代表メンバーの底辺から”W杯イヤー”に臨む宇佐美貴史。来季から挑戦するトップ下のイメージ。
「もう言われていました。(帯同が)延びるか、ここで終わるか」
宇佐美貴史はサバサバとした表情でそう答えた。シリア戦で香川真司が左肩を負傷し、日本代表から離脱したことで宇佐美がそのままイランでのイラク戦に向かうチームに残ることも予想されたが、追加招集で参加した合宿はここで終わることになった。しかし、宇佐美の表情は暗くない。
「来れてよかったと思いますね。べたっと休みきってコンディションを崩すよりは、ここの合宿に来るまでに3日ほど割とゆっくりする時間があって、そこでもすごくいいオフは過ごせました。1シーズン通して疲れていないので、別に休む必要もないかなと思っていた中で呼んでもらえて、厳しいトレーニングをしっかり詰めて、いい選手たちと生活をともにした。僕としてはすごくメリット大きかったかなと思います」
合宿中にはハリルホジッチ監督には来季のクラブではトップ下で期待されていることを告げ、「クラブとしての戦い方、自分がどう戦って、どこで勝負していくか」告げて、助言をもらった。その時に言われたのはやはり、クラブで試合に出てほしいということだ。そうなると日本代表でもトップ下やインサイドが勝負する場所になってくる。
香川真司やもしかしたら本田圭佑もライバルになるかもしれないポジションだが、宇佐美は「こっちの代表でのインサイドハーフはボールをよく触れるポジションだと思う」とイメージする。
「ボール触ってナンボだなっていうのを改めてああいう今年1年ドイツに移籍して、アウグスブルクのサッカースタイルで1年間サッカーやる中で強く思ったし、ボールを触ってどうするかっていうところが自分の強みなんだなっていうところは改めて感じたんで真ん中での適正がもっともっと出てくれば、4-3ー3のインサイドハーフもできると思いますし、そうなればまた自分のサッカースタイルとか、サッカー観とかも広がるかなと思います」
宇佐美はそれを”プレー出現率”と表現する。「よく出てくる選手じゃないといけないのかなと思いますし、トップ下におけるトップ下が消えてるとなかなかチームとしてもうまく進んでいかない」。”チームの攻撃、支配するプレー”が宇佐美のトップ下像だ。ハリルホジッチ監督は縦を狙う意識を日本に植え付けてきた一方で、ボールを動かすことを全て縦に限定しているわけではない。そこを判断するのは主に攻撃的MFの選手だ。もっとも日本代表の中でも共通のコンセプトはあるものの、実際そのポジションに誰を使うかで特徴は変わる部分がある。
「それぞれスタイル違いましたよね。秋君のよさはどんどん前に運んでいくことですし、圭佑君の場合はどしっと構えてってスタイルですし、どういうスタイルやっていくかっていうのはその時にフィーリングもあるし、その時のチームの状況でも変わってくると思うので、そこを臨機応変に攻撃面では変えられるところが自分の強みかなと思います」
また宇佐美にとってはサイドの経験がトップ下で生かされる面もあると考えている。「(サイドを生かすイメージも)もありますし、逆に守備面でも真ん中はもう守備はもちろんしますけど、サイドほどあそこまでダッシュを繰り返してってポジションではない」と語る。宇佐美の中ではサイドの方がより守備の負担を強いられるポジションだ。トップ下に移ったからといって守備をしなくなるという意味ではないが、負担が少なくなる分もプレーに余裕が出て、攻撃に意識を使えるということだ。
今回は”26番目の選手”としての追加招集であり、現在の序列は遠征にも参加できないメンバーに過ぎない。しかし、そのポテンシャルに対する期待の大きさは変わらない。それに応えるにはクラブでポジションを掴み、求められるポジションで活躍すること。他の代表メンバーより少し早いオフを経て、宇佐美にとって勝負の”W杯イヤー”がスタートする。