まさに「1強」だった大阪桐蔭! 「力がない」のに急成長できた要因とは?
センバツ大会は大阪桐蔭が4年ぶり4回目の頂点に立った。優勝候補筆頭の重圧を微塵も感じさせず、圧倒的な強さだけが際立った印象だが、もともとは西谷浩一監督(52)が「力はない」と評したチーム。ここまで強くなれた要因を探る。
近畿大会初戦はあっさりコールドで
大阪桐蔭の今チームを最初に見たのは、昨秋10月16日の近畿大会(タイトル写真)。塔南(京都)との1回戦は、甲子園がそうであったように、立ち上がりから相手投手を一気に攻め主導権を握る。そして、彗星のごとく現れた前田悠伍(2年)の好投で、あっさりコールド勝ちを決めた。大阪大会での苦戦が伝えられていたが、前田の加入で投手陣に芯が通り、やはり一味違う試合運びをする。ただし、前田以外の投手は例年ほどではないというのが、近畿大会時点での率直な感想だった。
打線が課題だと思ったが…
この日、西谷監督は「前のチームと比べれば力はない」と話したが、同感であった。エース・松浦慶斗(日本ハム)、強打の池田陵真(オリックス=前主将)らそうそうたるメンバーがいた直近の先輩たちもやはり、春夏ともに甲子園では優勝候補の筆頭に挙げられていた。したがって西谷監督の「力はない」は、間違いなく本音だ。野手で前チームから試合出場していたのは捕手の松尾汐恩(3年)だけで、初めて見る選手ばかり。前田の印象が強烈すぎたせいもあるが、このチームは打線が課題だろうと思った。その後の神宮大会では、前田の疲れもあって投手陣の失点も増えたが、打線がつながり始めていた。左打ちの丸山一喜(3年)と海老根優大(3年)の打順を入れ替え、上位をジグザグにして、連打が出るようになっていたのだ。それが最終的にはセンバツでの3試合連続2ケタ得点&11本塁打につながる。
上級生投手成長させた監督との絆
投手では前田のすごさに驚かれたファンも多いことだろう。大阪桐蔭の並みいる歴代投手と比較しても、トップランクは間違いない。筆者がかつて優勝へのポイントとして挙げたのは、前田に頼らない「上級生投手の成長」だった。その不安は、188センチ右腕の川原嗣貴(3年)が解消した。近江(滋賀)に敗れた昨夏、川原は先輩投手を救援して決勝打を浴びた。西谷監督は鳴門(徳島)との1回戦を、川原一人に任せた。「秋までは生活面での甘さが投球にも出ていた」という川原の成長を認めていたからで、それに応える見事な完投勝利。そして近江との決勝でも最後に登板させた。「負けた悔しさ」を誰よりも痛感し、自身に打ち勝って信頼を得た川原に対する親心は、監督と選手の絆を如実に物語る。
甲子園に飢えていた世代
センバツ準決勝を前に、西谷監督が選手たちについて興味深い発言をしていた。「甲子園でやりたいという欲、貪欲さ、一生懸命さを持っているんじゃないか」(主催者提供)。対面取材がかなわない中、筆者が最も知りたかった答えがこれである。直近の先輩たちが実力者揃いだったこともあり、試合出場の機会に恵まれていなかっただけで、やはり逸材が揃っていた。甲子園に飢えていた彼らの「欲」が急カーブでの成長につながったと言える。そして大阪桐蔭が「強くなった」世代には、必ずいい主将がいた。
メンバー束ねた星子主将の人間力
星子天真主将(3年)もことあるごとに「力がないことはわかっている」を繰り返す。あれだけ大勝を重ねたわけだから、少々、嫌味に聞こえるかもしれないが、すごい先輩たちを知っているからこその言葉である。優勝後、共同インタビューの機会に恵まれた。NHKでも放送されたのでご覧いただけたかと察するが、筆者の質問に答える彼は、名門の主将にふさわしい人物と思われたはずだ。西谷監督は「私が言う前に、星子が束ねてくれている」と、行動力に全幅の信頼を置き、星子は「メンバー外の選手に支えられた。(部員)41人全員でつかみ取った優勝」と言い切った。いくら技術が優れていても、個がバラバラでは機能しない。主将の人間力が、最強の集団をつくり上げていった。
「3度目の春夏連覇へ」主将がきっぱり
優勝インタビューで西谷監督は「いいチームから強いチームに変わっていっている。発展途上なので、夏にもっと強いチームをつくってここに戻ってきたい」と意欲を見せた。コンディショニングに苦労する出場校が多い中、大阪桐蔭はチーム状態が最高潮で大会を迎えた。「日本一の練習をした」(星子)と、最高の準備ができていたようで、夏の大会かと思われるほどの完成度でもあった。それでも西谷監督に言わせれば「発展途上」である。星子は「夏の頂点も取って、3度目の春夏連覇を達成したい」と、目標をはっきり口にした。全国のライバルたちは両者の言葉をどう聞いたか。大阪桐蔭を上回る練習をしないと、春の王者はますます遠くへ離れていってしまう。