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ノジマステラ神奈川相模原に菅野将晃監督が復帰。強力な新戦力が加わり、魅力的なサッカーを目指す

松原渓スポーツジャーナリスト

【4シーズンぶりの復帰】

 WEリーグのノジマステラ神奈川相模原に、闘将が帰ってきた。

 菅野将晃(かんの・まさあき)監督が、4シーズンぶりに復帰した。

 菅野監督は2012年に創設されたクラブの初代監督で、クラブの“生みの親”でもある。

 熱い指導で個を伸ばし、神奈川県リーグ3部から5年でなでしこリーグ1部に導いた。「しっかりとパスを繋ぐ」「最後まで諦めずに走り切る」。そのスタイルがチームに浸透し、2018年には過去最高の1部トップ3入り。その後、菅野監督は2019年から山梨県に発足したFCふじざくら山梨の初代監督として、新たな挑戦を続けていた。

 一方、ノジマは野田朱美監督(現オルカ鴨川)の下で19年に10チーム中7位、北野誠監督の下で20年には8位になり、WEリーグ初年度の昨季は11チーム中10位と下位に終わった。

「おこがましいかもしれませんが、ゼロから作ったチームだという思いがあって、そのチームが苦しんでいる状況を立て直したいという思いがありました」と、菅野監督は復帰の理由を語っている。

 2018年の退任以降は、結果に比例するように観客数も減少。昨季のホーム来場者数は956人で、リーグ最少だった。

 今年の目標は5位以内、観客数は平均2,000人を目指す。WEリーグは10月22日に開幕予定だ。

菅野将晃監督
菅野将晃監督

「どれだけ魅力のあるサッカーができるか。『全試合勝ちたい』と思って臨むつもりですけど、中身のない勝利なんて続かないですから。相手(の戦い方)もある中で、自分たちのストロングを発揮できるように質を上げていきたいです」

 プロチームになったことで、なでしこリーグ時代よりも細部にこだわったチーム作りをすることができる。トレーニング始動日となった6月28日は、初日から2部練習を敢行。気温35度を超える猛暑日だったが、ノジマフットボールパークは活気に満ちていた。

 MF松原有沙が笑顔で明かす。

「菅野監督のサッカーは走ることで有名なので、危機感を感じて、オフの自主トレ期間からみんな息が上がるぐらい追い込んでいました」

松原有沙
松原有沙写真:松尾/アフロスポーツ

 松原は早稲田大学時代、菅野監督が各地に足を運んで獲得した選手。センターバックやボランチを主戦場とし、日本人離れしたパワーや展開力が魅力だが、昨季はケガに苦しんだ。今季は、「前(ボランチ)でプレーすることがあれば、得点に絡むパスとか、ミドルシュートでゴールを狙っていきたいと思っています」と、アグレッシブなプレーを目指している。

 新生チームのハードワークを支える軸になりそうなのが、MF杉田亜未だ。プレーエリアが広く、強度の高い攻防の中でも技術を発揮できる。杉田は伊賀FCくノ一三重でプレーしていた2014年から2017年にかけて、菅野監督が率いていたノジマと対戦したことをこう回想した。

「(以前)対戦していた時の印象は、『しっかりつなぐチーム』、『頑張るチーム』というイメージが強くあります。自分自身もアグレッシブに戦える部分が特徴で、そういうスタイルは自分の良さも活かしやすいと思うので、楽しみです」(杉田)

杉田亜未
杉田亜未

 そのほか、松原と共に最終ラインを支えるDF大賀理紗子、スピードと強烈な左足でチャンスを作るMF小林海青、小林と共に最古参(8年目)のDF石田みなみ、守護神のGK久野吹雪、ハードワークが光るMF石田千尋ら、主軸が契約を更新している。

【強力アタッカーが加入】

 オフには、FWサンデイ・ロペス、FWケーニヒ・シンディ、GK根本望央、MF脇阪麗奈(→神戸)DF鈴木綾華(引退)、MF中山未咲(→大和シルフィード/期限付き移籍)らの退団が発表された。一方で、強力な戦力が加わっている。

 特に、前線に経験値の高いアタッカーが2人加入した。

  一人目は、FW南野亜里沙だ。ノジマで2014年から7シーズンプレーし、菅野監督の下では2016年に2部で得点王になり、1部昇格を牽引。2018年には10ゴールを決めて得点王争いに加わり、ベストイレブンにも選出された。足下で受けて前を向くプレーや、相手の逆を取ることに長け、狭いスペースでも技術を発揮できる。

 昨季は千葉でプレーしたが、1年での復帰の原動力になったのは、「菅野監督ともう一度一緒にプレーしたい」という思いだったという。

南野亜里沙(右は石田みなみ)
南野亜里沙(右は石田みなみ)

「菅野さんはチームを大事にする監督で、そういうところをとても尊敬しているし、ついていきたい、と思います。オンとオフがすごくはっきりしていて。ふざける時もあるけれど、プレーはしっかり締める。練習はきついですけどね(笑)。パスを繋ぐサッカーは自分の持ち味が一番出せると思うので、試合をするのが楽しみです」(南野)

 また、仙台から加入したFW浜田遥も、目玉補強の一人だ。2020年は、自身最多の15ゴールを決めて得点ランク2位になり、代表候補入りも果たした。得意な形は、相手の背後への抜け出しからのフィニッシュ。昨季はケガで出場機会が少なかったが、新天地で完全復活の狼煙を上げたい。

「菅野さんとはマリーゼ(*)の時に一緒にサッカーができなかったので、その思いで決めました。年上の選手から学ぶことはとても多いので、そういう選手がいる中でもう一度プレーができることは、本当に幸せだなと思います」(浜田)

左から南野、浜田、杉田
左から南野、浜田、杉田

 そして、DF平野優花がドイツのFCケルンから4シーズンぶりに復帰。2015年から4シーズン、ステラの発展期を支えた選手だ。静岡SSUボニータからはMF藤原加奈を獲得した。

 バラエティに富んだ陣容を、菅野監督はどう輝かせるのだろうか。昨季は得点力に課題を残したノジマだが、強力な攻撃陣の顔ぶれを見れば、得点倍増も不可能ではなさそうだ。

(*)東京電力女子サッカー部マリーゼ。菅野監督が指揮を執っていたが、2011年の東日本大震災で休部になり、浜田は高槻(大阪)に移籍した。

【WEリーグの価値を高めるクラブに】

 菅野監督は、サッカーの内容と共に、クラブの価値を高めるさまざまな施策を実践していくつもりだ。

「プロクラブは、プロとして選手を入れて、ダメならアウト、という繰り返しでしょう。クラブは選手がいる間に何を与えられたの?と思う。(プロ化によって)与えないクラブが多くなってしまうわけですよ。それで、その選手たちが幸せになれるのか。サッカーをしていたことが後々苦労する元になったら、それはサッカーという文化にとってものすごくマイナスになってしまう。だから、クラブが選手たちに何を伝えて、何をできるようにしていくかということが、クラブの宿題だと思うし、それを(選手が)自分たちからどんどん発信していく。ふじざくらで学んだことはたくさんあります」

 昨年まで指揮していたFCふじざくら山梨のコンセプトは、「世界で通用するプレイングワーカーを育てるチームになる。プレイングワーカーは競技でも一流、社会でも一流であれ」

 WEリーグも、以前はほとんどの選手がスポンサー企業などで働いていた。ただ、サッカーに集中できる環境と引き換えに社会人経験を積む機会は減り、セカンドキャリアの問題もクローズアップされるようになった。それは、菅野監督自身が現役時代に経験したことでもあるという。「プロだからサッカーだけやっていればいい、というわけではない」という言葉の真意はそこにある。

「スポンサーの会社に対して『お願いします』と頭を下げて、終わって『ありがとうございました』だけの関係じゃダメだと思うんです。いろんな業種のスポンサーがあって、そこに選手たちがいろんな形で関わっていく。それによって選手やクラブが価値を高めて、それに対してスポンサードしてもらう、ということを根付かせていきたいです」

 最後にもう一つ強調したのは、それぞれの選手がクラブの歴史を知る大切さだ。

「それを知ったから勝てるわけではないけど、知ることでクラブを理解しなければいけない。それは最低限のことだと思います」

 そう言った後、自身が関わってきたクラブの話を懐かしそうに語り始めた。印象的なエピソードに触発されて取材陣からも質問が上がり、囲み取材は気づくと30分近くになっていた。

「すんげぇ話が脱線しちゃった(笑)。ごめんなさい。またよろしくお願いしますね」

 屈託のない笑顔で手を振り、菅野監督はクラブハウスへと戻っていった。

 熱い指揮官に導かれ、ノジマは新たな歴史を刻み始めた。

WEリーグは10月に開幕する
WEリーグは10月に開幕する

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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