Yahoo!ニュース

なぜ”パリSGのメッシ”が誕生したのか?ネイマール、エムバペとの3トップと悲願のビッグイヤー獲得。

森田泰史スポーツライター
パリSGとサインしたメッシ(写真:ロイター/アフロ)

パリが、世界のフットボールの中心になるかもしれない。

リオネル・メッシのパリ・サンジェルマン移籍が決定した。昨季限りでバルセロナとの契約が満了していたメッシは、年俸50%減を受け入れてまで残留を望んでいた。しかしながら財政上の理由でバルセロナとの再契約には至らなかった。

一方、パリの動きは素早かった。フリートランスファーでメッシを獲得するチャンスが生じるや否や、父親であり代理人を務めるホルヘ・メッシとの接触を図った。年俸3500万ユーロ(約45億円)に2年契約+1年延長オプションで、背番号30のオファーを用意してメッシ側を納得させた。

メッシの涙の会見
メッシの涙の会見写真:ロイター/アフロ

「この数日、何を言うかを考えていた。でも、まったく思い浮かばなかった。心の備えができていなかった。昨年、ブロファックスの一件があった時は準備ができていた。だけど、今年、僕はバルセロナでプレーを続けられると信じていた」とはメッシの退団会見での言葉だ。

「ピッチで別れを告げたかった。サポーターの最後の拍手喝采を聴きながら…。だけど(コロナ禍で)それはできなかった。自分の退団を想像したとき、そこは常に満員のスタジアムだったんだ。でも、僕はずっと応援してくれたファンに感謝を捧げたい。良き時期も悪い時期もあったけど、いつも彼らの愛情を感じていた。彼らは僕を認め、リスペクトしてくれていた。僕はこれからもずっとバルサを愛し続ける」

「クラブがすべてを尽くしたかは分からない。だけど、僕はそうした。年俸50%ダウンを受け入れるつもりだった。それ以上は何も要求されなかった」

■パリの存在と競合相手

メッシ獲得に際して、強豪相手になりそうだったのがマンチェスター・シティやチェルシーといった資金力のあるクラブである。

シティは今夏、ジャック・グリーリッシュとハリー・ケインの獲得を目指していた。すでに移籍金1億1700万ユーロ(約153億円)でグリーリッシュの獲得を決めており、ケインに関しても時間の問題だと見られている。「我々はグリーリッシュを信頼している。彼には背番号10を与えた。メッシを獲るというプランは我々にはない」とはジョゼップ・グアルディオラ監督の弁だ。

一方、チェルシーのトップターゲットはインテルのロメル・ルカクだった。ルカクを確保するため、移籍金1億2000万ユーロ(約156億円)を準備しているとされる。トーマス・トゥヘル監督は、昨年夏に獲得したティモ・ヴェルナーとは異なるタイプのストライカーを求めていて、その考えにメッシは合致しなかった。

バルサ時代のグアルディオラ監督
バルサ時代のグアルディオラ監督写真:なかしまだいすけ/アフロ

8月8日にパリSSGから正式にオファーが届いた。そして、8月10日の段階でメッシはもうパリにいた。迅速な行動が、功を奏した。

パリSGでは、ネイマールとキリアン・エムバペがプレーしている。メッシ、ネイマール、エムバペの豪華絢爛の3トップが誕生する。レアル・マドリーが擁したガレス・ベイル、カリム・ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウドの“BBC”やメッシ、ネイマール、ルイス・スアレスのバルセロナの“MSN”に匹敵するアタッカー陣が、パリで躍動するだろう。

スター軍団において、問題になり得るのはチーム内の序列だ。ネイマール (推定年俸3600万ユーロ/約46億円)、エムバペ(2450万ユーロ/約32億円)、メッシ(3500万ユーロ/約45億円)が互いを尊重できるかが鍵を握る。何より、それをマウリシオ・ポチェッティーノ監督がコントロールできるかどうか。指揮官の手腕が問われるところだ。

■マーケットと大型補強

2011年にQSI(カタール・スポーツ・インベストメンツ)がクラブを買収して以降、大型補強を敢行してきたパリSGだが、特筆すべきは2017年夏だ。契約解除金2億2200万ユーロ(約288億円)でネイマールを、移籍金1億8000万ユーロ(約234億円/1年レンタル後に支払い)でエムバペを獲得した。

その他、アンヘル・ディ・マリア(移籍金6300万ユーロ/約81億円)、レアンドロ・パレーデス(移籍金4000万ユーロ/約52億円)、マルキーニョス(移籍金3500万ユーロ/約45億円)、マルコ・ヴェッラッティ(移籍金1200万ユーロ/約14億円)と相応の移籍金を支払い、現在の主力選手を確保してきた。

ネイマールやエムバペら豪華攻撃陣
ネイマールやエムバペら豪華攻撃陣写真:ロイター/アフロ

えてして、こういったチームは攻撃に重心が傾きがちになる。

2000年から2006年にかけて、レアル・マドリーがフロレンティーノ・ペレス会長の下で“銀河系軍団”を形成した。第一次ペレス政権において、ルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、デイビッド・ベッカム、マイケル・オーウェンと大物選手が次々に加入した。

しかし、ペレスはその中でクロード・マケレレを放出するという最大の失敗を犯した。黒子役のマケレレがいなくなり、フィーゴ、ジダン、ロナウドが以前のように輝けなくなった。

ただ、パリSGの場合、この夏にセルヒオ・ラモス、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、ジャンルイジ・ドンナルンマといった選手を補強している。選手層は厚みを増しており、これといった死角は見当たらない。

熱狂のパリ
熱狂のパリ写真:ロイター/アフロ

パリの野望は、ビッグイヤー獲得にある。

メッシもまた、暫くチャンピオンズリーグ優勝とは縁がない。最後にビッグイヤーを掲げたのは2014−15シーズンだ。

「もう一度チャンピオンズリーグで優勝したかった。(2019年の)リヴァプールとの準決勝、(2012年の)チェルシーとの準決勝、何度かそこに近づいていた。チャンピオンズリーグもそうだし、タイトルを勝ち取り続け、ダニ・アウベスに並びたい」

これはメッシのコメントだ。この夏、ブラジル代表として臨んだ東京五輪で金メダルを獲得したD・アウベスは、キャリアを通じて43個のタイトルを獲得。メッシはバルセロナで35個、アルゼンチン代表で3個、合計38個のタイトルを有している。

メッシが着ける背番号30は、彼がプロデビューを飾った時に着けていたものだ。13歳でバルセロナのカンテラに入団したメッシは、6度のバロンドール受賞者でありながら、新天地パリで初心に立ち返りタイトルだけを目指そうとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事