【日本酒の歴史】酵母の研究が進むにつれて明らかになっていった!吟醸酒はどうやって生まれたの?
それは昭和初期、吟醸酒という名の秘密結社がひっそりとその姿を現した頃の話です。
吟味して醸す「吟醸」という響きは、杜氏たちの間で謎めいた魅力を持って広まっていました。
しかし、その技術は一種の禁術、門外不出の一子相伝であり、杜氏の一番弟子だけに囁かれるものだったのです。
1920年代、国立醸造試験所にて酵母の秘密が解明され、ある種の特殊酵母を用いると酒に独特の香味が宿ることが分かり始めました。
この酵母たちは、ただの微生物ではなく、まるで酒に命を吹き込む精霊のように酒を仕立て上げたのです。
昭和5年、竪型精米機という酒造りの神器が登場し、玄米の半分を糠にするという精米技術が普及し、吟醸酒の土台が完成しました。
そして迎えた戦後、吟醸の技は小川知可良や野白金一といった酒の錬金術師たちによって新たな酵母が分離され、次第にその香味が世に広がり始めます。
熊本酵母の登場で低温でも香りが際立つ華やかな酒が誕生し、これが吟醸酒ブームの端緒となりました。
しかし、当時の市場はまだこの高級酒を受け入れる準備ができておらず、吟醸酒は出品用の神酒のように密かに造られていたのです。
やがて、山田錦という酒米と熊本酵母との相性が見出され、吟醸酒は一種の公式「YK35」として定式化され、名酒のレシピが形作られていくこととなりました。
それは、まさに杜氏たちが代々受け継いできた魔法が、ついに現代の陽の光を浴びることになった瞬間だったのです。
参考文献
坂口謹一郎(監修)(2000)『日本の酒の歴史』(復刻第1刷)研成社