明治時代の薬の瓶などを展示している薬局があると聞いてやってきたのが、土浦市中央にある「奥井薬局」。展示コーナーは小規模ながら一つひとつが貴重なものばかりです。

薬局に併設されている「まちかどミニ展示館」

土浦駅から徒歩約10分。国道6号と土浦学園線の間、上に高架道が走る場所に「奥井薬局」はあります。一見なんの変哲もない“町のお薬屋さん”ですが…

窓ガラスを見ると「まちかどミニ展示館…奥井薬局の歴史」とあります。薬局なのに展示館？　一体どういうことなのでしょう。早速店内にお邪魔させていただきました。

店内に足を踏み入れると右側が調剤薬局、左側が「まちかどミニ展示館」になっていて、棚という棚いっぱいに気になるものが展示されています。

「まちかどミニ展示館」は、奥井薬局が創業した明治時代から大正、昭和、現代と時代変遷とともに展示が行われていて、明治時代に使われていたというガラス瓶は1個1個が手作り。並べてみると確かに同じものがなく、デコボコとした形もまた見ていると楽しいです。

昔は金庫として使われていたという桐箱。桐は熱伝導性が低く、他の木材に比べて吸水性に優れていたので、火事に見舞われることが多かったという明治、大正時代は大変重宝されていたそうです。

大正時代に用いられていた手ぬぐいも貴重な資料です。昔の手ぬぐいはどことなく芸術的です。

手ぬぐいの上に展示されている藍色の生地は風呂敷で、当時は薬を風呂敷に包んで持ち歩いていたそうです。

風呂敷の中を開くとさらにこんな薬袋が。

制服代わりに着用されていた半纏（はんてん）も展示されています。

これまでに取材された記事や貴重な資料のコピーなどが綴られたファイルは、時間の許す限り読ませてもらうと、奥井薬局の歴史だけでなく、土浦の歴史も垣間見ることができます。

奥井薬局の初代は茨城県内初の薬剤師国家試験の合格者

展示物には、額に飾られたこのようなものも。これは、「奥井薬局」を創業した初代・奥井（旧姓：平澤）有一郎さんが薬剤師試験に合格した証にもらった証書です。試験に合格したのは明治26年のことで、当時薬の専門家として国に認められた薬剤師は日本でも数少なく、茨城県内では有一郎さんが第１号だったそうです。

薬剤師の資格を取得したその2年後の明治28年、旧水戸街道沿いの大手前にて「奥井薬局」の歴史がスタートします。薬品の小売のほかに、病院への医薬品衛生材料などの卸業なども手掛けて、薬剤師という立場から医療を支えていました。精力的に活動を続けていた有一郎さんですが、大正8年に当時世界を覆い尽くしていたインフルエンザ（スペイン風邪）に感染し、53歳の若さでこの世を旅立ちます。その有一郎さんの後を継いだのが長女の志づさん、3代目である奥井清さんのお母さまでした。

2代目を受け継いだ志づさんには、3人のご子息がいて、3代目の清さんは末っ子にあたります。ちなみにこちらの写真は、昭和元年に新渡戸稲造さんが奥井家に来たときに撮影した記念写真です。下の段の左から2番目が新渡戸稲造さんで抱かれているのは清さんのお兄さんにあたる長男の誠一さん。東北大学薬学部の教授を務め、45歳で亡くなりましたが、新渡戸さんの生き方に共感して、最後までまっとうされた人生だったそうです。

3代目の奥様・登美子さんは今もなお現役で活躍する薬剤師さん

「まちかどミニ展示館」を立ち上げたのは、３代目である奥井清さんとその奥様の登美子さんです。1933年生まれの登美子さんは、今もなお現役の薬剤師さん。今は亡き清さんの一番上のお兄さまの誠一さんに「うちの弟と結婚してやってくれ」と口説かれ、半ばお見合いのような形で結ばれ、結婚を機に東京から土浦へ。「ウカウカと結婚しちゃったのよ」と登美子さんはおっしゃいますが、今も「パパ」「ママ」と呼び合う仲睦まじいおふたりを拝見するだけでとても心が温かくなります。

薬局のちょうど裏手にあたるこの場所は「土浦の自然を守る会」の会員が集う、いわばサロンのような場所。茨城県では初めて環境問題を取り上げて、1971年に誕生した市民運動の団体です。

登美子さんがご覧になっているのは、登美子さんが描き、ストーリーを考えた絵本です。土浦の歴史を子供たちに語り継ぐために作られた絵本はそれ自体が作品として貴重です。

薬の調合などで登美子さんは常に大忙しですが、比較的午前中は時間を作ってもらえる可能性があるので、展示品を見ながらいろんなお話を伺うのも楽しいですよ。「まちかどミニ展示館」は無料で見ることができるので気軽に訪れてみてくださいね。