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巨人・菅野、NY紙が移籍先候補に挙げたメジャー3球団の先発ローテ事情

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
巨人・菅野のメジャー移籍の可能性を報じNYポスト紙電子版(キャプチャー画像)

 ニューヨーク・ポスト紙の電子版は、巨人のエース、菅野智之が今オフにポスティングシステムを利用してのメジャー移籍の可能性があると報じた

 記事では実際の菅野を視察した2名のスカウト評として、「メジャーでも強力な先発3番手になれる」と紹介。先発投手陣が手薄で、補強予算に余裕があるチームとして、トロント・ブルージェイズ、サンフランシスコ・ジャイアンツ、シカゴ・ホワイトソックスの3球団の具体名を挙げた。

 今季、29勝31敗でナショナル・リーグ西地区3位だったジャイアンツはプレイオフ出場を逃し、32勝28敗でアメリカン・リーグ東地区3位のブルージェイズと、35勝25敗でアメリカン・リーグ中地区2位だったホワイトソックスはプレイオフには出場したが1回戦で敗退した。

 この3チームの来季の予想先発ローテーションの布陣を見てみたい。

 下記の表の年俸は出来高を含まない基本給で、2020年の分は契約で結ばれていた162試合フルシーズン分なので、60試合の短縮シーズンで実際に選手に払われたものとは異なる。2021年分の調停前選手は、メジャー最低年俸かそれに少しだけ上乗せされた額なので60万ドル(約6300万円)前後になる。

 また、菅野がメジャーに来た場合の年俸は600万ドル(約6億3000万円)から700万ドル(約7億3500万円)になると日本では報じられているが、これは誤訳であり、ニューヨーク・ポスト紙は日本ではスター選手でも最高600万ドルから700万ドル止まりと日本球界の給与事情を説明したに過ぎない。菅野がメジャーに挑戦した場合には、もっと高い年俸になると予想され、最低でも年俸900万ドル(約9億4500万円)、1200万ドル(約12億6000万円)前後になると予想する声がアメリカでは多い。

 コロナ禍による大幅な減収で、今オフはシビアな契約が続きそうだが、フリーエージェント(FA)市場に出てくる優秀な先発投手は非常に少ないので、菅野がメジャーに来るのならば、獲得に動く球団は多そうだ。

ジャイアンツ

ジャイアンツの今季の先発ローテーション投手(表作成:三尾圭)
ジャイアンツの今季の先発ローテーション投手(表作成:三尾圭)

 今季、ローテーションの中心投手として活躍したケビン・ゴーズマンを始め、ドリュー・スマイリー、トレバー・ケイヒルと先発ローテーションの半分がFAでチームを離れる可能性がある。この3人に加え、5年総額9000万ドル(約94億5000万円)の高額契約を結んでいたジェフ・サマージャとの契約も切れる。

 2019年に22試合に先発したタイラー・ビーディは今年3月にトミー・ジョン手術を受けており、来季の開幕には間に合わず、ジャイアンツは先発の頭数が絶対的に不足している。

 ゴーズマンに1890万ドル(約19億8450万円)のクオリファイング・オファー(QO)を提示。残留を希望しているゴーズマンはQOを受け入れる可能性はとても高い。両者は複数年契約の話し合いも始めている。また、スマイリーとの再契約を望んでいると地元紙は報じている。

 それでもサマージャの契約で浮いた分で、菅野を取りにいける。同地区のロサンゼルス・ドジャースとサンディエゴ・パドレスがピークを迎えていることもあり、ジャイアンツが勝負に出るタイミングは数年先。昨オフ同様に、今オフも大物FA獲得には動きそうもない。獲得してもドラフト指名権を失うことのない菅野と3年3000万ドル(約31億5000万円)から4000万ドル(約42億円)+ポスティング代の合計3588万ドル(約37億6740万円)から4763万ドル(約50億円)程度で契約できれば獲得に動きそうだ。

 ジャイアンツの監督は2005年に巨人でもプレーしたゲーブ・キャプラー。球団社長のファーハン・ザイディはドジャースのGM時代に前田健太を日本から獲得しただけでなく、2017年シーズン終盤にはトレードでダルビッシュ有を補強してワールドシリーズに出場しており、日本人投手の実力は高く評価している。

 ジョニー・クエイトがここ4年ほどはエースに相応しい活躍ができていないだけに、菅野は海を渡ってもジャイアンツのエースの座を保持しても不思議ではない。

ジャイアンツからQOを提示されたケビン・ゴーズマン。今オフにQO提示を受けたのはメジャー全体で6人しかいない(写真:三尾圭)
ジャイアンツからQOを提示されたケビン・ゴーズマン。今オフにQO提示を受けたのはメジャー全体で6人しかいない(写真:三尾圭)

ブルージェイズ

ブルージェイズの今季の先発ローテーション投手(表作成:三尾圭)
ブルージェイズの今季の先発ローテーション投手(表作成:三尾圭)

 昨オフに4年総額8000万ドル(約84億円)で迎え入れた柳賢振は移籍1年目から大型契約に値する活躍をしたが、柳以外の先発投手が酷かった。

 今季はシーズン中のトレードで先発を補強したが、ロビー・レイは期待したほどの働きはできなかった。嬉しい誤算だったのがタイワン・ウォーカーで、マリナーズから移籍後は防御率1.37と安定した働きだった。

 昨オフに2年総額2400万ドル(約25億2000万円)でFA移籍してきたタナー・ロアークは防御率が6点台後半、チェース・アンダーソンは7点台と大炎上。ロアークの来季契約は保証されているが、アンダーソンは50万ドル(約5250万円)でのバイアウト(契約買取)オプションを球団側が行使した。アンダーソンの来季年俸は950万ドル(約9億9750万円)だったので、ブルージェイズは900万ドル(約9億45000万円)を節約できた。

 今季メジャー・デビューを果たした100マイル右腕のネイト・ピアソンとドジャース時代にはオールスターにも選ばれたロス・ストリップリングの2投手は、来季の先発定着が期待される。マイナーにも有望な若手投手が多く、来季は数人の若手投手の先発ローテーション入りが期待される。若手を加えれば先発投手の頭数は足りるが、不足しているのが柳に次ぐ経験豊富なベテラン2番手の存在。

 サイ・ヤング賞に2度輝いているコリー・クルバーはテキサス・レンジャースが100万ドル(約1億500万円)を払って来季の1800万ドル(約18億9000万円)の年俸をバイアウトしてFAとなった。ブルージェイズはクルバー獲得に乗り出すと言われているが、クルバー争奪戦に敗れたときのプランBとして、菅野の獲得は悪い選択肢ではない。菅野がブルージェイズに入団すれば、2017年のWBC準決勝、日本対アメリカ戦で先発として投げあったロアークとローテーションを組むことになる。

 ブルージェイズには巨人時代に一緒にプレーした山口俊だけでなく、ブルペンには元阪神のラファエル・ドリスと元日本ハムのアンソニー・バスと日本球界経験者が揃っている。また、本拠地のロジャース・センターは巨人と同じ人工芝のドーム球場なので、菅野にとって馴染みやすい環境が用意されている。ただし、ロジャース・センターはメジャーで最も本塁打が出やすい球場として知られている。

ドジャース時代の2019年に最優秀防御率に輝き、昨オフに大型契約でブルージェイズにFAを移籍した柳賢振。3年連続となる勝率7割以上、防御率2.70以下を記録した(写真:三尾圭)
ドジャース時代の2019年に最優秀防御率に輝き、昨オフに大型契約でブルージェイズにFAを移籍した柳賢振。3年連続となる勝率7割以上、防御率2.70以下を記録した(写真:三尾圭)

ホワイトソックス

ホワイトソックスの今季の先発ローテーション投手(表作成:三尾圭)
ホワイトソックスの今季の先発ローテーション投手(表作成:三尾圭)

 候補球団として名前が挙がった3球団の中で最も理想的な移籍先がホワイトソックス。

 ニューヨーク・ヤンキースに次ぐアメリカン・リーグ2位の306得点を上げた強力打線とリーグ屈指のブルペン陣の援護を誇り、来季もプレイオフに出場できる可能性が3球団の中で最も高い。

 先発ローテーションは20代半ばの若手投手が多く、高額年俸を得ているのは元サイ・ヤング投手のダラス・カイケルだけ。今季、ノーヒットノーランを達成したルーカス・ジオリトとカイケルに次ぐ3番手として菅野が入れば、プレッシャーも大きくはない。

 ディラン・シーズ、デーン・ダニング、レイナルド・ロペスの若手トリオに加え、2018年9月にトミー・ジョン手術を受け、昨季と今季は全休した将来のエース候補、マイケル・コペックも来季は戻ってくる。

 昨オフに加入して、今季は期待外れに終わった34歳のベテラン左腕、ジオ・ゴンザレスは、球団が50万ドル(約5250万円)で来季の700万ドル(約7億3500万円)の契約を買い取ってFAとなった。

 ホワイトソックスは今オフのFA市場の目玉、トレバー・バウアー獲得に動くと言われている。今オフのFA市場には先発投手の大物が少なく、バウアーを他の球団に奪われた際の次のオプションは、2017年WBCの決勝戦の先発投手で、大会MVPに選ばれたマーカス・ストローマンまで下がってしまう。そのストローマンはメッツから提示された1890万ドル(約19億8450万円)のQOを受けて、1年契約で残留するのではと予想する声が多い。

 ホワイトソックスがバウアーを逃した場合には、ヤンキースからFAとなる田中将大か左腕のジェームス・パクストン、そして菅野が有力候補となりそうだ。

 新指揮官に就任したトニー・ラルーサはセントルイス・カージナルス時代にエースとして何度もビッグゲームで活躍した39歳のFA、アダム・ウェインライトの獲得に動くかもしれない。シーズン19勝以上を4度、最多勝に2度輝いているウェインライトを獲得できれば、メジャーでの経験が豊富な田中やパクストンではなく、新顔の菅野に傾くかもしれない。

今季はノーヒットノーランを達成して、2年連続でリーグ最多完封勝利を記録したルーカス・ジオリト(写真:三尾圭)
今季はノーヒットノーランを達成して、2年連続でリーグ最多完封勝利を記録したルーカス・ジオリト(写真:三尾圭)
スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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