スペインの名スカウトが見た日本人FW。柏レイソル、ACL逆転の起死回生は?
「厳しいという意見はもっともだけど、決して諦めてはいません」
AFCチャンピオンズリーグ(以下ACL)準々決勝、広州恒大との1レグが終わった後のミックスゾーン。工藤壮人はマイクの砲列に向かい、2レグに向けた思いを粛々と語っていた。本拠地の日立台で1-3の敗戦。アウエーゴールは重く、厳しい状況であることは間違いない。しかし一方、終了間際の工藤の1ゴールがほんのわずかな望みをつないだことも然りだった―。
正真正銘のゴールゲッター
工藤はACL4得点目(宇佐美貴史と並んで、日本人トップ)を記録し、通算では10得点。歴代日本人選手ゴール数で単独2位。国際舞台での得点は非凡なセンスを表している。
先日は、柏のクラブ歴代最多得点記録を更新した。2012年に優勝した天皇杯の準々決勝、準決勝の得点、2013年のACL準々決勝、準決勝と連続決勝点のように、1点の重みのある"勝利打点"を数多く記録しているのも特長だろう。2013年、浦和レッズとのナビスコカップ決勝ではヘディングで鮮やかな決勝点。
「工藤がゴールすると負けない」という気運が生まれることも、彼の異能だろう。
こうした実績にもかかわらず、「速くも強くもなく、なにがストロングポイントなのか、今ひとつ分からない」と未だに工藤の能力に疑問を呈す関係者もいるが、それは見えるべきものが見えていない。これだけの得点を奪うには、プロの世界では理由がある。
日本代表を率いていたアルベルト・ザッケローニ監督は、その決定力に着目した。右サイドの岡崎慎司のバックアッパーとして、「サイドをふたする」という守備は一つの大きな役割だったが、「ゴールを仕留める」という大きな使命を託されていた。ザッケローニは「左で作り、右で仕留める」という戦い方を信奉し、工藤の得点力を高く評価していたのだ。
「工藤は容易くシュートに持ち込めている。その後の精度も高い。"シュートが打てる”というのはFWの存在証明だが、それ以上に仕留める力がある」
レアル・ソシエダなどで強化部長を歴任しているスペイン人スカウトで、ジョゼップ・グアルディオラもその眼力を認めているというミケル・エチャリも、一目で工藤の才能を見抜いていた。
「センターフォワードとしては小柄で力強さは欠く。トップFWの岡崎と比べて足りないのが、全体的な走力。トップリーグでプレーすることを考えると、スピードのインテンシティは物足りない。しかし基礎的な性能は高いだろう。ポストプレーは安定し、相手の圧力を巧く消せている。なにより敵味方の動きを読み取るのに長け、集中力も高い。こぼれ球を計算し、守備の危険な場所も察知し、攻守両面で頭を働かせている。
ナビスコカップ決勝ではクロスを引き出してヘディングで得点を決めているが、先を読んだ準備動作が功を奏していた。2015年の川崎戦も現場で見たが、ボールのもらい方、体の向き、動き出すタイミング、そしてGKの動きを確実に読んでのフィニッシュまで、一連の動きは完璧だった。正真正銘のゴールゲッターと言えるだろう」
広州との1レグ、工藤は右サイドのアタッカーとして先発した。武富孝介をフェイクの9番に入れた形だったが、終盤に工藤がエデルソンと2トップに近い形になってからゴールは生まれている。彼は賢く器用な選手でアシストする能力も非凡、暫定的ならサイドバックもこなせるほど守備力も高いが、フィニッシャーはサイドやシャドーではなくゴールを取るポジションにいるべきだろう。
最前線に陣取るFWとして、工藤は覚醒できるか?幸いにも、前線でコンビを組むようになったエデルソンは工藤の動きを読み取れるセンスを備えており、良き理解者になりつつある。
「今シーズンは(サイドよりも)トップで勝負したい。自分の良さをストレスなく出せる場所だから。その状況を作り出せるように、チームとして成長しながら、さらに自分が引っ張っていけるように」
工藤は胸中を口にしてきた。2レグ、柏が勝ち抜けるためには、少なくとも3得点が必要になるだろう。アジア王者の夢をつなぐには―。畢竟、9番のゴールが欠かせない。