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【F1】角田裕毅が公式テストで2番手を獲得。もっと話題になってもいい20歳の好パフォーマンス!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
角田裕毅(つのだ・ゆうき/アルファタウリ)【写真:Red Bull】

7年ぶりの日本人F1ドライバー、角田裕毅(つのだ・ゆうき/アルファタウリ)が3月12日〜14日にバーレーンで開催されたF1公式テストにおいて総合2番手の好タイムをマークした。首位はマックス・フェルスタッペン(レッドブル)で、その差は僅か0.093秒

すでに100戦以上もF1を戦っているフェルスタッペンとほぼ変わらないタイムをマークした角田にファンの期待は高まるばかりだ。

Yahoo!ニュースで速報記事が配信された後、世間を巻き込んで一気に盛り上がっていくのかと想像していたが、各記事のコメント数は決して多くなく、ちょっと拍子抜けするくらい静かな反応だった。

バーレーンでテスト走行する角田
バーレーンでテスト走行する角田写真:ロイター/アフロ

テストの結果は冷静に

目の肥えたファンにしてみれば「あくまでテスト走行なのだから、そこで盛り上がっても意味はない」とお叱りを受けるかもしれない。もちろん、テストはテストであることは私も承知している。長年F1を見ている日本のファンはテスト走行の速い遅いで一喜一憂したりせず、冷静だ。

なぜならF1のテスト走行は各チームがそれぞれのマシンが必要とする走行データを収集することが主目的で、タイムを競うものではないからだ。

今回のバーレーンテストでも見られたが、センサーをつけた網のようなエアロレイクを装着して走ったり、空気の流れを可視化するために蛍光塗料を吹きかけて走行するフロービズを行ったり、チームは粛々と走行メニューをこなしていくものだ。そして、3日間のテストで収集したデータを解析し、レース本番に向けた準備を行うのである。

エアロレイクをつけて走行するフェルスタッペン
エアロレイクをつけて走行するフェルスタッペン写真:ロイター/アフロ

そんなテストセッションの最終枠となる3日目・午後の走行を担当した角田はロングランの後、予選を想定したタイムアタックを行い1分29秒053をマーク。フェルスタッペンに肉薄するタイムだったものの、角田が装着していたタイヤは最も柔らかい=グリップ力があり好タイムを出しやすいC5というものだった。

一方、フェルスタッペンは一段階硬い=グリップ力が少し落ちるC4で首位のタイムを出したので、両者のパフォーマンスは直接比較することができない。ましてや3月26日(金)〜28日(日)に同じサーキットで開催される開幕戦・バーレーンGPで最も柔らかいタイヤとして使われるのはC4であり、C5は使われないスペック。C5が登場するのは第5戦モナコGPで、ルーキーの角田は最もハイグリップなタイヤをモナコに向けて事前に経験した、その上で出た2番手タイムということだ。

フェルスタッペンと同じC4タイヤで角田が近いタイムをマークすれば誰もが色めき立ったかもしれない。

砂漠の中のサーキットだけに砂埃に悩まされたセッションもあったバーレーンテスト
砂漠の中のサーキットだけに砂埃に悩まされたセッションもあったバーレーンテスト写真:ロイター/アフロ

日本人ドライバーがテスト走行で首位や2位に入ったことは過去にもあり、その部分で驚くことはないが、特筆すべきは3日間のテストの総仕上げとなる最終セッションにルーキーの角田が起用されたことだ。

ピエール・ガスリーと交互にテストセッションを担当したのでこういう順番になったのかもしれないが、普通なら3年半のF1経験があり、昨年型マシンを熟知しているガスリーに最後の走行を任せるだろう。

角田裕毅(左)とピエール・ガスリー(右)【写真:Red Bull】
角田裕毅(左)とピエール・ガスリー(右)【写真:Red Bull】

そんな大事なセッションを任されていることに、角田裕毅がチームから高い信頼と期待を勝ち取っていることがうかがえる。アルファタウリのフランツ・トスト代表は「3日間で2248kmを走りきり、非常に良い3日間のテストになった。ピエールはすべてのセッションで安定しており、裕毅は今日の午後に素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた」とコメント。ニューマシン、AT02の競争力が高く、チームが良い状態にあることが伝わってくる。

世界中から期待されるルーキー

日本のファンがテストの結果に冷静な一方で、海外のファンや関係者の方が大物ルーキー、角田に大きな関心を示している印象だ。

F1テストの映像では何度も角田の走りが国際映像でフィーチャーされ、ピットでの落ち着いた立ち振る舞いも含めて、その一挙手一投足が注目されているのだ。今季のルーキーはミック・シューマッハ(ハース)、ニキータ・マゼピン(ハース)と角田の3人であるが、最年少の角田に対する注目度がひときわ高いのがその絵作りを見てもよくわかる。

(Twitter: F1公式ツイッターで紹介されるフェルスタッペンと角田のアタック映像)

角田は昨年、FIA F2での大活躍(3勝、ランキング3位)でFIA(国際自動車連盟)「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。ずば抜けた可能性を持った新人にしか与えられない賞であり、過去にはシャルル・ルクレール(現フェラーリ)らが受賞している。日本人ドライバーとしては角田が初めての受賞であり、昨年の受賞に対して異論がほとんどなかったのも驚きであった。

もはや日本の角田裕毅というより、世界が恋する「YUKI TSUNODA」になっている感さえある。

抜群のセンスを持つブレーキングに加えて、スムースなドライビング、そしてまだ少年のあどけなさが残る雰囲気。角田は今までの日本人F1ドライバーとは明らかに違う人気と、非常に高い前評判を持ってF1にデビューする。

角田裕毅
角田裕毅写真:ロイター/アフロ

開幕戦はテストの地、バーレーン

角田はまさに今、良い流れにある。F1ルーキーの彼にとって、開幕戦の舞台がバーレーンGPになったことはプラス要素だ。

なぜならF1はスペインのカタロニアサーキットでテスト走行をし、南半球のオーストラリアに移動し、事前のテスト走行ができない半公道コースのメルボルンのアルバートパークサーキット(オーストラリアGP)で開幕戦を迎えるのが通例だからだ。

当初開幕戦に予定されていたオーストラリアGP
当初開幕戦に予定されていたオーストラリアGP写真:ロイター/アフロ

ルーキーにとってみれば初めて走るコースで、グランプリウィークの流れを掴まなければならない。さらに、金曜日、土曜日のフリー走行はただでさえ時間が限られているのに、今季は金曜日の走行が1回あたり1時間半から1時間に短縮され、予選までの走行時間は4時間から3時間に減少してしまった。

テスト走行と同じサーキットで開幕戦を迎えるということは、ルーキーにとっては経験者とのギャップをデビュー戦から詰めていける、またとないチャンスである。ましてやバーレーン・インターナショナルサーキットは角田が昨年のFIA F2で最下位から怒涛の追い上げを見せたコース。同サーキットの高速レイアウトコースでは優勝と相性は非常に良い。

バーレーン・インターナショナルサーキット
バーレーン・インターナショナルサーキット写真:ロイター/アフロ

さらに今季のアルファタウリのマシン、AT02は非常にバランスに優れたマシンに仕上がっているようだ。今季の車両規定は基本的には昨年を踏襲する形だがアップデートのためのトークン制度(2つまで)を使い、マシンをモディファイできる。アルファタウリは2トークンをフロントサスペンションの変更などマシン前方部分の改良に使ってきた。好感触を得ていた後方部分の中身は昨年のままである。

また、「新骨格」「全くの新設計」になったというホンダのパワーユニットはチームの強い武器になると考えられる。兄貴分チーム「レッドブル」のテストでの好調ぶりを見ても今季のホンダは昨年以上のパフォーマンスを見せてくれそうだ。

アルファタウリ・ホンダ AT02
アルファタウリ・ホンダ AT02写真:ロイター/アフロ

テストでは「メルセデス」「アストンマーティン」にギアボックスなどのトラブルが発生。王者メルセデスは多くの課題を残しながら開幕戦に挑むことになる。

角田のチーム「アルファタウリ」が居るグリッド中段の争いは昨年以上の激しいものになると予想される。「マクラーレン」や「アルピーヌ」との勝負で角田がFIA F2で見せたような非凡なレース勘を見せてくれれば、今季のF1はとてもワクワクしたものになるに違いない。

日本人選手がヨチヨチ歩きの状態でF1キャリアをスタートさせていた時代はもう過去の話。今年の開幕戦・バーレーンGPはファンもいきなりアクセル全開で楽しむべきだろう。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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