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「青天を衝け」にも出演する俳優、山科圭太。もっと知ってほしい演劇人とともに映画監督デビューへ

水上賢治映画ライター
「ボディ・リメンバー」 監督を務めた山科圭太  筆者撮影

 映画「ボディ・リメンバー」は、新鮮な出会いが多々ある1作といっていい。

 監督は、これまで俳優として活躍してきた山科圭太が担当。彼が出会い大いに影響を受け、もっと映画界でも知られていいと思った演劇界の実力者、田中夢、奥田洋平、古屋隆太、鮎川桃果らを自らキャスティングした

 虚実入り混じり、真実が曖昧になる謎めいたサスペンス・ストーリーは、これも山科が信頼を寄せ、劇作家として活躍する三宅一平が書き上げている

 いわば演劇界の才能が力をひとつに結集してできたといっていい本作が生まれるまでの経緯を、山科圭太監督に訊く。(全2回)

実際に映画を知れば知るほど、映画においそれと手を出せなくなった

 はじめに山科については、おそらく多くが「俳優」として認識しているのではないだろうか?

 最近でも主演映画「stay」が公開されたり、大河ドラマ「青天を衝け」への出演があったりと、これまでさまざまな舞台や映画に出演してきた。

 ただ、その一方で、玉田真也監督の「あの日々の話」の企画を担当したり、三宅唱監督の「Playback」で助監督を務めたりと、実は裏方の経験もしてきている。

 そもそも映画美学校フィクションコースに入学し、映画作りを学んでいた時期もあった。

 なので、今回の長編映画監督デビューは実のところ不思議ではないところがある。

「大学時代、建築を学んでいたんですけど、そこでもうこれは『衝動にかられた』としか言いようがないんですけど、急に映画が作ってみたくなったんです。

 それで映画美学校に入学して、実際に卒業制作とかで作品も作りました。

 ただ、実際に映画を学び、作ってみて実感したのは、映画を作ることの難しさといいますか。

 ほんとうに映画を1本完成させることは困難が伴う。

 映画のことを学べば学ぶほど、いろいろと考えなければいけないことが出てきて、おいそれと手を出せなくなっていった。

 そこから(映画作りを)諦めたわけではないんですけど、僕は俳優をメインにしていったところがある。

 ただ、映画作りの精神は僕の中に根付いていて。

 どの映画の現場にいっても、僕の気持ちの中ではスタッフとかキャストとか分けていなくて、ずっと『映画を一緒に作っている』意識で臨んでいました」

演劇界の俳優たちは、クリエイターだと感じた

 そうした中で、自身の気持ちを再び映画へと向かわせたのは、今回出演している俳優たちをはじめとした演劇人の存在だったという。

「意識的に演劇に俳優活動の軸足をおいた時期があったんですけど、演劇界の俳優たちは、クリエイターだと感じたんですよ。

 なかなか、言い表すのが難しいんですけど、俳優として自立しているというか。

 演出家と意思の疎通をはかって、声の出し方、言い回し、間など確認しながら、その人物を作り上げ、全体で自分はどういう役割を果たさなければいけないかとか、ほんとうにいろいろと考える。

 でも、舞台の本番がはじまったら、演出家はなにもできない。俳優たちで作っていくしかないんです。

 本番中なにか問題が起きたら、もう俳優同士で解決していくしかない。舞台に立ったらもう誰にも頼れない。己ですべて責任を果たしていくしかない。

 自らの身をもっての表現で勝負していくしかない。そういう意味で、クリエイター力が試される。ゆえにクリエイターだと思うんですよね。

 それを舞台に立つたびに実感するわけです。『この俳優さんは半端ないクリエイター力があるな』と。

 ものすごいポテンシャルをもっている俳優さんが演劇界にはいっぱいいる。でも、映像の世界ではまだ知られていなかったりもする。

 それで、僕が大きな刺激を受けた演劇に主軸を置く俳優さんをメインキャストに、映画を作ってみたいという思いを強く抱くようになりました

「ボディ・リメンバー」 監督を務めた山科圭太  筆者撮影
「ボディ・リメンバー」 監督を務めた山科圭太  筆者撮影

劇作家の三宅(一平)くんはまだ若いのに大人のドラマを書ける人

 こうして映画作りははじまり、脚本は劇団「マレビトの会」などで一緒になっていた三宅一平に頼んだ。

「僕が『マレビトの会』の舞台に参加したとき、三宅くんは演出部にいて一緒になっているんですけど、僕は彼が書くセリフが好きなんですよ。

 彼が書く物語を構成するセリフというのが、いわゆる自然な会話じゃないというか。

 いまは演劇に限らず、映画やドラマもふだん人と人が交わすような自然なしゃべり言葉で成立させることが多い。

 それで、わりと自然な話し方、自然な身振りみたいなところがベースに置かれたりする。

 でも、三宅くんの書く戯曲やその中のセリフはひじょうにフィクション度が高いというか。

 いわゆる芝居がかったようなセリフなんだけども、ひと言で物事の核心を突くような鋭さがあって、しかるべき人が演じるとそのひとことが物語をものすごく豊かにする。

 そういう戯曲であり、セリフが書ける人なんです。

 あと、三宅くんはまだ若いのに大人のドラマを書ける人で。

 出演を想定していた田中(夢)さん、奥田(洋平)さん、古屋(隆太)さんたちを考えると、青春を通り過ぎて人生の喜怒哀楽をすべて味わったような大人の男女の物語にしたくて、もう『三宅くんしかいないな』と思ったんです」

ハロルド・ピンターの戯曲『Betrayal/背信』のような脚本

 山科がまずはプロットを書き、それをもとに三宅が脚本を書き上げていったという。

「まず、物語としては映画の王道ともいっていいサスペンスにしたいなと。

 あえて物語は奇をてらわずに王道に挑んでみたい気持ちがありました。

 あと、さきほど触れたようにこちらも王道といえば王道ですけど、キャストの3人を想定して男2人と女性1人の三角関係が描かれるものにしてほしかった。

 その中で、ハロルド・ピンター(※イギリスの劇作家、詩人。ノーベル文学賞受賞者)の『Betrayal/背信』という傑作の戯曲があるんですよ。

 男女の三角関係を描いたものなんですけど、『そんな話を書いてみてくれないか』と三宅くんにリクエストしました」

「ボディ・リメンバー」より
「ボディ・リメンバー」より

 作品は、田中夢が演じるヨウコと奥田洋平が演じるアキラ、古屋隆太が演じる二人の親友、ジロウという青春時代から同じ時間を共有してきた3人の友情劇が展開していくかと思いきや、実はその裏でうごめいていた三者三様の愛憎が明かされていく。

 一方で、その危うい話をヨウコからきき出し執筆にあたる、三宅唱監督作品などで知られる柴田貴哉が演じるまだ若い小説家のハルヒコと、鮎川桃果が演じる彼女のリリコの関係の行方も進行。

 現在と過去、現実と夢、回想と小説内の物語などを登場人物が自由に往来する独特の映像文体をもったサスペンス・ストーリーになっている。

「大人の男女3人の関係だからこそ生まれる深い相手への思いやり、それと相反するように走ってしまう大人ゆえのどうにもならない背徳行為、そういったことがさまざまな場面から徐々に浮かびあがるような作品にしたかった。

 それから、俳優が映画から自立するというか。物語から炙り出されるようにして俳優自身が飛び出してくるような作品にしたかった。

 そこで、現実や回想、夢や小説内といった様々な時空を往来することで、見る側が俳優が演じている役を見失い、ただ目の前に映る俳優自身を見るしかなくなればと考えました。

 あと、映画『ボディ・リメンバー』は、『真実』を巡る物語でもある。

 小説家のハルヒコは、ミステリアスで目の離せないヨウコからなにかの真実を見出そうとする。

 一方、なにかヨウコにとりつかれたようになったハルヒコのどこに『真実=真意』があるのかリリコはわからなくなる。

 またヨウコの語ることは真実なのか嘘なのかはっきりしない。

 なにが嘘でなにが真実なのか?サスペンスならではの真実を巡る映画として楽しんでもらえればと思いました」

芝居がきちっとできる人でないと実は言えないセリフばかり

 その中で、際立つのはやはり各俳優たちの演技にほかならない。

 各シーンをつぶさにみていくと、ともするとあまりにも芝居がかっていて興ざめしてしまう可能性のあるセリフが俳優たちにより実に自然な話し言葉の会話及び対話として成立させていることに気づくに違いない。

 この役者の力量には驚くしかない。

「そういってもらえるとうれしいです。

 芝居がきちっとできる人でないと実は言えないセリフばかりなんですよね。

 でも、さすがみなさんそれをさらっとこともなげにやってのけている。あらためて思いましたね。『すごい役者さんたちだ』と」

(※第二回に続く)

「ボディ・リメンバー」より
「ボディ・リメンバー」より

「ボディ・リメンバー」

監督・脚本・編集:山科圭太

脚本:三宅一平、山科圭太

出演:田中夢、奥田洋平、古屋隆太、柴田貴哉、鮎川桃果、上村梓、神谷圭介、影山祐子

6月25日(金)よりアップリンク吉祥寺、

7月23日(金)よりアップリンク京都にて公開

場面写真はすべて(C)GBGG Production

<イベント情報>

アップリンク吉祥寺での上映後舞台挨拶決定

6月25日(金)

登壇者:田中夢、奥田洋平、古屋隆太、山科圭太

6月26日(土)

登壇者:柴田貴哉、鮎川桃果、山科圭太

6月27日(日)

登壇者:田中夢、柴田貴哉、山科圭太

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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