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新型コロナ感染症:知っておくべき「ペットの感染」リスク

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)流行の第1波は少しずつ収まってきているようだ。このウイルスは、ヒト-ヒト感染が確認されているが、以前からヒト以外の動物への感染が疑われてきた。最近の研究ではネコ-ネコ感染が確認されたがペットからヒトへの感染はあり得るのだろうか(この記事は2020/05/22時点の情報に基づいて書いています)。

ネコ-ネコ感染はあり

 先日、医学雑誌として高く評価されている『The NEW ENGLAND JOUNAL of MEDICINE』オンライン版に、日本の研究者らによる新型コロナウイルスのネコ-ネコ感染の実験研究が報告された(※1)。ネコ-ネコ感染はすでに先行研究(※2)があり、この実験は再現性を検証したものだ。

 この実験では、実験用のネコ(オス・メス、15-18週齢)6匹を使い、3匹にヒトの新型コロナウイルスを感染させ、感染させていないネコ3匹とそれぞれ2匹ずつ3ペアにして同じケージにいれた。その後、3ペアともヒトの新型コロナウイルスのネコからネコへの感染が確認されたという。

 ヒトの新型コロナウイルスが、ペットを含む他の動物に感染した最初の例はイヌだった。

 香港政庁は2月28日と3月26日に、香港で2匹のイヌからヒトの新型コロナウイルスの陽性反応が出たと発表している。この2匹は全く別の場所で飼われていたイヌだったという。

 ベルギーの食品安全連邦機関(FASFC)は3月27日のニュースリリースで、飼い主がイタリアから帰国後に陽性反応が出てから隔離されていた1匹の雄ネコからヒトの新型コロナウイルスが見つかったと発表した。このネコは拒食、下痢、嘔吐、咳などの症状が出ていたが、発症9日後に症状が改善したという。

 また、米国ニューヨークのブロンクス動物園のトラ数頭が、飼育員から新型コロナウイルスに感染し、風邪に似た症状を起こしたことが報じられた。その後、トラ同士で感染が広がったようだ(※3)。

 米国の疾病予防管理センター(CDC)は、4月22日にニューヨークで初めて2匹の飼いネコがヒトの新型コロナウイルスの陽性反応を示したと発表した。この2匹も別々の飼い主に別々の地域で飼われていたネコで、軽い呼吸器疾患のほかは特に重症化はしていなかったようだ。また、オランダでは養殖ミンクに感染が報告されている。

ネコとフェレットとヒト

 実験動物として利用されているフェレットもヒトの新型コロナウイルスに感染することがわかっている(※4)。フェレットの場合、発熱とウイルスの排出が観察され、ヒトに似た症状を示すという。治療薬やワクチンの開発のためにフェレットが役立ってくれそうだ。

 これまでの研究によれば、ヒトの新型コロナウイルスに感染しやすいのは、ネコ、フェレットでイヌは感染しにくく、現在のところウマ、ブタ、ウシ、ニワトリの感染やウイルスの保持は確認されていない(※2)。

 だが、これは査読を受けていないプレプリントだが、中国の武漢のネコを抗体検査(ELISA)で調べたところ、14.7%(15匹/102匹)から陽性反応が出たという(※5)。これはネコで新型コロナウイルスが市中感染していることを意味するが、ネコからヒトへの感染は報告されていない。

 2003年から2004年にかけて流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)では、中国の広州のレストランで発生した患者は、そのレストランで料理として提供されたジャコウネコ(Palm Civet、Paguma larvata)から感染したと考えられている(※6)。ヒトのSARSウイルス(SARS-CoV)とジャコウネコに感染するSARSウイルスのゲノムはほぼ同じであり、SARSの場合、ジャコウネコが中間宿主の一種であり、ウイルスがヒトとジャコウネコで相互に影響し合って進化した可能性もある(※7)。

 SARSウイルスは新型コロナウイルスによく似ているとされているが、SARSウイルスもネコとフェレットに感染することが知られている(※8)。

 新型コロナウイルスもネコとフェレットに感染しやすいが、この理由はヒトとネコとフェレットでよく似た酵素(ACE2)が関与しているからと考えられている(※9)。SARSウイルスも新型コロナウイルスもこの酵素を足がかりに感染するが、この酵素を作る遺伝子配列の一致率をヒトと比べた場合、チンパンジー99%、ネコ85.2%、センザンコウ84.8%、ジャコウネコ83.5%、イヌ83.4%、フェレット82.6%となる(※10)。

 ネコやイヌの新型コロナウイルスの感染が報告された頃、彼らからヒトへの感染の危険性は低いといわれていた。だが、ウイルスが感染するメカニズムにおいて、ネコやフェレットとヒトはよく似ているようだ。

ヒトと同じようにペットにも

 ペット以前にまず、飼い主が新型コロナウイルスに感染しないように注意するべきだが、ヒト同士のソーシャル・ディスタンシングが必要な状況だからこそ、ペットの存在は重要になってきている。疎外感や孤独感が、ペットによって癒やされ緩和されている人は多い。

 ペットにはペット同士、そしてヒトへの感染リスクも捨てきれないことを念頭に置きつつ、ヒトと同じように接するようにするべきだろう。

 例えば、パンデミックが広がっている間、ネコは可能な限り室内飼いにしたい。イヌの散歩も多人数が集まる場所や他のイヌとの接触を避けるようにしたほうがいいだろう。ネコやイヌにも自宅待機やソーシャル・ディスタンシングが必要になる。

 外出から帰宅した時には、手洗いや着替えなどをした後にペットと触れ合うようにしたい。ペットとキスしたり口移しで食べ物を与えるのはやめたほうがいいだろう。

 また万が一、自分が感染した場合のペットの世話を誰に頼むのか、なるべく接触しないで世話ができるかどうか考えておくことも必要かもしれない。

 もし飼い主が感染した場合、ペットも感染している危険性がある。そのペットを動物病院などに連れて行くのは、自分が回復してもしばらくやめるべきだろう。

 これもヒトと同じだが、ペットに疑わしい症状が出た場合も、まず動物病院へ電話し、獣医師に指示を仰ぐことから始め、いきなり来院するのは避けたほうがいい。

 もちろんペットよりヒトのほうが大事だし、今のところペットや家畜からヒトへ新型コロナウイルスが感染する証拠はないのだから(※11)、ペットにPCR検査や抗体検査などを積極的にする段階でもない。

 ペットからの感染を恐れるあまり、飼育放棄して捨ててしまったりするのは動物愛護の観念からいっても言語道断だ。ヒト同士がしているような関係をペットにも持てばいい。

※1:Peter J. Halfmann, et al., "Transmission of SARS-CoV-2 in Domestic Cats." The NEW ENGLAND JOUNAL of MEDICINE, DOI: 10.1056/NEJMc2013400, May, 13, 2020

※2:Jianzhong Shi, et al., "Susceptibility of ferrets, cats, dogs, and other domesticated animals to SARS-coronavirus 2." Science, eabb7015, DOI: 10.1126/science.abb7015, April, 8, 2020

※3:Tracey McNamara, et al., "A Critical Needs Assessment for Research in Companion Animals and Livestock Following the Pandemic of COVID-19 in Humans." Vector-Borne and Zoonotic Diseases, doi.org/10.1089/vbz.2020.2650, May, 5, 2020

※4:Young-II Kim, et al., "Infection and Rapid Transmission of SARS-CoV-2 in Ferrets." Cell Host & Microbe, Vol.27, 704-709, May, 13, 2020

※5:Qiang Zhang, et al., "SARS-CoV-2 neutralizing serum antibodies in cats: a serological investigation." bioRxiv, doi.org/10.1101/2020.04.01.021196, April, 3, 2020

※6:Ming Wang, et al., "SARS-CoV Infection in a Restaurant from Palm Civet." Emerging Infectious Diseases, Vol.11(12), 1860-1865, 2005

※7:Huai-Dong Song, et al., "Cross-host evolution of severe acute respiratory syndrome coronavirus in palm civet and human." PNAS, Vol.102(7), 2430-2435, 2005

※8:Byron E. Martina, et al., "SARS virus infection of cats and ferrets." nature, Vol.425, 915, 2003

※9:J. M. A. Van Den Brand, et al., "Pathology of Experimental SARS Coronavirus Infection in Cats and Ferrets." Animal Models of Human Disease, Vol.45, 551-562, 2008

※10:Alison E. Atout, et al., "Coronaviruses in Cats and other companion animals: where does SARS-CoV-2/COVID-19 fit?" eCommons, Cornell University Library, doi.org/10.7298/f18b-wb76, May, 13, 2020

※11-1:Sarah Temmam, et al., "Absence of SARS-CoV-2 infection in cats and dogs in close contact with a cluster of COVID-19 patients in a veterinary campus." bioRxiv, doi.org/10.1101/2020.04.07.029090, April, 9, 2020

※11-2:Junhua Deng, et al., "Serological survey of SARS-CoV-2 for experimental, domestic, companion and wild animals excludes intermediate hosts of 35 different species of animals." Transboundary and Emerging Diseases, doi.org/10.1111/tbed.13577, April, 17, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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