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【移民への差別・排外主義に懸念、新型コロナウイルス流行で】市民や研究者が声上げる、排除ではなく連帯を

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
台湾での移住労働者の抗議行動、市民社会が運動を支える(筆者撮影、2019年台北)

 新型コロナウイルスの影響が拡大する中、市民団体や研究者らからは同ウイルスに関連した移民やマイノリティへの差別や排外主義に反対する声を上げている。

◇移住連が声明:「新型コロナウイルス流行と結びついた差別や排外主義的な言動は許されない」

 移住者の支援を行う「移住者と連帯する全国ネットワーク」(東京都、以下は移住連)は3月18日、声明「新型コロナウイルス流行にともなう緊急アピール」を出し、「差別・排外主義に懸念を表明し、移民、民族的マイノリティ、社会的に脆弱な立場の人びとにたいする人権保障と医療・経済的保護」を求めるとの考えを表明した。

 声明の背景にあるのは、世界各地で新型コロナウイルスの流行に伴い、移民やマイノリティに対する差別や排外主義的な言動が出ていることだ。

 移住連は声明で、とりわけ日本では、世界保健機関(WHO)が「差別や風評被害を防止する観点から特定の地名や人名等を感染病の病名に使わない方針を定めているにもかかわらず、一部の政治家が、新型コロナウイルスを『武漢ウイルス』と呼ぶ事態」が起きていると指摘。

 さらに、「さいたま市は、保育園などの職員用に備蓄用マスクの配布を行う際、朝鮮幼稚園をその対象外と一旦決めました(市民らの抗議ののちに撤回)。このように、公的機関や公の立場にあるものがむしろ率先して差別をしたり、煽る例も目立ちます」とし、差別や排外主義に対処すべき公的部門が差別を助長していると警鐘を鳴らす。

 また移住連は、「政府や自治体に対し、新型コロナウイルス流行と結びついた差別や排外主義的な言動は許されないという明確な姿勢を示すこと、また、移民・民族的マイノリティの人権保障および脆弱な位置におかれた人びとを保護することを求めます」とした上で、「誰もが取り残されないよう多言語での情報提供や、人権にもとづくきめ細やかなサービス提供が必要です。さらに、政府、報道機関、そして市民に、正確で公正な情報発信を行うよう要請します」と呼びかけた。

◇台湾の研究者、滞在資格を持たない移住労働者の包摂の重要性訴え

台北市内を走るバスに描かれた移住家事労働者の広告。ケア部門を移住労働者が支えている(筆者撮影、2019年台北)
台北市内を走るバスに描かれた移住家事労働者の広告。ケア部門を移住労働者が支えている(筆者撮影、2019年台北)

 台湾の研究者グループも移住労働者の包摂を求める声明を出している。とりわけ、雇用主のところから逃げるなどして滞在資格を失っている移住労働者の包摂が、感染拡大防止と移住労働者の権利保護において急務だとする。

 声明を出したのは、台湾の研究者である王宏仁氏(中山大学社会系教授)、呉嘉苓氏(台湾大学社会系教授)、曾エン(女へんに燕)芬氏(台湾大学社会系教授)、藍佩嘉氏(台湾大学社会系教授)、陳炯志氏(交通大学文化研究国際中心ポスドク研究員)。

 この声明は中国語と英語で公表されてまもなく、日本で移住労働研究をおこなう社会学者らによって日本語に翻訳された。張雅晴氏の翻訳・大橋史恵氏の監訳による日本語版は、両氏による解説とともに出版舎ジグのウェブサイトに「移住労働者の権利と感染症対策をめぐる 台湾の大学教員5名の共同声明」として掲載されている。(注)

 声明の出された背景には、台湾は各種産業部門に海外から労働者を受け入れている上、得に介護などケア部門を多数の移住労働者が支えていることがある。ケア部門の移住労働者の多くがインドネシアやベトナム、フィリピンなどから来た女性だ。

 他方、新型コロナウイルスが流行する中、ケア部門で働く外国人の中に感染者が出ている上、雇用主のところから逃げるなどして滞在資格が非正規化した外国人が医療サービスや感染対策から取り残されている現状がある。

台湾・桃園市で開かれた移住労働者が参加するコンテスト。台湾の各種産業部門を移住労働者が支えている(筆者撮影、2019年桃園)
台湾・桃園市で開かれた移住労働者が参加するコンテスト。台湾の各種産業部門を移住労働者が支えている(筆者撮影、2019年桃園)
台湾・桃園市の街並み。移住労働者向けのインドネシア料理店もある(筆者撮影、2019年桃園)
台湾・桃園市の街並み。移住労働者向けのインドネシア料理店もある(筆者撮影、2019年桃園)

  そんな中、5人の研究者は今回の声明で、「失踪」状態にある移住労働者は「台湾社会の片隅で、重要な労働力であり続けている。とりわけ緊急の医療ケアや、介護労働者の雇い替え期の空白を埋める必要が生じた家庭は、『失踪』状態の移住労働者に臨時に頼らざるを得ない」状況があるとする。

 その上で、5人の研究者は「『失踪』状態にある移住労働者に医療サポートを提供し、あらためて関係を結び、正規の仕事とステータスを付与してほしい。『失踪』状態にある移住労働者が体調不良のときに身を隠すのではなく病院に行けるようになれば、大規模な感染拡大を避けることができる」とし、下記の提案をしている。

1、各レベルの政府機関は「失踪」状態にある移住労働者に対して、「捜査と逮捕」ではなく、「協力とサポートを提供し、自発的な出頭を奨励する」ことを原則とすること。

 2、健康保険を持たない「失踪」状態にある移住労働者、とりわけ医療ケアを担っており感染リスクが高い移住労働者が、感染症予防に必要な資源にアクセスできるようにすること。感染の可能性がある場合、無償で必要な医療リソースを提供すべきである。

 3、一定期間中に「失踪」状態にある移住労働者が出頭した場合、事情を考慮し、強制送還および台湾における再就労の禁止といった処罰を免除する。さらに合法的に働けるよう雇用機会を与えること(他の移住労働者と同じように、3年間に1回の契約更新とする)。

 4、現行制度では、雇用主に過失がない場合であっても移住労働者の「失踪」によって雇用主の雇用資格が停止されるが、これを見直す。また「失踪」状態の移住労働者を雇う雇用主も、事情を考慮し、処罰を免除する。こうした措置によって、雇用主および「失踪」状態にある移住労働者が、ともに感染症予防対策に取り組むことを奨励する。

出典:出版社ジグのウェブサイト掲載の「移住労働者の権利と感染症対策をめぐる 台湾の大学教員5名の共同声明」

 

◇東アジア社会学会も差別に反対する声明:研究の呼びかけも

 東アジアの社会学者が参加する東アジア社会学会(East Asian Sociological Association =EASA)も3月7日付で、社会学者の矢澤修次郎氏、Seung Kuk Kim氏、Bing Zheng氏の連名による英文の声明「the Statement on Corona Virus Outbreak」を出した。

 東アジア社会学会はこの声明で、「私たちは新型コロナウイルスに苦しんでいるすべての人・国と団結します」とした上で、新型コロナウイルスによる「被害者とその出身国に対するいかなる形の差別とゼノフォビア(外国人嫌悪)に強く反対します。人間の人権と尊厳は、新型コロナウイルスの被害を受けた人も受けなかった人も同様に等しく尊重されなければなりません」と、差別に反対する姿勢を表明した。

 同時に、「社会学は伝統的に社会的リスクを分析・理論化してきました。新型コロナウイルスを新たな社会的リスクとしてとらえ、私たちは研究者に対して、新型コロナウイルスの社会的起源と社会的な影響に関する共同研究を行うことを提案します」とし、研究者が新型コロナウイルスの社会的影響などに関して研究する必要性を訴えている。(了)

 注:「移住労働者の権利と感染症対策をめぐる 台湾の大学教員5名の共同声明」が掲載された出版舎ジグのウェブサイト向けに筆者は写真を提供した。

研究者、ジャーナリスト

岐阜大学教員。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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