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不思議の国に迷い込む展覧会、それはミステリーの世界に飛び込んでいくようなもの【神戸市・横尾忠則】

Hinata J.Yoshioka旅するフォト&ライター(神戸市)

少女が穴から落ちていくシーン。入り口の真正面にあるこの「脈略」という作品は、展覧会「Yokoo in Wonderland -横尾忠則の不思議の国」へと私たちを導く一枚です。

導くというのは、イメージではなく本当に導くということです。つまりここで私たちはまず、想像上の「穴」に落ちてしまわないことにはその世界へと入ることができません。入り口のアリスに続いて、まずはあなた自身が穴へと飛び込んでみることから始めましょう。

さぁ、アリスを追いかけてあなたはどんな場所へと落ちていったのでしょうか。まず右手の通路へと回り込みます。

そこには地底、洞窟、海中、宇宙、そして死の向こうの世界が乱立していて、もうその時点で既に私は自分の立ち位置を見失ってしまいました。交錯する幾つもの世界に混乱しながら、本気で迷子にならないように自分自身の手を引いて歩くだけで精一杯です。

所々にある物語のような解説書は、今展の担当者・平林学芸員によるもの (挿絵・不思議の国のアリスより)
所々にある物語のような解説書は、今展の担当者・平林学芸員によるもの (挿絵・不思議の国のアリスより)

ふと気づいたのですが、なんだか初めて見る作品が多いように思います。伺ったところ今回、横尾忠則現代美術館では初出品の作品が多いということ。

絵画中心の企画展が多かったため、70年代のポスターは今まであまり出さなかったそうなのですが、現在87歳を迎えていらっしゃる横尾さんが過去50年間、自身のインナーワールドをアートの中に探究し続けてきたその成果がここにあるようです。

1981年頃、いわゆる画家宣言をして周囲を驚かせた横尾忠則。画家転向後の試行錯誤の中で、横尾さんは「狂気」をテーマにします。その頃の様子が当時の横尾さんの日記に記されていて、日記帳の扉に描かれていたのが今回のポスターの「アリス」なのです。

それが今回のテーマと繋がったきっかけなのですが、ではアリスが実際に作品内に描かれているのかと言えばそうでもなく、異世界へと縦横無尽に飛び込んでいくアリスは「作品を見ているあなた自身の姿」なのだと感じられます。

そしてその世界は、タイトルから想像するような可愛らしい世界というより「狂気」にアクセスするようなものだと。

私たちは入り口で穴に飛び込んであちらの世界へ行くのですが、その先にはワクワク感よりも強めの狂気的世界があることをまず心得てから穴に落ちることをおすすめします。そして、必ず最後にはちゃんとこの世界へと帰ってくるようにお願いします。

横尾さんの日記より。アリスを描く理由に「自分の中の狂気を対象化」
横尾さんの日記より。アリスを描く理由に「自分の中の狂気を対象化」

では、3階の「鏡の国」へと移動しましょう。壁一面がゆるやかな鏡のように演出されている中に、鏡の破片がコラージュされた横尾作品が並んでいます。

作品と作品の間に映る人の姿。顔も輪郭もハッキリしないその姿がなんだか絵の一部でもあるように見えて「ヤバイ、あの人あっち側に抜き取られてしまってる」と、横目で盗み見ながら恐々と歩きます。

たまに自分がどの世界にいるのか分からなくなる迷子のような私ですが、ここでは更にミラーinミラー状態で、唯一この部屋の照明がしっかりと明るかったことに助けられたような心持ちでした。

もはや部屋全体が一枚の横尾作品としてあり自分たちもその中に取り込まれているなんて、まさか思いもしませんよね。そこに自分の影をとり残さないように、しっかりと手を引っ張って連れて帰ろうと思いました。

いよいよ最後は「夢の国」、4階の展示は私たちが眠って見る夢の世界がテーマです。横尾さんが実際に見た夢の世界を綴った『夢枕』という本があるのですが、その中にある全43編(番外を入れて)の絵がずらりと展示されていました。

それにしても、横尾さんはとにかく夢の中でも色んな場所に行っているので驚きです。宇宙人や神様もいれば、百人一首に出てきそうなお姫様の姿もありました。横尾さんの作品の源泉のひとつでもある「夢」という空間。だけどそれは本当に夢なのでしょうか。

私もよく夢の中で、色んな場所で仲間たちと一緒にいます。だけど目が覚めた時に「なんでここに戻ってしまったのか」と、ガックリする時がたまにあります。どちらかというと私にとって現世の方が夢っぽくて、まるでテレビドラマを客観視しているような感じ。つまり夢は時々私にとって並行世界として存在しています。

「Yokoo in Wonderland-横尾忠則の不思議の国」。現実世界なんて本当はどこにもないのかも知れない、全ては自分が想像で作り出したまぼろし?それとも…その続きは、どうぞ横尾忠則現代美術館で。まずは思い切って、Yokoo in Wonderlandの「穴」にダイブしに行ってみてはいかがでしょうか。

「Yokoo in Wonderland

 -横尾忠則の不思議の国」

横尾忠則現代美術館HP (外部リンク)
開催日:2023.9.16 sat. - 2023.12.24 sun.
兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
TEL:078-855-5607(総合案内)
OPEN:10:00-18:00(入場は17:30まで)
定休日:月曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始、メンテナンス時(不定期)

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旅するフォト&ライター(神戸市)

旅なしに人生は語れない、ノマド系フォトライター。国内から世界各国まであちこち歩きまわって取材する、体当たりレポートを得意とする。趣味は美味しいもの食べ歩き、料理、音楽、ダンス、ものづくり、イベント企画などなど、気になる物には何でも手を出してしまう。南国気質で、とにかくマイペースな自由人。

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