おカネをバラまけば出生率は上がるのか?-先進国に見る不都合なデータ?-
昨日、2022年の出生数が1899年の人口動態統計開始後初めて80万人を割り込んだことが公表されました。
去年の出生数は79万9728人 初めて80万人下回る 厚労省 (NHK 2023年2月28日 14時52分)
これまでも80万人を切るらしいとの情報が飛び交っていましたから事前に織り込み済みだったとは言うものの、日本の出生減は深刻です。
報道によれば、岸田総理は、
出生数減は危機的な状況だとの認識を示し「少子化のトレンドを反転させるために子ども子育て政策を具体化し、政策を進めていくことが重要だ」
「22年出生数、初の80万人割れ 少子化、10年超速いペース」(2023年2月28日 22時21分 東京新聞(共同通信))
と述べたそうですが、80万人を切ったから危機的な状況なのでしょうか?100万人(2016年)や90万人(2019年)では問題なかったのでしょうか?
このように、日本の少子化は今に始まったことではないですし、少子化対策も1990年のいわゆる1.57ショックを契機に実施はされてきました。
そうしたなか、今年1月に岸田総理が異次元の少子化対策を打ちだしてから、子ども予算倍増、N分N乗、所得制限なしの児童手当等々、すでに子供がいる世帯向けの給付が矢継ぎ早に提案されています。
ちなみに、N分N乗でもてはやされていますフランスの出生率は水準は高いものの最近は低下気味です。
こうした異次元の少子化対策として挙げられる施策を見ていますと、なんとなく、海外での事例や、市区町村や企業レベルで出生増の効果があったと思わしき施策を並べるだけの少子化対策のデパートのような状態になっている気がしてなりませんし、そもそも少子化の原因は金銭面にあり!という判断がなされているようです(もちろん、強制的に子どもを産ませるわけにはいきませんからインセンティブに働きかけることしかできないという制約もあるとは思いますが)。
しかし、OECD諸国で比べてみますと、実は日本の子育て関係支出は総額で見ればそん色はありませんが、確かに現金給付は若干低めなのは否めません。
しかし、本当に、おカネをバラまけば日本の深刻な少子化は反転するのでしょうか?
以下では、日本を含むOECD諸国に関して、出生率といくつかの変数の関係を見てみたいと思います。
まずは、子育て支援と出生率の関係です。
上のグラフからは、現物給付を含む子育て支援は合計特殊出生率にはマイナスとなっていて、現金給付だけに限ればプラスとなっています。ただし、プラスの影響が小さすぎて費用対効果が見合うかは甚だ疑問ですね。
なお、日本においても旧民主党政権の子ども手当以降、現金支援は拡充されてきたわけですが、出生率とはマイナスの関係となっています。
次に、高齢者向け社会保障給付と出生率の関係です。
上のグラフからは、高齢者向け社会保障給付の充実は合計特殊出生率にマイナスの関係があることが示唆されます。一般的には、高給付=高負担なので子どもを持つ現役世代の負担が重くなれば出生率が下がるのと、老後の保障が厚くなれば子どもに頼らなくてもよくなるので出生率が下がることになります。
最後は、政府債務残高と出生率の関係です。
上のグラフからは、政府債務残高の増加は、将来の税負担増となるため、出生率にマイナスの関係を示しています。
なお、以上のような関係は単なる相関関係でしかなく、因果関係を表すものではありませんから、一概に現金給付の拡充で出生増!という経路を否定するものではないということには留意が必要ですが、先進国のデータを見ても、おカネのバラマキが少子化の特効薬となるわけではない必ずしもないことも示しているように思えます。
筆者は、おカネのバラマキ策だけが先行して、それを根拠づけるエビデンスが、政府や専門家から出てこないことに一抹の不安を覚えている次第です。
おカネが貰えるなら誰しも嬉しいことは間違いありませんが、一連の少子化対策が果たして本当に負担に見合った効果があるのか、一度立ち止まって考えてみる必要があるのではないでしょうか?
現状では、政治家はバラまきたがり、国民は貰いたがる。そしてそのツケは子どもや孫が負わされ、少子化はさらに進む。まさに、少子化スパイラルの入り口にいるような気がしてなりません。
最後に蛇足ですが、個人的には、少子化対策云々よりも、女性人口の減少が少子化に致命的だと考えています。