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Apple、中国でのアプリ削除がもたらす「代償の増大」

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
「中国発展ハイレベルフォーラム」で講演するアップルのティム・クックCEO(写真:ロイター/アフロ)

米アップルがアプリストア「App Store」の中国版で、米メタの対話アプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」や短文投稿アプリ「Threads(スレッズ)」などを削除したことが分かった。中国当局による要求を受けた措置だ。

アップルはこれまでも同国で数千本のゲームアプリを削除してきた。急成長する同社のサービス事業や、国内競合との競争が激化するスマートフォン事業への影響が懸念される。

「WhatsApp」「Threads」削除の背景

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、中国でサイバーセキュリティー法を所管する国家インターネット情報弁公室(CAC)が問題のあるアプリをApp Storeから削除するよう要請した。問題とされたものには秘匿性が高い「Signal(シグナル)」や「Telegram(テレグラム)」もあった。これらアプリで習近平(シー・ジンピン)国家主席に関する言及など政治的な内容が伝えられたことを問題視したという。

アップルの広報担当者は詳細について明らかにしなかったが、「(私たちが)同意できない場合でも、事業を展開する国の法律に従う義務がある」と述べた。

中国政府によるアプリ削減要請は、「グレート・ファイアウオール(金盾)」(インターネット検閲システム)の抜け穴をふさぐことを意味する。今後は「Instagram(インスタグラム)」や「Facebook(フェイスブック)」「X(旧ツイッター)」「YouTube(ユーチューブ)」といったアプリも削減対象になる可能性がある。

中国政府は長年、これらのウェブサイトへの接続を遮断しているが、アプリをダウンロードした中国のiPhoneユーザーは、VPN(仮想私設網)を介して国外のインターネットサーバーに接続し、サービスを利用している。中国はVPNの利用を禁止している。だが、多くのユーザー、とりわけ若い世代はこの方法を利用している。

米調査会社センサータワーの推計によると、WhatsAppを含むこれら5つのアプリは過去10年間に中国版App Storeから、計1億7000万回以上ダウンロードされた。2022年末のゼロコロナ政策に対する抗議デモの情報や動画の拡散において、XなどのSNSアプリが大きな役割を果たした。

中国のアプリ規制強化、さらなる削除に直面か

ただ、中国政府にとってはこれらアプリは悩みの種のようだ。当局は2023年、モバイルアプリ開発者に対して、2024年3月までにアプリを規制当局に登録するよう義務付けるよう命じた。命令に従わないアプリは、App Storeから削除されるとした。当局はその理由として、電話詐欺に関与するものなど、安全性の低いアプリを排除する取り組みの一環だと説明した。

これを受け、アップルの幹部は当局者と会談し、アプリ配信を制限する同国の新規制に対する懸念を表明した。しかし、当局はアップルに対して、規制を徹底順守するよう要求した。

中国は検閲と言論統制を強化し、プラットフォーム運営者に対しネット空間での活動を厳格管理するよう求めている。2020年には、当局の認可を得ていないゲームアプリに対する取り締まりを強化した。これを受けアップルはゲームアプリ数千本を削除した。2017年にはグレート・ファイアウオールを回避する目的の数十本のアプリも削除した。

「代償の増大」、アプリ削除がもたらす経済圏の分断

アップルによるアプリ削除は、中国におけるiPhoneエコシステム(経済圏)をますます西側諸国から切り離すことになると、WSJは報じている。中国版App Storeでは、「Reddit」「Spotify」「ChatGPT」といったグローバルアプリを含め、計1万4000本以上が入手できない状況だ。これら削除されたアプリには、インターネット検閲回避ツールやメッセージアプリ、LGBTQ+コミュニティーに関するものがあるという。

中国当局の要請に従い、アプリ規制強化に手を貸すことは、アップルにとって「代償の増大」を意味するとWSJは指摘する。こうしたアップルの措置は、世界の分断を助長しているとされ、米国などの西側諸国から批判の声が上がっているからだ。

中国でのスマホ事業とサービス事業

中国の華為技術(ファーウェイ)は2024年4月18日、高価格帯スマホの新製品「Pura 70」の販売を開始した。アナリストらは、この端末が中国でiPhoneの市場シェアを一層低下させると予測している。香港の調査会社カウンターポイントリサーチは、2024年のファーウェイの中国におけるスマホ販売が39%増加するとみている。一方、中国では消費者需要の低下がiPhoneの販売に重くのしかかっているという。

App Storeを含むサービス部門は近年、アップルの成長に重要な役割を果たしているが、これが今後同社の事業に打撃を与える可能性もある。

アップルの事業部門別売上高(2024年1〜3月期 vs. 前年同期)インフォグラフィックス出典:ドイツStatista
アップルの事業部門別売上高(2024年1〜3月期 vs. 前年同期)インフォグラフィックス出典:ドイツStatista

2024年1〜3月期におけるアップルのアプリ・音楽・動画配信などのサービス事業の売上高は前年同期比14%増の238億6700万ドル(約3兆6500億円)となり、引き続き過去最高を更新した。同部門の200億ドル超えは6四半期連続で、アップルの全売上高に占める比率は26%に上昇した。

一方、同四半期の中国事業売上高は、前年同期比8%減の163億7200万ドル(約2兆5000億円)で、3四半期連続の減収だった。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年4月23日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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