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上位進出枠を争うトヨタ自動車とリコー。焦点はエナジーセーブとターンオーバー【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
リコーのエリソン(右)は右中間、左中間でのチャンスメイクも光る。(写真:築田 純/アフロスポーツ)

 6節を消化した今季の日本最高峰トップリーグにあって、ここまで全勝をキープしているのがサントリー、神戸製鋼、パナソニック。2つカンファレンスがあるうち、サントリーと神戸製鋼はレッドカンファレンス、パナソニックはホワイトカンファレンスの上位に位置する。日本選手権を兼ねた優勝を争うトーナメントには各組上位2チームずつしか行けないとあって、この3チームを追う2番手集団は上位との直接対決まで星を落とせまい。

 10月7、8日の第7節。終盤戦の盛り上がりを左右しうる中位陣同士のカードとして期待されるのが、いわぎんスタジアムでのトヨタ自動車対リコーの一戦だ。それぞれレッドカンファレンス、ホワイトカンファレンスの3位で、戦績も交流戦を含め4勝2敗と同じだ。持てる潜在能力を目覚めさせつつある集団という点でも共通点があり、注目される。

 リコーは一昨季こそ下部との入替戦に出場も、アウトサイドセンターのタマティ・エリソン曰く「ゆっくり着実に自信をつけている」。一時期あった指導体制の乱れなども過去の話となり、昨季は16チーム中史上最高位の6位に入った。

 今季は交流戦で当たったサントリー、同組のヤマハといった昨季1、2位のチームには敗れているが、タックルからの素早い起立やラインスピードなど、防御で魅す。低空タックルで相手をひっくり返すオープンサイドフランカーの武者大輔は、こう自信を口にする。

「チーム全体として(相手の足元への)チョップタックルができるようになってきた。僕らはひたむきなプレーが強み」

 かたや2004年から4シーズン連続で4強入りのトヨタ自動車は、前年度16チーム中8位も今年度は元南アフリカ代表監督のジェイク・ホワイトをボスに招き、生来得意とするフィジカルラグビーを再整備。今秋初の日本代表候補入りを果たしたウイングのヘンリー ジェイミーは言う。

「キックして、フォワードの強いプレーを…。南アフリカみたいなスタイルを信じています」

 いずれも密集近辺で光る突進役を揃え、スクラムで相手の反則を奪いうる。それだけに勝負のカギを握りそうなのは、トヨタ自動車のライオネル・クロニエ、リコーのロビー・ロビンソンという両司令塔陣の試合運びか。飛び出す防御の裏へのキックか、ポジショニングが定まる前の相手ウイングの位置への展開か…。正しい一手を下し続けた方が、自軍の大砲のエナジーを最後まで保てそうだ。

 もちろん、ぶつかり合う局面でのつば競り合いも興味を誘う。

 トヨタ自動車は前節のクボタ戦で前半こそ大量リードも後半に40-40と同点に追いつかれている。防御で接点付近に人が寄る傾向を突かれ、ブラインドサイドフランカーである新人の姫野和樹キャプテンは「チームがどういう状況かの把握が必要だった。試合中、自分のことで精いっぱいになってしまった」と反省した。

 今度のゲームに備え、黒子役のオープンサイドフランカーで吉田光治郎、安藤泰洋というキャプテン経験者をそれぞれ先発、リザーブで配置。いずれも要所でのターンオーバー、そこに至るまでの接点へ飛び込むか否かの判断力に定評がある。この2人のリレーがトヨタ自動車の防御を引き締められるか。

 かたやリコーでの攻守逆転にひと役買いそうなのがロックで元日本代表のマイケル・ブロードハースト、ナンバーエイトで現役日本代表の松橋周平、さらにアウトサイドセンターのエリソンだ。これまでスタンドオフに入ることの多かったエリソンは、前節のNEC戦では久々に本職に入る。ピンチを何度も救い、「スタンドオフの時はあまりジャッカルに入らないように言われていたのですが、アウトサイドセンターの時はもうちょっとそこは自由」と笑っていた。 

 全体的なエナジーセーブと、要所でのターンオーバーの有無。これが今度の中位陣対決の注目点だ。

<第5節私的ベストフィフティーン>

1=左プロップ

吉田康平(トヨタ自動車)…クボタのスクラムを終始、圧倒。

2=フッカー

堀江翔太(パナソニック)…NTTコムとの一戦。球が渡れば詰め寄る相手をわずかずつかわす。

3=右プロップ

垣永真之介(サントリー)…スペースへ駆け込むランで攻撃を彩り、モールを壁役として支える。

4=ロック

ジョー・ウィーラー(サントリー)…NTTドコモ戦で先発。連続攻撃のさなかの正確なハンドリング。ラインアウトも安定。

5=ロック

ヒーナン ダニエル(パナソニック)…再三、ゲインラインをぶち破る。対するNTTコムのヴィリー・ブリッツが防御時の肉弾戦で魅したことと相まって、ロック対決が試合を味わい深くした。

6=ブラインドサイドフランカー

前川鐘平(神戸製鋼)…オープンサイドフランカーとして、序盤から鋭い出足の防御を繰り出す。対するヤマハの突進役、ヴィリアミ・タヒトゥアをタックルで引きずり倒した場面は、そのまま攻守逆転と勝ち越しトライに繋がった。

7=オープンサイドフランカー

武者大輔(リコー)…NEC戦の後半初頭、自陣で鋭いタックル。タマティ・エリソン(後述)のジャッカルと相まってピンチを防いだ。その他の場面でも地上戦で光った。

8=ナンバーエイト

ジュアン・スミス(トヨタ自動車)…クボタ戦で途中出場。追い上げられる展開にあって、相手防御がひずんだ攻防局面の次のシーンに顔を出してさら突破。流れを手繰り寄せる。

9=スクラムハーフ

田中史朗(パナソニック)…攻めては多彩な選択肢を駆使し、守っては相手の持つ球に手をかける防御で連続攻撃を断つ。

10=スタンドオフ

ベリック・バーンズ(パナソニック)…トライを演出したクロスキック、相手を引き付けてのパス、空中へ蹴り上げるハイパント。

11=ウイング

大橋由和(神戸製鋼)…前川のタックルをきっかけとした勝ち越しトライのシーンでは、深い角度から攻撃ラインに駆け込んで防御を引き付ける。ロックの安井龍太のフィニッシュを促した。空中戦へのチェイスなどでも役割を全う。アウトサイドセンターに入った重一生も大外の防御を固めた。

12=インサイドセンター

立川理道(クボタ)…大きく球を回す戦術を遂行するなか、防御陣形を見定めてのキック、パスで追い上げムードを作る。クボタの得点場面では、この人の妙技が重なっている。

13=アウトサイドセンター 

タマティ・エリソン(リコー)…防御網が破られた際のカバー、攻撃中の球を奪われそうな接点へのサポート、自陣ゴール前でのジャッカル…。勝負どころでの勘所を得た動きで快勝劇を演出。

14=ウイング

ホセア・サウマキ(キヤノン)…スクラムやラインアウトの真横のスペースを何度も破り、タッチライン際も快走。コカ・コーラから3トライを奪い、今季初勝利を挙げる。

15=フルバック

アダム・アシュリークーパー(神戸製鋼)…球を蹴られる地点で余裕を持って位置取り。捕球するやしなやかに駆け上がり、味方へ球を離す。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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