中性子星内部構造が判明?そこにしかない「究極の物質」がヤバイ
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「中性子星の内部構造が判明?そこにしかない物質とは」というテーマで動画をお送りしていきます。
2023年4月、未知に溢れた中性子星の内部構造に関する新たな研究成果が発表されました。
本動画では中性子星の内部構造と、宇宙で中性子星内部にしか存在しないとされる奇妙な物質についての既存の理解を振り返って、新たにわかったことについてもまとめていきます。
●中性子星とは?
まずは中性子星の基本的な性質や、それがどのようにして成り立っているのかについておさらいします。
太陽のような「恒星」に分類される天体は、その星の中心部で起きている核融合反応で外側に膨張しようとする力と、内側に落ち込もうとする重力が釣り合うことでその形状を維持しています。
質量が太陽の8倍以上重い大質量の恒星が一生を終える際、核融合が止まり、重力に対抗する力が失われることで、星の核が強烈に圧縮されてしまいます。
圧縮された星の核では、中性子星という天体が残ることがあります。物凄い重力で圧縮されて形成された天体なので、その密度は他の天体とは比較にすらならないほど桁違いに高い値となっています。
具体的には直径が約20-30kmと、地球と比べても圧倒的に小さいにもかかわらず、その質量は地球の33万倍重い太陽の、さらに1.4~2.2倍ほど重いです。
理論的に太陽の1.1倍以下の中性子星は存在し得ないと考えられているようです。
その密度は1cm^3あたり数億トンと、角砂糖のサイズで地球上の数百m級の山の質量が詰まっているようなイメージです。
星の一生の最期の瞬間では、強烈な重力によって電子が原子核内部の陽子と反応し、中性子に変化します。
つまり星の内部は中性子ばかりの構造になります。
そうしてできた中性子同士は、お互いが「縮退圧」と呼ばれる力で反発しあい、それらをさらに押しつぶしてくっつけようとする重力と釣り合い、安定した状態になります。これが中性子星です。
中性子同士の反発力ですら耐え切れないほど星の重力が強い場合、これ以上重力に対抗する力がないために、重力によって際限なく一点に圧縮が続くと考えられています。
このように重力があまりに強すぎてそれに対抗する力を失い、「特異点」という一点に向けて全質量が落ち込み続けている天体を、ブラックホールと呼んでいます。
具体的には一生を終える星の質量が太陽の8-30倍程度だと星の核は中性子星に、太陽の30倍以上重いと重力が中性子星すらも押しつぶして、永遠に圧縮が止まらないブラックホールになってしまうと考えられています。
ブラックホールの内部は現代の物理学では理解できない、いわば「あの世」の世界です。
中性子星こそがこの世の限界スレスレの極限環境を持った天体であり、一般的にブラックホールに最も近い天体であると言えます。
そんな極限の天体である中性子星の中でも最も高密度な中性子星の内部こそ、本当にブラックホールに最も近い、真の極限状態となります。
そんな中性子星の内部には、通常の世界には存在しない物質が存在する可能性があるそうです。
●通常の物質を作る素粒子
では中性子星の内部以外の宇宙を占める、「通常の物質」というのはどんなものなのでしょうか?
物質を拡大し続けると、原子という構造が見えてきます。
さらに拡大すると、その中心に陽子と中性子という2つの粒子から成る「原子核」という構造が見えてきます。
それ以上に分解できない最小単位の粒子は「素粒子」と呼びますが、原子の中にある陽子と中性子は素粒子ではありません。
実は陽子も中性子も、クォークという素粒子が3つ集まって出来ていることが知られています。
素粒子は大きく分けて「物質を構成する素粒子」「力を伝える素粒子」「質量を与える素粒子」の3つに分類されますが、クォークはそのうち「物質を構成する素粒子」に分類されます。
そんなクォークには全部で6種類のクォークがあります。
その中でも電荷が(+2/3)のアップ型クォークと、電荷が(-1/3)のダウン型クォークの2タイプに分類され、それぞれのタイプに1~3までの世代があります。
同じタイプのクォーク内では、世代が大きいほど質量が大きく不安定で、短い期間で崩壊し、自身より世代が小さく安定したクォークに変化してしまいます。
世代の大きいクォークは存在自体が不安定なので、この宇宙に存在するほぼ全ての物質は第一世代のアップクォークとダウンクォークのみから形成されています。
例えば陽子は電荷が(+2/3)のアップクォークが2つ、(-1/3)のダウンクォークが1つの計3つのクォークで構成され、合計で(+3/3)=(+1)の電荷を持っています。
そして中性子は電荷が(+2/3)のアップクォークが1つ、(-1/3)のダウンクォークが2つの計3つのクォークで構成され、合計で電荷は0となっています。
このようにアップクォークとダウンクォーク以外が出てくることはありません。
一方、先述のアップクォークとダウンクォークのみでできた通常の物質とは異なり、それ等の次に軽いダウン型クォーク第2世代の「ストレンジクォーク」を含む物質が、現在の宇宙の中では中性子星の内部に存在する可能性があるそうです。
中性子星はその名の通り中性子が主な構成要素ですが、その内部のような超高圧で超高温の環境では、物質がどのように振る舞うのかを知るのが非常に難しく、正確な内部構造はまだわかっていません。
そんな前提のもと、この世の極限状態ともいえる中性子星の中心部付近にだけ存在する可能性があるとされる、「ストレンジクォークを含む究極の物質」を紹介します。
●ハイペロン
クォークが3個結びついてできる陽子や中性子などの粒子は、「バリオン」と呼びます。
陽子や中性子といった通常の物質を構成するバリオンは、先述の通りアップクォークとダウンクォークのみが3つ組み合わさってできています。
一方、内部にある3つのクォークのうち1つでもストレンジクォークを含み、それ以外のクォークはアップクォークまたはダウンクォークで構成されているバリオンは、まとめて「ハイペロン」と呼ばれます。
本来ストレンジクォークは不安定ですぐ崩壊してしまうため、ハイペロンは自然で安定して存在することはできません。
ですが中性子星の内部のような極限環境では、なんと陽子や中性子のようなアップとダウンのみの状態より、ストレンジを含むハイペロンの状態の方がむしろ安定する可能性があるそうです。
これは量子力学の不確定性原理が関係しています。
不確定性原理では量子の位置と運動量がどちらも同時に固定されることはありません。
中性子星の内部のように極限の高圧環境では、量子の位置が高い精度で固定される代わりに、運動エネルギーが極めて高くなり、そのエネルギーによって一部の中性子がハイペロンに変化した方が安定するようです。
そして陽子や中性子だけでなく、ハイペロンも含んだ原子核は、「ハイパー核」なんていうかっこいい名前で呼ばれていたりします。
現在でも粒子加速器による実験でハイパー核を作り、その性質が研究されています。
●クォーク物質とストレンジ物質
中性子星内のハイペロンがある場所よりさらに深い、中性子星の中心部付近には、ハイペロンよりもずっとヤバイ「クォーク物質」や「ストレンジ物質」という物質が存在する可能性があるそうです。
クォーク物質は、陽子や中性子、そしてハイペロンのような、クォークが3つ合わさってできたバリオンの構造すらも超高圧によって維持できなくなり、クォークが自由に動き回る状態にある物質です。
そんなクォーク物質の中でも、アップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォークがほぼ同数集まって構成される物質は「ストレンジレット」や「ストレンジ物質」と呼ばれています。
ストレンジ物質は、なんと通常の陽子や中性子よりも安定している可能性があるそうです。
そのため一度中性子星の中心部領域の極限環境により、高いエネルギー障壁を超え、ハイペロンの状態も抜けてストレンジ物質になった物質は、中性子星内部以外の場所でも安定して存在できる可能性があります。
もしこの仮説が正しければ、中性子星内部にあるストレンジ物質が中性子星同士の衝突やブラックホールによる破壊によって外部に漏れ、宇宙空間にも存在している可能性があるのです。
さらにストレンジ物質は、より大きいほど安定しているという可能性もあるようです。その場合、触れた通常の物質をどんどんストレンジ物質に変化させ、より大きいストレンジ物質になろうとすると考えられます。
そんな性質を持ったストレンジ物質が宇宙を旅し、偶然にも地球にたどり着いた瞬間、地球上の全物質がストレンジ物質の塊に変化してしまうことになります。
さらにこのストレンジ物質は、人間が存在を知覚できる全ての通常の物質の、5-6倍もの質量分もこの宇宙に存在すると考えられている未知の物質「ダークマター」の正体の候補の一つでもあります。
仮にダークマターの正体がストレンジ物質であれば、この宇宙にまさに大量のストレンジ物質が漂っているということになります。
当然私たちはその存在に気付くことはできません。
そしてその一部でも地球にやってくれば、気付く間もなく人類が消滅してしまうかもしれません。
地球や太陽が46億年間も無事に存在し続けていることや、これまでの観測で宇宙のどこでもストレンジ物質への変化のような現象を観測できてないことから可能性は低いですが、仮に本当に起こるとしたら恐ろしすぎる現象です。
●新たに判明した中性子星の内部構造
中国科学院の紫金山天文台などの研究チームは、これまでの中性子星の観測データや、クォーク同士の相互作用を扱う「量子色力学」という理論に基づいて、中性子星の内部構造を分析した結果を2023年4月に発表しました。
中性子星の質量には理論的な上限があり、太陽の2.18倍よりも重いと自身の重力に対抗できる力がなくなり、ブラックホールに崩壊してしまうとされています。
最新の研究では、上限の98%以上の質量を持つ中性子星の中心部付近では、高圧によって中性子やハイペロンなどのバリオンの構造が破壊され、クォーク物質が存在している可能性が示されたそうです。
さらに理論的な上限値に相当する質量を持つ中性子星の中心に存在するクォーク物質の核の大きさは、直径が1km以上になるという推定もされています。
ただし現時点では、中性子星の内部に存在する構造や物質を解明できたとまでは言えません。
より正確な推定をするためには、中性子星に関するさらに膨大な観測データが必要となってくるでしょう。
この世の極限環境でどんな物質が存在しているのか、それが解明されていくのが楽しみです。