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世代交代のインディカー!パロウやオワード、日本に縁がある新チャンピオン候補たち

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
アレックス・パロウ 【写真:INDYCAR】

日本人ドライバー、佐藤琢磨も参戦する「NTTインディカーシリーズ」の2021年シーズンは残すところ5戦。インディカーは例年9月末がシーズン閉幕となっており、これから1ヶ月半で一気にシーズンはクライマックスを迎えることになる。

2021年のインディ500
2021年のインディ500写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ここまで11戦を終えた2021年シーズだが、今季は今までのシーズンとはちょっと毛色が違う。インディカーを長年支えてきたベテランたちが軒並み苦戦し、アメリカのレース経験が決して多くはない若手ドライバーたちが躍進してきているのだ。そんな注目の若手たちを紹介しながら、残り5戦のインディカーをプレビューしよう。

ランキング首位はアレックス・パロウ

11戦を終え、2021年をリードしているのは日本のレースファンにもお馴染みのアレックス・パロウ(チップガナシ/ホンダ)だ。

アレックス・パロウ
アレックス・パロウ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

スペイン出身の24歳、インディカーに特に深い縁があったわけではない2年目のドライバーがシーズンの主導権を握っているのである。パロウは2020年、日本のチーム郷が仲介する形でインディカーにデビュー。コロナ禍でスケジュールが頻繁に変わるという、新人にとっては厳しい条件の中、パロウは初めて経験するオーバルコースでも鮮烈なパフォーマンスを披露。デビュー後すぐに注目株となった。

デビュー3戦目のロードアメリカで3位表彰台を獲得すると、その評価は急上昇。今季は名門であり、2020年チャンピオンチームの「チップガナシ」に移籍した。

NTTデータのロゴをつけて走るアレックス・パロウ【写真:INDYCAR】
NTTデータのロゴをつけて走るアレックス・パロウ【写真:INDYCAR】

2017年に全日本F3選手権のドライバーとして来日し、非凡な才能を見せたパロウ。2019年には国内最高峰のスーパーフォーミュラに参戦し、ルーキーながらポールポジション3回、優勝1回の活躍で、日本のファンは心を鷲掴みに刺されてしまったのだ。それを見ていただけにインディカーでの活躍はある程度、想定内。しかし、トップチームのシートを得て、いきなりシリーズランキング首位で終盤戦を迎えようとは誰が想像しただろうか。

チップガナシに移籍したパロウは初陣の開幕戦・アラバマでいきなり優勝。速さでは6度のインディカー王者でチームメイトのスコット・ディクソン(チップガナシ/ホンダ)を上回り、レースでも素晴らしい走りを見せる。

第6戦・インディ500では惜しくも優勝を逃したものの2位フィニッシュする活躍を見せたのだ。優勝2回、トップ5フィニッシュが7回という安定ぶりで堂々のランキング首位だ。

スコット・ディクソン
スコット・ディクソン写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ランキング2位はスコット・ディクソン(チップガナシ/ホンダ)だが、パロウとは42点差とパロウのリードは大きい。チップガナシはマーカス・エリクソン(チップガナシ/ホンダ)も先日の第11戦ナッシュビルで2勝目をマークし、3人で5勝をマーク。ディクソンだけが抜きんでていた昨年までとはチーム力が全く違う状況だ。チャンピオン争いはパロウの初戴冠か、ディクソンの7度目の王座か、早くもチームメイト同士の争いに注目が集まりつつある。

ランキング(第11戦終了時点)

1位 アレックス・パロウ(チップガナシ/ホンダ)410点

2位 スコット・ディクソン(チップガナシ/ホンダ)368点

3位 パト・オワード(アローマクラーレンSP/シボレー)362点

4位 ジョセフ・ニューガーデン(ペンスキー/シボレー)335点

5位 マーカス・エリクソン(チップガナシ/ホンダ)331点

日本ゆかりのドライバーが活躍

今季11戦を終え、ウイナーは8人。優勝ドライバーが多いという意味では混戦のシーズンかもしれない。その中で2勝をマークしているのはアレックス・パロウ、パト・オワード、マーカス・エリクソンの3人。偶然にも彼らは日本でレースをしたことがあるドライバー達だ。

第4戦テキサス・レース2で初優勝したパト・オワード
第4戦テキサス・レース2で初優勝したパト・オワード写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ランキング3位につけるパト・オワード(アローマクラーレンSP/シボレー)は2018年にはインディカー直下のインディライツで王者に輝いたドライバー。2019年シーズン途中から代役としてスーパーフォーミュラに3戦だけ出場することになったが、スーパーフォーミュラにアメリカンモータースポーツ育ちのドライバーが出場するのは珍しい。しかし、ほぼブッツケ本番ながらも、オワードは第6戦岡山で6位入賞。日本でも高いポテンシャルを見せつけていた。

オワードはアロー・マクラーレンSPに移籍した昨年、ポールポジション1回、2位フィニッシュが3回と速さを示してランキング4位。今季も活躍が期待されていたが、ポールポジション2回、優勝2回とすっかりシリーズの主役になっている。

マーカス・エリクソン【写真:INDYCAR】
マーカス・エリクソン【写真:INDYCAR】

そして、ランキング5位に浮上してきたマーカス・エリクソン(チップガナシ/ホンダ)も忘れている人が多いかもしれないが、実は日本のレース出身だ。2014年〜18年の5年間、F1ドライバーだった彼は2009年にトムスから全日本F3選手権に参戦し、見事にチャンピオンを獲得している。F1では高いポテンシャルのマシンに恵まれず、インディカー転向後も苦労していたが、ようやく今季、その速さが開花した形だ。

かつて日本で走った選手達がインディカーを目指す傾向が増えている。フェリックス・ローゼンクビスト(アローマクラーレンSP/シボレー)は日本でのレース後にフォーミュラEで活躍。そして2019年にいきなりチップガナシから鮮烈デビューを飾ったことは記憶に新しい。しかし、皮肉にも今季、そのシートには日本経由の後輩、アレックス・パロウが収まり、ローゼンクビストはチームを移籍。今季は怪我による欠場もあり、厳しいリザルトになっている。

苦戦するローゼンクビスト 【写真:INDYCAR】
苦戦するローゼンクビスト 【写真:INDYCAR】

全く違う環境からやってくる新しいドライバーの台頭、チーム事情の変化で勢力図がガラリと変わってしまうインディカー。まさに一寸先は闇である。

ペンスキー1勝のみ、ベテラン苦戦

2021年はパロウ、オワード、エリクソンらまだキャリア3年以内のドライバーが2勝、そしてコルトン・ハータ(アンドレッティ/ホンダ)、リナス・ヴィーケイ(エドカーペンター/シボレー)ら20代になったばかりの超若手がそれぞれ1勝と、若手や新勢力の活躍が目覚ましい。

インディカーではルーキーのグロージャン【写真:INDYCAR】
インディカーではルーキーのグロージャン【写真:INDYCAR】

優勝はまだ飾れていないが、ロードコースのレースにだけ参戦する元F1ドライバーのロマン・グロージャン(デイルコイン/ホンダ)は参戦3戦目のインディアナポリス・ロードコースでポールポジションを獲得。オーバルのレースを経験する必要があるが、トップチームから声がかかってもおかしくないポテンシャルをいきなり示している。

一方で、今季は名門「ペンスキー」が苦戦。様々な不運も重なりジョセフ・ニューガーデン(ペンスキー/シボレー)がミッドオハイオで1勝したのみ。ホンダエンジンユーザーではこれまた名門「アンドレッティ」もハータが1勝したのみだ。

ニューガーデン以外の選手が苦戦する名門チームペンスキー
ニューガーデン以外の選手が苦戦する名門チームペンスキー写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

インディ500の優勝経験者で言えば、シモン・パジェノー(ペンスキー/シボレー)がランキング7位、佐藤琢磨(レイホール/ホンダ)がランキング10位、ウィル・パワー(ペンスキー/シボレー)がランキング11位、アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ/ホンダ)がランキング12位、そしてライアン・ハンターレイ(アンドレッティ/ホンダ)はランキング15位とかなり悲惨な状況だ。

インディ500ではスポット参戦したベテラン、エリオ・カストロネベス(メイヤーシャンク/ホンダ)が4回目のインディ500制覇を達成したが、かつてのインディカーの主役達がすっかり影を潜めている状態なのだ。

佐藤琢磨
佐藤琢磨写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

日本期待の佐藤琢磨(レイホール/ホンダ)も苦戦が続く。マシンが好調だったインディ500では優勝の可能性もあったが、チームの作戦がうまくいかなかった。

今季のベストリザルトは第7戦デトロイト(レース1)の4位。ただ、毎年苦戦しながらもこの4年間は必ず1勝はしてきた佐藤。残り5レースは、2019年優勝のワールドワイドテクノロジーレースウェイ(ゲートウェイ)、2018年優勝のポートランド、そして最終戦に2013年優勝のロングビーチと勝ったことがあるコースが3つあるだけに良い締めくくりを期待したい。

インディカーおなじみのコースが続く残り5戦、ベテランの巻き返しなるか、それともこのまま世代交代か?

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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