。

4. 白斑(ロイコニキア)

爪に白い斑点ができる症状です。約18%の患者さんに現れます。円形脱毛症の場合、この白斑は真のロイコニキアと呼ばれ、爪の内部の異常によって起こります。爪板内部のケラチン繊維の配列が乱れることで、光の反射が変わり、白く見えるのです。

5. 赤い半月

爪の根元の半月状の部分が赤くなる症状です。これは比較的まれ(約3.4%)ですが、重度の円形脱毛症に関連していることが多いです。特に全身型の円形脱毛症でよく見られます。

6. その他の症状

爪の割れやすさ(脆弱化)、爪甲剥離(爪が浮き上がる)、爪下出血(爪の下の皮膚に出血が見られる)なども報告されています。

これらの症状は、通常は痛みを伴わず、日常生活に大きな支障をきたすことは少ないです。しかし、見た目の変化が気になったり、爪が弱くなって割れやすくなったりすることで、生活の質に影響を与えることがあります。

【診断と治療:爪の健康を取り戻すために】

円形脱毛症に伴う爪の変化の診断は、主に臨床所見(見た目の変化)に基づいて行われます。しかし、他の爪疾患との鑑別が難しい場合は、爪生検(爪の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)が必要になることもあります。

治療は、症状の程度や患者さんの年齢、生活への影響などを考慮して決められます。以下に主な治療法を紹介します。

1. 経過観察

軽度の場合は、特に治療せずに様子を見ることもあります。特に子どもの場合は、数年で自然に回復するケースが多いです。

2. 局所療法

・ステロイド外用薬:炎症を抑える効果があります。

・ビタミンA誘導体:爪の成長を促進し、角化(爪の形成)を正常化する効果があります。

3. 局所注射療法

ステロイド薬を、爪の根元(爪母)に直接注射します。月1回程度の頻度で行い、効果が見られれば徐々に間隔を空けていきます。

4. 全身療法

重度の場合や、髪の毛の脱毛も同時に治療する場合に用いられます。

・全身性ステロイド療法:炎症を抑える効果が高いですが、長期使用には注意が必要です。

・JAK阻害薬:最新の治療法で、バリシチニブなどの薬剤が使われています。これらは、炎症を引き起こす細胞のシグナル伝達を阻害することで効果を発揮します。

5. その他の対症療法

・爪用の保湿剤やマニキュアを使用して見た目を改善する方法

・爪を適切な長さに保ち、外傷から保護する

円形脱毛症に伴う爪の変化は、決して珍しいものではありません。症状に気づいたら、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。適切な治療を受けることで、爪の健康を取り戻せる可能性が高いです。また、爪の変化は円形脱毛症の重症度や予後を示す指標にもなりうるため、治療方針の決定にも重要な役割を果たします。

円形脱毛症と爪の関係について理解を深めることで、早期発見・早期治療につながります。気になる症状があれば、ためらわずに皮膚科を受診してください。専門医による適切な診断と治療が、爪の健康回復への近道となります。

参考文献:

Pelzer, C.; Iorizzo, M. Alopecia Areata of the Nails: Diagnosis and Management. J. Clin. Med. 2024, 13, 3292. https://doi.org/10.3390/jcm13113292

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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