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これぞ難関、鬼のすみか! 藤井聡太竜王(19)A級昇級を目前にして難敵・千田翔太七段(27)に敗れる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月13日。大阪・関西将棋会館において第80期順位戦・B級1組11回戦▲藤井聡太竜王(19歳)-△千田翔太七段(27歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は深夜0時37分に終局。結果は112手で千田七段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は、勝った千田七段は8勝3敗、敗れた藤井竜王は8勝2敗となりました。

 昇級争いは藤井竜王(8勝2敗)、稲葉陽八段(7勝3敗)までが自力。千田七段(8勝3敗)、佐々木勇気七段(7勝3敗)は他力で、他者の成績次第で昇級の可能性が残されています。

 藤井竜王のデビュー以来の順位戦通算成績は47勝3敗(勝率0.940)となりました。

 また藤井竜王の公式戦通算成績は46勝11敗(勝率0.807)となりました。

千田七段、踏みとどまって制勝

 今年度も順位戦は終盤戦に入りました。A級では山崎隆之八段の降級、B級2組では中村太地七段の昇級が決まり、両者は来期、B級1組に参加することになります。

 A級への昇級レースは藤井竜王がトップ。B級1組11回戦において、自身が競争相手の千田七段に勝ち、さらに佐々木勇気七段か稲葉陽八段が敗れればA級昇級が決まる可能性がありました。

藤井「特にそのことは意識していなかったです」

 藤井竜王先手で、戦型は相掛かりに。千田七段は飛車を中段五段目に構え、さらに中央5筋に転じる意欲的な序盤作戦を取りました。

藤井「(28手目)△5五飛車から△5四飛車のときに▲6五歩と突いて突っ張ってみたんですけど。ただ、それを目標にされるような展開になったので、ちょっと手の組み合わせが少しよくなかったかなあ、とは思っていました」

 互いに時間を使い合うスローペースの進行。38手目、千田七段が7筋の歩を突っかけたところで夕食休憩に入りました。形勢はほぼ互角です。

 再開後、千田七段は桂を跳ね出して積極的に動いていきました。局後の両者の感想では、ともに自信が持てない進行だったようです。

藤井「夕休明け△7五歩▲同歩△6五桂に対して本譜▲5八金としたんですけど、▲5六銀と出るべきだったかなと思います。ちょっとそのあとは常に苦しいかな、というふうに思います」

 千田七段は相手の歩頭にもう1枚桂を跳ね、飛車と桂、さらには持ち駒の角のコンビネーションで藤井陣の5筋をねらいます。

千田「まず中盤の始まりあたりは、若干苦戦を意識しておりました。やっぱり桂馬を跳んでいくだけの軽い攻めですので、攻めに自信が持てなかったです」

 桂1枚を捨てる代償に、千田七段の攻めはうまくつながり、次第にリードを奪っていきました。

千田「形勢が好転したかな、と思ったのは(48手目△5七角成と)5七に角を成り返った局面ですね。そこで藤井竜王も考えられているので、かなり受けが難しいんだろうというふうに思って。△5七角成のところで少し指しやすいのかと思ったぐらいですね」

藤井「△4五桂から△5七角成と進められて、その局面がちょっと思った以上に、なにか厳しいというか、ちょっと思わしい手が見つからなかったので、その局面は印象に残っていますし。やっぱりそういった判断の部分で上回られてしまったのかな、という印象です」

 53手目。藤井竜王がじっと金を寄って辛抱したところで、持ち時間6時間のうち、残りは藤井16分、千田48分。千田七段が形勢、時間ともに優位に立っていましたが、そこで攻めがつながらないと大変です。

 考えること28分。千田七段はズバリ飛車を切り捨て、金と刺し違えて踏み込みます。これが好判断。藤井玉は左右はさみうちの寄り形となりました。

 68手目。残り14分の千田七段は1分を使って相手陣の金を引きます。自然な攻めのようでいて、それが緩手というのが将棋の難しいところ。一手60秒未満で指す「一分将棋」の状況にあった藤井竜王は自陣飛車を放ちます。千田七段が見落としていた好守で、ぐっと形勢を引き戻しました。

千田「うっかりですね。ただ時間がないし、読めてないのでちょっと、仕方がないかな、という気がします。あの局面に至るまでにもうちょっと先を考えておかないといけなかった、というところです。あの一手自体、仕方ないです。(▲6八飛と)飛車を打たれて△同飛成▲同銀で、逆転されているなと思いました。自信はなかったです」

 実際には、逆転にまでは至っていなかったようです。いやな流れの中、千田七段は踏みとどまり、流れを引き戻します。

藤井「やっぱり足りないのかな、とは思ってました」

 東京でおこなわれていた▲横山泰明七段-△佐々木勇気七段戦は本局が終わる前の0時18分、横山七段勝ちで終わりました。これで藤井竜王勝ちならばA級昇級決定ですが、形勢は藤井敗勢でした。

 藤井竜王は自陣に龍を引きつけて粘りに出ますが、千田七段に冷静に龍を攻められて万事休しました。

千田「決め手をちょっと逃して、勝勢からおかしくしたんですけれど、最後(110手目)△8九銀と打って、ふらふらだったんですけれど、ほぼ勝ちと読みきった感じですね」

 千田七段は相手の龍の危機をそらせてから、自分の龍を引いて王手。藤井玉を即詰みに討ち取りました。

 大一番を制した千田七段。稲葉八段が勝ったためにまだ自力ではありませんが、3番手の位置に浮上しました。

千田「序盤から終盤までちょっとはっきりしない展開で。もうちょっとうまく指せるようにがんばらないといけないな、と思わされる内容でもありました」

 千田七段は次節12回戦は空き番。最終13回戦では木村一基九段と対戦します。

千田「残り1局ですので、しっかり準備をして臨みたいと思います」

 藤井竜王は依然トップながら、A級昇級は持ち越しとなりました。

藤井「内容的にいろいろミスが出てしまったので、けっこう仕方ないのかな、というふうに思いますし。また反省して、少しでも実力を高められるようにしていきたいと思います」「星取りはあまり考えずにまた、残り2戦に全力を尽くしたいと思います」

 藤井竜王は、次は阿久津主税八段と対戦。そして最終13回戦には、昇級を争う佐々木勇気七段との直接対決が控えています。

 今期順位戦の表が発表された時点で、最後の藤井-佐々木戦は大変な勝負になると予感した方も多かったでしょう。はたしてどのような状況で、両者は対戦することになるのでしょうか。

 藤井竜王と千田七段の通算対戦成績は、これで藤井4勝、千田2勝となりました。

 藤井竜王は順位戦通算47勝3敗。そのうちの1敗の相手が千田七段です。

 また藤井竜王は朝日杯で通算20勝1敗。その1敗の相手は千田七段です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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