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「涙が止まらなかった」ミュージカル界の新星・海宝直人が受け取った三浦春馬さんの言葉

中西正男芸能記者
新型コロナ禍での思い、そして、三浦春馬さんへの思いを語る海宝直人(事務所提供)

 三浦春馬さんが主演予定だったミュージカル「The Illusionist-イリュージョニスト-」(東京・日生劇場、来年1月18日から29日)で三浦さんの代役を務める海宝直人さん(32)。先月にはNHK連続テレビ小説「エール」にも出演、12月2日には舞台芸能活動25周年を記念したニューアルバム「Break a leg!」もリリースしました。7歳からキャリアを積み重ね、今やミュージカル界のトップランナーとなりましたが、新型コロナ禍で自らの仕事について戸惑う部分もあったといいます。そして、その迷いの霧を晴らしたのが、三浦さんの言葉でした。

「すでに見たんです」

 そもそも、春馬さんと初めてお会いしたのは、2017年の読売演劇大賞の会場でした。春馬さんが杉村春子賞を受賞されて、僕は出演したミュージカル「ジャージー・ボーイズ」が最優秀作品賞を受賞したことで会場に行ってまして。そこでお話をさせてもらいました。

 人づてに、当時僕が出演していた舞台「ノートルダムの鐘」を春馬さんが見たいとおっしゃっているという話は聞いていたので「もしよろしければ、来ていただけましたら」と申し上げたんです。

 そこで、春馬さんが「実は、もう、すでに見たんです」とおっしゃって。「いつか、お仕事をご一緒したいです」と話をしたのがファーストコンタクトでした。

 実は、この「ノートルダムの鐘」は僕にとって非常に大きな作品で、ターニングポイントと言える作品でもあったんです。

 まずキャラクターが背負っているものが大きいし、メッセージ性も高くて、内容もシリアス。歌の技術的にも本当に難しいし、毎日壁にぶち当たっていた舞台でした。

 その作品を春馬さんが見てくださっていて、しかも、その直後に接点も生まれた。なんとも言えないご縁を感じてもいました。

 そこから互いの舞台を観に行ったりして、親しい共通のスタッフさん通じて、交流を深めさせてもらっていたんです。

作品を届ける

 そして去年、この「イリュージョニスト」という作品のワークショップでご一緒しまして。共に作品を作っていくことを体験させてもらいました。

 ワークショップは短い時間でしたけど、作品への愛情や熱量をひしひしと感じましたし、きっとすごい作品になるんだろうなという確信を抱いたことを鮮明に覚えています。

 今も、スタッフさんは全力で作品をブラッシュアップしてくださってますし、どんどん見ごたえのある作品に仕上がっているのは間違いないです。

 そして、誰より春馬さんがこの公演をお客さまに届けることを強く願っていたと思いますし、スタッフさんもそのために日々努力をしてくださっている。

 僕自身も何とかお客さまに届けるべき作品だと思っていますし、もし自分にできることがあるならば、この作品をお届けするために全力を尽くすべきじゃないか。僭越ながら、そんな思いで(代役を)受けさせていただきました。

 不安がないって言ったら、ウソになるとは思います。でも、本当に素晴らしいキャストの皆さんが揃ってらっしゃるので、皆さんを頼りながら、一緒に作品を作っていけたらなと思っているところです。

 今の自分の心持ちとしては、やるべきことは普段と変わらないと考えるようにしています。もちろん、春馬さんの思いをカンパニー全員で背負って、春馬さんの思いと共にやっていくんですけど、自分が俳優としてやるべきことはいつもと変わらない。

 とにかく作品と誠実に向き合う。それしかないと思っているので、そういう意味では意識しすぎず、真っすぐ作品にぶつかろうと思っています。

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「涙が止まらなかった」

 ただ、今年は、ただでさえ新型コロナという要素があって、仕事への思いをこれでもかと見つめ直した年でもありました。

 3月末からほとんどのカンパニーが動きを止めて、何もできない状況になりました。その中でもできることを模索してYouTubeを始めた役者さんも多いですし、僕もリモートでバンドのセッションをしたり、これまでやらなかったことを始めました。

 自宅に機材をそろえて、歌を録ったり、編集したりという作業も初めてやったんです。経験がなかったことだけに、自分の歌を客観的に見つめ直す時間になったと感じています。編集するので、何回も聞き直して、録り直しもしますし、自分のパフォーマンスを見直す機会になったと思います。

 自粛が明けて最初の作品も、無観客配信の舞台だったので、目の前にお客さんがいらっしゃらない。拍手もないし、笑い声もない。反応が一切ない。そういう環境でやることもチャレンジでしたけど、何も反応がないからこそ、いつも以上に、自分の芝居と向き合う感覚にもなりました。

 そういう時間を経て、客観的な視点みたいなものがより育った気はしてますね。舞台になると、僕たちはその場に没頭しますし、役にも入り込んでいくんですけど、期せずして、コロナ禍で“入り込む自分を客観的に見る自分”という目線が大きく養われたと感じています。以前から、その方向の視線を持つことも必要だとは思っていたんですけど、まさにそこが鍛えられたといいますか。

 もちろん、大変なことが圧倒的に多いですし、今回12月2日リリースのアルバムも「Break a leg!」というタイトルにしました。

 これはニューヨークなどで使われている演劇用語で「グッドラック!」みたいな意味でもあるんですけど、こういう状況なので、ちょっとでも励ましになったり、寄り添うとかそういう思いを込めてつけさせてもらいました。

 新型コロナの流れが大きくなってきた頃、今も鮮烈に残っている春馬さんの姿がありまして。僕が春馬さんの舞台を最後に拝見したのが、今年3月の「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド〜汚れなき瞳〜」でした。

 ちょうど、僕が出ていた「アナスタシア」という舞台もコロナ禍で公演が途中で休止になったりもしていたんですけど、休止になる前に春馬さんは舞台を観に来てくださっていたんです。

 そんな中、その直後に上演された「ホイッスル―」の終演後挨拶で春馬さんがおっしゃったんです。

 役者はこうなるとできることがなくて悔しい思いをしている。さらには、こういう状況下でエンターテインメントは必要ないのではないかとも言われる。でも、本当にそうなのか。最近、観た作品があって、そこで多くのことを感じた。やるべきことはある。

 そんな文脈のことをおっしゃっていて、そこにエンターテインメントへの強い愛を感じました。しかも、そこで僕が出ていた舞台のことを話してくださってもいた。そんなことが重なって、より一層、春馬さんの言葉が心に染み込んだといいますか。

 カンパニーは違っても、同じ気持ちを共有しているんだ。そして、春馬さんはカンパニーを背負って、誰よりも責任感を持って、エンターテインメントに愛を注がれているんだ。そういう思いが一気に流れ込んできて、挨拶を聞いていて、涙が止まらなかったんです。

 今、こういう状況になって、より厳しくはなってしまいましたが、やっぱり海外で公演に出演したいし、その思いは逆に今だからこそ強く持とうとも思っています。

 今回のアルバムでは、ロンドンのシンガーであり女優のアレクサンドラ・バークさんと一緒に英語で歌わせてもらったんです。素晴らしい経験でしたし、改めて、海外でご一緒出来たらなと思いました。そこは熱を持ってこれからもやっていきたいと思っています。

 こういう時期だからこそ、何とかエンターテインメントの力を見せる。変にカッコつけて言ってるわけではなく(笑)、本当にそう思うんです。

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■海宝直人(かいほう・なおと)

1988年7月4日生まれ。千葉県出身。7歳の時に劇団四季のミュージカル「美女と野獣」のチップ役で舞台デビュー。劇団四季 「ノートルダムの鐘」カジモド役、東宝ミュージカル「レ・ミゼラブル」、劇団四季「アラジン」「ジャージー・ボーイズ」「アナスタシア」など数多くの舞台に出演する。ロックバンド「CYANOTYPE」としても活動。12月2日にはアルバム「Break a leg!」をリリース。また、三浦春馬さんが主演予定だったミュージカル「The Illusionist-イリュージョニスト-」(東京・日生劇場、1月18日~29日)では三浦さんの代役を務める。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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