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夏の甲子園。この名勝負を覚えてますか 2018年/金足農・吉田輝星vs横浜・万波中正!

楊順行スポーツライター
吉田輝星のストレートがうなった2018年夏の甲子園(写真:アフロ)

■第100回全国高校野球選手権大会 3回戦

横 浜 4=200 001 100

金足農 5=002 000 03X

「初球からフルスイングしろよ!」

 横浜(南神奈川)との3回戦。2対4と2点を追う金足農(秋田)は8回裏、連打で無死一、二塁としたが、続く大友朝陽が送りバントを失敗する。二、三塁に進めてまずは同点を狙いたいところだったが、1死で走者はそのまま。イヤなムードだ。

 打席には、六番の高橋佑輔が向かう。副主将の菅原天空は、自らの判断でタイムを要求すると、高橋に「フルスイング」を耳打ちした。こういう意図だ。

「バント失敗で、相手に流れが行きかけた場面です。次の1球しだいで、流れが本当に変わると思ったので、結果はどうあれ振っていこう、と」

 その通り、高橋が横浜・板川佳矢の初球・浮いた変化球をフルスイングすると、打球はフォローの風にも乗って伸び、バックスクリーンへ飛び込む。

「入学以来2本目。センターフライだと思ったので、頭の中は真っ白です」という高橋のホームランは、優勝候補の横浜を終盤に打ちのめす劇的な逆転3ランとなった。

 そして9回は、「高橋の気合いがうれしかった」という大黒柱・吉田輝星(現日本ハム)が三者三振で締めて5対4。横浜・平田徹監督が試合後、

「まさか……まだ気持ちの整理がつきません」

 とうめいた金星だった。

100回大会。秋田勢は第1回以来の決勝進出

 このジャイアント・キリング、むろんエース・吉田の投球なしには語れない。

 1回戦は鹿児島実を14三振1失点。2回戦、大垣日大(岐阜)を13三振3失点。そしてこの日は、横浜打線に12安打されながら4失点でしのぎ、またも14三振。秋田大会でも43回で57三振だから、合計70回を1人で投げて98三振というドクターKぶりだ。

 最速150キロのストレートを、「自分では、3段階あるつもり」のギアで制御する。ストライク先行の「1」、走者を背負うと体をより大きく使って「2」、まっすぐの伸びで空振りを取る「3」。たとえば横浜戦、ボールではあったが9回最後の打者にマークした150キロがこの「3」だ。全イニングを任されるから、局面による出力の使い分けが自然と身についたのだろう。

「3」のまっすぐだと、打者は顔を通るようなコースでも手を出す。手を離れたときは、ストライクの高さに見える。だが吉田のボールは規格外にホップし、伸び、見たことのない景色になる。だがら、ボールだと気づくのは空振りのあと。

 金足農の中泉一豊監督によると、「天王中時代の吉田を初めて見たときから、打者の手元で球が伸びていました」。横浜戦の殊勲者・高橋は、もともとは別の学校に進むつもりでいた。だが吉田が金足農に進むと聞き、「じゃあ、オレも」と進路を変更している。

 冗談かもしれないが、その理由を聞いて、笑った。

「だって別の学校で吉田と対戦したとして、もしデッドボールを受けたら……死ぬじゃないですか」

 横浜戦の吉田は、「ボールになってもいいから、相手打者に迷わせるために」(菊地亮太捕手)、これまでほとんど使ってこなかった右打者へのツーシームも織り交ぜた。そして終盤、相手打線の目がツーシームに慣れてきたらストレート中心の組み立て。万波中正(現日本ハム)には2安打されたが三振も二つと、タレントぞろいの横浜打線を手玉に取った。

 そして金足農は……100回記念のこの大会、第1回大会で決勝まで進んだ秋田中以来、秋田勢として2度目の決勝進出を果たすことになる。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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