「花見にスマホ持参で逮捕」低レベルすぎる国会審議で共謀罪を採決か―答弁できない法相、日本語歪める首相
政府与党は「共謀罪」を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案(「テロ等準備罪法案」「共謀罪」法案」)を今日17日に衆院法務委員会での採決をめざすとしている*。共謀罪とは、犯罪を実際に実行あるいは未遂に至らなくても、二人以上が「共謀した」と当局が見なせば、その時点で処罰できるという、これまでの日本の刑法の原則を根本的に覆すものだが、政府与党は国会審議は30時間で十分だとしている。確かに、これまでの審議でもう十分かもしれない。ただ、それは共謀罪が濫用される恐れがあり、政府与党自体も混乱し一貫性がない、そもそもテロ防止は現行法で対処できることなどから、廃案にすべきという意味で十分、ということだ。
〇反基地や脱原発にも適用、監視や盗聴も拡大
共謀罪をめぐる野党や学識経験者、市民団体の最大の懸念は、テロとは無関係の、一般市民にまで共謀罪が濫用されることだ。政府与党側も「組織的犯罪集団のみに適用」「一般の人々に適用されることもあり得る」と国会での答弁が二転三転している。テレ朝『モーニングショー』(先月20日放送)の玉川徹氏のインタビューに対する自民党法務部会長である古川俊治参院議員の発言も見過ごせない。「沖縄での反基地の座り込み」「原発のような国策を推進する企業に対してSNS上で集団で批判を書き込む」というような行動に対しても「共謀罪は適用される」と明言しているのだ。
犯罪が実行されていない時点で処罰する共謀罪をめぐっては、捜査においてメールや電話、SNSの監視や盗聴が無制限に行われることが懸念されている。先月14日の衆院法務委員会で、藤野保史衆院議員は、岐阜県警による「大垣警察市民監視事件」を取り上げた。これは、中部電力の子会社「シーテック社」が計画する風力発電所に反対する住民が勉強会を企画していたところ、岐阜県警大垣署の警備課課長らが住民達の思想信条、学歴、病歴そして現在の病状など、センシティブな個人情報を長期間にわたって収集し、シーテック社側に提供していたという事件で、2014年7月に発覚したもの。藤野議員の追及に対し、白川靖浩・警察庁長官官房審議官は「岐阜県警からは『必要な情報収集を適正に行ったもの』という報告を受けている」と答弁。犯罪ですらない住民達の活動にすら、警察が監視を行っていたことから、藤野議員は「これが共謀罪というふうになったらどうなるか」と、市民監視や弾圧がさらに拡大する怖れがあることを指摘した。
政府が、一般市民に対しては、犯罪ですらない行為まで監視することを否定しないのに対し、権力側には共謀罪を適用しないというダブルスタンダードがある。先月25日の参考人質疑では、高山佳奈子・京大大学院教授が、公職選挙法や政治資金規正法の違反、警察等による特別公務員職権乱用罪など、共謀罪の適用対象から除外されていることに疑問を呈した。これらは、政府が共謀罪が必要だとしている根拠である国際組織犯罪防止条約(TOC条約)との関係で含むべき犯罪であるにもかかわらずだ。こうしたダブルスタンダードは、政府に批判的な人々を弾圧する道具としての共謀罪の本質を表している。
〇お粗末すぎる政府与党の答弁
共謀罪の対象の定義や運用の仕方についての政府与党の答弁も酷いものだ。安倍首相が、「そもそもは『基本的』にという意味もある」ということを今月12日に閣議決定したことが話題になったが、これは日本語としての誤りだけでなく、自身の直近の答弁との食い違いを指摘された安倍首相が、それを誤魔化すためだった、という二重の問題がある。安倍首相は、今年1月26日の衆院予算委員会で、共謀罪による摘発対象として「そもそも犯罪を犯すことを目的としている集団でなければなりません」と答弁。ところが、その翌月の2月17日の衆院予算委員会では「そもそもの目的が正常なものであったとしても、一変をしたら、組織的犯罪集団と認めるのは、これは当然のこと」「結成当初からそのような(犯罪を犯すこと目的とする)団体であったか、ある時点でそういう団体になったのかで対応が異なるものでは、あり得ない」と、全く真逆の答弁をしている。この矛盾を山尾志桜里衆議院議員に先月19日の衆院法務委員会で追及されたところ、安倍首相は「そもそもには『はじめから』というだけではなく、『基本的に』という意味もある」として、自身の発言には矛盾がないと開き直ったのだ。同じ質問に対する答弁が変わること自体、不誠実であるが、自身の矛盾を認めない上にそれを誤魔化すために日本語をゆがめ、さらにはそれを閣議決定までするという、信じがたい暴挙に出たのである。この一件だけでも、共謀罪審議に対する安倍政権の姿勢がいかに異常かがわかるというものだ。
金田勝年法務大臣の迷走ぶりも酷い。法律をつくるためには、その法律の必要性の根拠となる具体的な事実、つまり「立法事実」が求められる。ところが、今年2月6日の衆議院予算委員会で「共謀罪を必要とする立法事実は何か」と前出の山尾議員に何度問われても、金田法相は答えられないという醜態をさらした。また金田法相に代わり、官僚が答弁することも常態化している。国会法と衆院規則では、政府への質問は原則として大臣、副大臣、政務官が答えるものと定められている。ところが、与党主導で林真琴・刑事局長の常時招致を議決するという異例の対応で、野党からの質疑に金田法相ではなく、林刑事局長が答えるということが頻発しているのだ。答弁能力のない法務大臣を相手に重要法案の審議を行うこと自体が言語道断であろう。共謀罪の運用をめぐる珍答弁も野党のみならず一般の人々まで困惑させている。先月28日の衆議院法務委員会で、金田法相は共謀罪で摘発される事例の参考として、「花見であればビールや弁当を持っているのに対し、(犯罪行為の)下見であれば地図や双眼鏡、メモ帳などを持っているという外形的事情がありうる」と答弁。しかし、ネット上では「スマートフォンには、地図アプリあるけどそれもダメなのか」「ズーム機能のあるカメラ付きのスマホもアウトじゃないか」「スマホをメモ代わりにすることもある」と、金田答弁のままで共謀罪が運用された場合、誰も彼も皆捕まってしまうとの懸念が相次いだ。
〇現行法で対応可、共謀罪は必要なし
そもそもテロ防止という点では、刑法の原則を根底から変えてしまう共謀罪をわざわざ新設しなくとも対応できるとの指摘は少なくない。山尾志桜里衆議院議員は、今年2月3日と同6日の衆院予算委員会で、政府与党が共謀罪が必要とされる「三つの穴」に対し、全て現行法で対処できると指摘した。それによると、
・化学薬品を使ったテロ→サリン等による人身被害の防止に関する法律で対応可。サリン以外の毒物についても、政令で指定することで対応可。
・航空機をハイジャックして高層ビルに突撃させるテロ→ハイジャック防止法で対応可。
・コンピューターウィルスで都市機能を麻痺させるテロ→ウイルス作成罪(刑法168条2項)に未遂罪を加える改正で対応可。
こうした指摘に対し、金田法相は「テロ等準備罪(共謀罪)の成案が得られていない段階で、わかりやすくイメージをしてもらうもの」と答弁。政府与党が主張してきた「三つの穴」が、確固たる必要性、つまり立法事実ではないことを露呈させてしまった。政府が共謀罪の必要性としてあげている国際組織犯罪防止条約(TOC条約)への批准も、共謀罪なしでも批准可能であることは、日本弁護士連合会などが指摘している。必要性もなく、濫用の怖れのある共謀罪法案は、廃案とされるべきだろう。
(了)
*2017年5月17日午前11時25分追記
野党から金田法相の不信任決議案が提出されたため、17日中の共謀罪法案の採決はなくなった。