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「紅麹サプリ」で長期間の「腎機能障害」が明らかに。大阪大学などの研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 小林製薬の紅麹(べにこうじ)成分を含むサプリメントを摂取した人が腎臓の機能低下などの症状を発症した健康被害事件は記憶に新しい。大阪大学などの研究グループは、サプリメント摂取後の患者を調査し、低カリウム血症や腎機能の代謝異常などの腎機能障害がサプリメントの使用中止後も続いていることを明らかにした。

 小林製薬の紅麹成分を含むサプリメント(機能性表示食品)の健康被害問題では、厚生労働省が製造過程で混入した青カビ由来のプベルル酸が原因物質として特定し、大阪市はすでに食中毒事件としている。2024年12月に大阪市が開いた対策会議の資料によれば、健康被害をうったえた人は倦怠感が1173人、頻尿が802人、尿の泡立ちが653人、手足の浮腫が493人などとなっている。

 ただ、健康被害の実態については不明な点が多かったため、大阪大学などの研究グループ(※1)は、日本腎臓学会の会員医師から寄せられた患者192人の2段階の調査を詳細に分析し、その結果を国際的な腎臓病の学術誌で発表した(※2)。

 同研究グループは、日本腎臓学会会員を対象に2024年3月27日から4月30日に、同社製の紅麹サプリメント摂取後に腎障害を生じたと会員医師が判断した患者の検査所見などの情報をアンケート調査として収集している。

 そして、診療の現場において早急に病態などを把握する必要があったため2024年4月1日に中間報告を行い 、初回調査の対象となった192名の患者に関する情報は中間報告第2弾として2024年5月7日に報告している。今回の発表は、その後のフォローアップ調査を含めた結果をまとめたものだ。

 中間報告によれば、ファンコニー症候群を伴った腎機能障害が主要な病態であることが明らかになっている。同研究グループによる腎機能障害とは、eGFR(estimated glomerular filtration rate、推算糸球体濾過量)<60ml/min/1.73m2を腎機能障害と定義した。eGFRは腎臓における老廃物の排泄指標で、基準値は90ml/min/1.73m2以上となる。

アンケート調査の主な結果。大阪大学のリリースより
アンケート調査の主な結果。大阪大学のリリースより

 腎臓は大きく糸球体・尿細管という2つの構造に分けることができ、糸球体障害時と尿細管障害時には、それぞれ認められやすい血液・尿検査値異常が異なる。今回の対象患者の血液・尿検査の結果によれば、尿細管障害時に特徴的な低カリウム血症、低リン血症、低尿酸血症、尿糖、代謝性アシドーシスなどの病態(ファンコニー症候群)を多く認めたという。

 体内で尿が作られる過程は、まず血液が糸球体で濾過され原尿となるが、原尿にはカリム、糖、リンなどの生体にとって必要不可欠な成分が含まれている。ファンコニー症候群とは、尿中のカリウム、糖、リンなどの成分を再吸収して体内へ戻す機能が低下し、本来なら体内へ戻される成分が尿によって排出されてしまう病気のことだ。

 同研究グループによれば、腎機能障害が確認された患者のうち、フォローアップで追跡調査した114人のうち、87%で紅麹サプリメントの使用中止後も腎機能の働きが基準値(eGFR <60ml/min/1.73m2)を下回ったままだった。

 また、初診時の腎機能が悪い患者ほど回復が不十分で、腎臓の組織を採取する腎生検を行った102人では50%で尿細管間質性腎炎が、32%で尿細管壊死が認められ、今回のような病態では尿細管間質性腎炎で一般的に用いられるステロイド療法が有効であるとは言えなかったという。

 ただ、研究限界として、ステロイドで治療された患者の数が少なく、ステロイドの開始時期が明確に定義されていなかったため、今回の事例のステロイド療法の有効性については明確な結論を導き出すことができないとした。

 研究グループは、腎機能が低下したままの患者が多く見受けられ、患者の経過を長期に追う必要があるとし、従来の免疫異常とは異なるメカニズムで腎臓の機能障害が起きたのではないかとしている。機能性表示食品の安全性評価の重要性を指摘しつつ、引き続き、長期に経過を追うという。

※1:新澤真紀講師(大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター、大学院医学系研究科)、松井功講師(大学院医学系研究科)、土井洋平特任助教(常勤)、猪阪善隆教授(腎臓内科学)ら

※2:Maki Shinzawa, et al., "A nationwide questionnaire study evaluated kidney injury associated with Beni-koji tablets in Japan" kidney INTERNTATIONAL, doi.org/10.1016/ j.kint.2024.11.027, 18, December, 2024

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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