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メジャーリーグ監督への道。崩しきれない「人種の壁」と新たなハードル「学歴の壁」

谷口輝世子スポーツライター
ドジャースのロバーツ新監督。(写真はパドレス在籍時)(写真:ロイター/アフロ)

ドジャースのデーブ・ロバーツ新監督は1日(日本時間2日)、記者会見を開き、来季への抱負を語った。ロバーツ監督は沖縄出身の米国育ち。父がアフリカ系米国人、母は日本人だ。

ドジャースにとっては初めて非白人のマイノリティを監督に迎えたことになる。

1987年、当時のドジャースのゼネラルマネジャーだったアル・カンパニスがアフリカ系米国人の監督やゼネラルマネジャーが少ないことを質問され、「何らかの資質に欠けるのかもしれない」と発言。人種差別と指摘され、この発言の数日後に辞任した苦い過去があっただけに、ドジャースにとってはロバーツ氏の監督就任はことのほか明るいニュースだと言える。

人種の壁は崩しきれていないのか。

しかし、メジャーリーグ全体を見回すと、2016年のマイノリティ監督はドジャースのロバーツ監督と、ブレーブスのゴンザレス監督(キューバ生まれ米国育ち)、ナショナルズのベーカー監督の3人にとどまる。

マイノリティの選手はアフリカ系米国人選手が全体の7-8%程度。メジャーリーグのアフリカ系米国人選手も、人口に占める割合や他競技と比較すると少ない。しかし、アフリカ系米国人選手とラテン系選手をあわせると全体の30%を超える。マイノリティの監督は全体の10%。監督への道には崩しきれない人種の壁がまだあるのかもしれない。

メジャーリーグは各球団に対してマイノリティの監督候補者にも面接の機会を与えるように通達はしている。実際に、2002年と09年には30球団で、ラテン系かアフリカ系米国人の監督が10人いた。しかし、また、少なくなっているのだ。

たまたま、ここ数年はマイノリティの適任者がいなかっただけだろう、という話は正しいかもしれないし、正しくないかもしれない。ただ、メジャーリーグの監督にマイノリティの人が少ないということは事実だ。

新たなハードル、学歴の壁

ここ数年は学歴の壁もあるようだ。メジャーリーグは高校卒業後すぐにプロ入りできるため、NBAやNFLに比べて高卒選手が多い。しかし、新しく監督に就任する人物は大学進学者(大学中退も含む)が圧倒的に多いのだ。

筆者が2015年に初めてメジャー監督になった人(代行監督等は除く)の学歴をBaseball-Reference.comで調べたところ全員が大学に進学していた。

レンジャーズのバニスター監督。レイズのキャッシュ監督、ブルワーズのカウンセル監督。ダイヤモンドバックスのヘイル監督。GMから一時的に転身したマーリンズのジェニングス監督。ツインズのポール・モリター監督。名前を挙げた全員が大学に進学している。 

今季、ポストシーズン進出を果たしたアストロズのAJ・ヒンチ監督は、09年と10年でダイヤモンドバックスで監督経験があるが、今年初めて年間通じて采配を振るった。名門スタンフォード大に進学している。

2016年が監督として初のシーズンとなるパドレスのグリーン監督、マリナーズのサービス監督、そしてドジャースのロバーツ監督も大学に進学している。過去に監督経験があるものの、これまでに年間通じて監督を務めたことがないフィリーズのマッカニン監督も短期間のようだが大学に進学している。

USAトゥデー紙のボブ・ナイチンゲール記者によると、2012年以降、初めて大リーグの監督に就任した16人のうち、15人が大学に進学しているという。

以前から大学に進学している白人の元選手がメジャーリーグの監督に就任するという傾向はあった。しかし、ここ最近の監督で名監督と言われたり、一定の結果を出した人たちのなかには高卒プロ入りの人もいた。

パイレーツ、マーリンズ、タイガースなどの監督を務めたジム・リーランド。ヤンキース、ドジャースなどの監督だったジョー・トーリ。パイレーツのクリント・ハードル監督、ブルージェイズのジョン・ギボンズ監督も高卒だ。

フロントの変化が反映?

メジャーリーグには以前からプロ経験のないゼネラルマネジャーはいた。けれども、ひとつの変化のポイントとなったのが、現カブスのエプスタイン社長が、2002年にレッドソックスのゼネラルマネジャーに就任して結果を出したことだろう。プロ選手としての経験はないが、名門大学出身で若くしてゼネラルマネジャーに抜擢されている。それ以降はプロ選手としての経験はないが、名門大学出身のゼネラルマネジャーが珍しくなくなった。監督を採用する側が変化すれば、当然ながらどのような人物を監督して採用するかも変わってくる。

マイナーでの監督やコーチ経験はほとんどないが、少なくとも大学に進学しているという元選手の監督就任が増えていることと無関係ではないだろう。前述したリーランドは、高卒でプロ入りしたが、選手としてはメジャーに昇格できず、下位のマイナーリーグの監督をスタートに指導者としての実績を積み上げて、メジャーリーグの監督になった。今後はリーランドのようなプロセスでメジャーリーグ監督になる人は珍しいケースになっていくはずだ。

メジャーリーグの管理職につくのにも学歴が必要になってきている。16歳でプロ契約をする中米出身の選手にとっては、これまでよりも監督への道は険しいものになっていくのかもしれない。

人種や出身国にかかわらず、能力ある適任者を採用しているというのであれば、それが建前でなく、実際に行われているのであれば、それには異論はないのだけれども…。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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