なぜレアルはシティを倒せたのか?C・ロナウドの抜けた穴とアンチェロッティの戦略的マネジメント。
奇跡などでは、ない。
今季のチャンピオンズリーグ準決勝で、レアル・マドリーとマンチェスター・シティが激突した。アウェーのファーストレグを3−4で落としたマドリーだが、本拠地サンティアゴ・ベルナベウでのセカンドレグを3−1で制して、ファイナル進出を決めた。
新たなスペイン王者として、ふさわしい戦いぶりだった。
マドリーはすでに2021−22シーズンのリーガエスパニョーラの優勝チームになっていた。2019−20シーズン以来のリーガ制覇で、クラブ史上35回目の優勝だった。
■絶対的な選手のいないチーム
現在のマドリーには、クリスティアーノ・ロナウドも、セルヒオ・ラモスもいない。
2018年夏にC・ロナウドが、昨年夏にS・ラモスがクラブを去った。攻撃と守備の絶対的な選手が不在となり、復帰したカルロ・アンチェロッティ監督に新たなチームビルディングが求められた。
新しいレアル・マドリーをーー。俄(にわか)に上がった期待は、しかし裏切られた。マドリーの攻撃の主軸はカリム・ベンゼマで、彼は2009年夏に加入してから「BBC」と呼ばれる3トップの一人として活躍してきた。ミドルゾーンでは、カゼミーロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチと盤石の中盤が君臨した。フェデリコ・バルベルデ、エドゥアルド・カマヴィンガといった選手への世代交代は起こらなかった。
だがマドリーは強かった。中心メンバーは、チャンピオンズリーグ3連覇を達成したジダン・マドリーから刷新されてはいない。一方で、アンチェロッティ監督はサブの選手たちを巧みに使った。前述したバルベルデやカマヴィンガをはじめ、ルーカス・バスケス、ナチョ・フェルナンデス、マルセロ、ダニ・セバージョス、マルコ・アセンシオ、ロドリゴ・ゴエスらを最後まで「スイッチの入った状態」にしていた。指揮官の戦略的なマネジメントが、功を奏した。
「レアル・マドリーが幸せなら、私も幸せだ。マドリーが幸せでなくなったら、私はここで過ごさせてもらった時間に感謝する」今季途中、続投について問われたアンチェロッティ監督はそのように答えた。
「予期していなかった」というマドリーからのオファーを、アンチェロッティ監督は今季開幕前にマドリーから受けた。二つ返事で快諾して、スペインに戻ってきた。
マドリーに必要なのは、ペップ・グアルディオラ監督やトーマス・トゥヘル監督のような希代の戦術家ではない。ビセンテ・デル・ボスケ監督やジネディーヌ・ジダン監督のような、スター選手たちを快適にプレーさせる術を心得た指揮官だ。
■欧州を渡り歩いた経験
「アンチェロッティがほかの監督と違うところは、選手の扱いだ。監督の中には、言っていることとやっていることが異なる人がいる。でも、アンチェロッティは正面から向き合ってくれる」と語るのはナポリでアンチェロッティ監督の指導を受けたフェルナンド・ジョレンテである。
「当時、僕は未所属の選手で、自主トレーニングをしていた。それで、ナポリからオファーをもらった。行ってみたら、初日に練習場で彼と彼の息子のダビデに話しかけられた。その日、僕たちは一緒に夕食を食べにいったんだ」
一方、「アンチェロッティはロッカールームの扱いを熟知した数少ない監督だ。でも、強い個性がないわけじゃない。起こった時の彼を見て欲しいね。彼にはイタリア人のDNAがある」とはバイエルンで指導を受けたハビ・マルティネスの言葉だ。
「僕にとって、ベストの監督はグアルディオラだった。だけど、監督は選手の最高の状態を引き出さなければいけない。そういう意味で、ディフェンダーとしては、アンチェロッティや(ホアキン・)カパロスの下で僕の最高のレベルが引き出されたと思う」
■スター軍団と団結
スター軍団を束ねるのは、簡単ではない。
だがアンチェロッティ監督のマネジメントは一貫していた。象徴的だったのは、チャンピオンズリーグ準々決勝セカンドレグのチェルシー戦だ。トータルスコアイーブンで迎えた71分、クロースに代えてカマヴィンガを投入。すると、クロースが交代に際して怒りを爆発させた。
「彼の怒りは監督に対してのもので、人に対してのものではない」試合後、アンチェロッティ監督はそう話している。
サッカー選手とサッカー監督である前に、人間と人間だ。アンチェロッティは、選手を選手としてではなく、人として扱った。ゆえに、逆説的に選手たちから厚い信頼を得た。
ミラン(2003−04シーズン)、チェルシー(09−10シーズン)、パリ・サンジェルマン(12−13シーズン)、バイエルン(16−17シーズン)、そしてマドリー(21−22シーズン)と、5大リーグで優勝を達成する指揮官の秘密は、意外にシンプルなところにあるのかもしれない。そして、それがまさにマドリーをCLのファイナル進出に導く力ともなっている。