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アトピー性皮膚炎による不眠が脳に与える影響とは?最新研究から解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

「アトピー性皮膚炎と睡眠障害の関係|認知機能低下のリスクと対策」

アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)患者の多くが悩む夜間のかゆみ。この症状による睡眠障害が、実は私たちの脳の働きにも大きな影響を与える可能性があることが、最新の研究で明らかになってきました。

【アトピー性皮膚炎による睡眠障害のメカニズム】

アトピーによる睡眠障害は、単なる「かゆみで眠れない」という問題だけではありません。

最新の研究では、アトピーに伴う慢性的な炎症が、体内の免疫システムに影響を与え、それが睡眠-覚醒リズムを狂わせる可能性が指摘されています。

特に夜間に症状が悪化しやすい傾向があり、以下のような睡眠の問題が報告されています:

・寝つきが悪くなる(睡眠潜時の延長)

・夜中に何度も目が覚める(睡眠の分断化)

・熟睡感が得られない(睡眠効率の低下)

・浅い睡眠が増える(深睡眠の減少)

・朝早く目が覚める(早朝覚醒)

睡眠ポリグラフ検査による客観的な測定でも、アトピー患者さんの睡眠の質が著しく低下していることが確認されています。

【認知機能への影響と長期的なリスク】

27万人以上を対象とした大規模な研究により、アトピーによる睡眠障害が認知機能に与える影響が明らかになってきました。

短期的な影響として:

・注意力散漫

・集中力低下

・記憶力の減退

・学習能力の低下

・情報処理速度の遅延

・感情コントロールの困難さ

長期的な影響として:

・学業成績への影響(特に子どもの場合)

・知能指数(IQ)の低下リスク

・ストレス耐性の低下

・うつ病などの精神疾患リスクの上昇

特に子どもの場合、脳の発達段階にある重要な時期だけに、適切な対策が必要です。

【睡眠の質を改善するための包括的アプローチ】

1. 医学的治療

・適切な強さのステロイド外用薬の使用

・かゆみを抑える抗ヒスタミン薬の活用

・必要に応じた睡眠導入剤の使用(医師と相談)

・メラトニン製剤の検討(医師と相談)

2. スキンケア対策

・就寝前の適切な保湿

・清潔な寝具の使用

・肌に優しい素材の寝間着選び

・爪を短く切り、掻破予防

3. 環境整備

・寝室の温度管理(18-23度が理想)

・適切な湿度維持(40-60%)

・寝具の清潔保持

・空気清浄機の活用

4. 生活習慣の改善

・規則正しい就寝・起床時間の確保

・就寝前のリラックスタイムの確保

・ストレス管理技法の習得

・適度な運動習慣

5. 心理的サポート

・認知行動療法の活用

・ストレスマネジメント

・家族の理解と支援

・必要に応じた専門家カウンセリング

アトピー性皮膚炎の治療では、皮膚症状の改善だけでなく、睡眠の質の向上を含めた総合的なアプローチが不可欠です。特に子どもの場合、将来の認知機能への影響を考慮すると、早期からの適切な対策が重要といえます。

日本におけるアトピー患者数は増加傾向にあり、小児で約12%、成人で約8%とされています。欧米の研究結果は日本人患者にも応用できる可能性が高く、睡眠障害への対策は喫緊の課題といえます。

治療法の選択には、年齢や症状の程度、生活環境などを考慮した個別化アプローチが必要です。また、定期的な経過観察を行い、必要に応じて治療内容を調整することも重要です。

最新の研究では、デジタルヘルステクノロジーを活用した睡眠モニタリングや、AIを用いた個別化された治療提案なども始まっており、今後の発展が期待されています。

参考文献:

1. Khosravi A, et al. Sleep Efficiency and Neurocognitive Decline in Atopic Dermatitis: A Systematic Review. Acta Derm Venereol 2024; 104: adv40459.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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