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ヤバ面白い作品が登場!「自由すぎる寒山拾得」を描いた横尾忠則。今回はとことん遊びましたね?【神戸】

Hinata J.Yoshioka旅するフォト&ライター(神戸市)

いつも面白いテーマがあって、毎度濃厚な横尾世界を「これでもか!」と見せつけてくれる横尾忠則現代美術館。

25日に始まったばかりの「横尾忠則 寒山百得展」で今回、私が全体を見終わったあとの感想は「横尾さん、とことんまで遊びきったなぁ」でした。

もちろんテーマは「寒山と拾得」という、歴史上では禅僧と(奇人とも)される浮世立ったふたりですが、もうそこにもはやこだわりはなく、何なら横尾さん本人曰く「途中からふたりの存在を忘れていた」ぐらいの感じで描き続けられた作品群。とにかく遊び心が爆発しています。

これはどうやら、トーク番組でコメンテーターとなった寒山と拾得が、便器に座って大谷翔平について語っているという設定のようですね。笑えます。

こんなふうにコロナ禍も含めた約1年半の制作期間中で、時代も少しずつ変化していく中で起こった印象的なでき事なども反映されている今回の作品群。

制作期間内にはオリンピック招致決定の瞬間などもあり、その日の新聞のトップに掲載された写真をそのまま描かれた作品なども。

他にも、オリンピックでランナーたちがゴールする感動の瞬間の中に紛れてふたりが走っていたりと、妄想の爆発っぷりが面白すぎる。

中にはダジャレで構成された作品も。エドガー・アラン・ポーと江戸川乱歩、そこにランボーまでかませてとりあえずトイレットペーパーを持たせたというもの。ダジャレ好きなおじさま達が作品の前に立ち「これこれ、ランボー」と嬉しそうに指をさしているのを見かけました。

もう、何も難しく考えなくても良いというメッセージなのでしょうか。皆さんもどうぞリラックスしてお気楽に自由に見てください、そんな声がどこからか聞こえてくるようです。

とても自由な雰囲気のある作品たちですが、その中には横尾さんらしい哲学もありました。「寒山と拾得とは、ひとつの理念ではないかと思う。彼らは我々の中にも住んでいる存在で、自由にさえ生きていれば存在する要素だと」

「絵の中ではふたりから人数も増えたりしているけど、全員が彼らであり、全員がそうでないかも知れない。特定の人間のアイデンティティーではなくて、全ての人間のアイデンティティーに集約されていく、そんな存在として捉えました」と、ふたりのことについてチラッと語られていましたよ。

世界の有名画家の絵画や映画のポスター、スポーツのニュースまで。それ自体を取り入れたことに意味はなく「どんな描き方をしているか」という「スタイル」を見て欲しいのだと横尾さんは言います。

今回の作品は全102点。制作順に並んでいるので、床に貼ってある矢印順に進んで見るのが良いそうですよ。徐々に思い切った変化を遂げていく寒山と拾得。ある時はロックスターのようだったり、物語や歴史にも登場。

空を飛んでみたり、木になったり、多人数となって絡まってみたり、そしてついには一体化してしまいました。そんなふたりが面白すぎて、見進む内にどんどんと愛おしくなってくるから不思議。

イタズラっぽいふたりが、次は何に姿を変えてどんなことをしでかしていくのか、ワクワクと期待してしまいます。見たばかりの作品の登場人物に、愛情のようなものまで感じさせてしまうって凄くないですか?

そしてこのあと一番最後の小さなお部屋で、横尾さんのお誕生日に描かれたという作品を見て私は不意に放心してしまいました。

力の抜け具合というか、独自の朦朧体なども経て、数々のチャレンジでありとあらゆる技法を積み重ねて来られた横尾さんがとことんまでやってから抜けきった先の、この表現。

これこそが「寒山拾得」という存在であり、意識であり、事象なのかと思わされてしまう凄さ。

また、やられてしまいました。絵に意味はないと横尾さんはいつもおっしゃいますが、私は毎回ゆるっと打ちのめされるんです。もう軽い中毒のようなもので、それをめがけてついついここに来てしまうんですけどね。

今回は、横尾さんが一年ぶりに来館。記者会見では、県に寄贈されたという「905点の作品」に対しての感謝状のことも話題に。

最近、文化功労賞の受賞などニュースでも話題となる横尾さんですが、先日は天皇様の園遊会での会話シーンもテレビで見かけました。

「世界の美術界に大変な貢献をなさっていますね」というお言葉や、横尾さんが書いた本についてや、Y字路のこと、新聞の連載も読ませて頂いていますと、とにかく天皇ご夫妻は横尾さんに興味津々で積極的に話かけ続けていらっしゃったのが印象的でしたよ。

今回の寒山拾得を描いた「横尾忠則 寒山百得展」は、東京での展示を経てこちらでも開催となりましたが、その大型の作品たちを勢いよく製作し続けてこられたのが驚きです。

今年88歳になられる横尾さん、1日に3作品を仕上げた日もあるということで、そのエネルギー量の凄さには圧倒されるものがありました。そんなスピード制作のことを、「何も考えず描く。アスリートの瞬間芸を絵の制作に持ち込んだような事だ」とおっしゃる横尾さん。

強力なエネルギーが渦巻くパワースポットのような場所、横尾忠則現代美術館。あなたも横尾作品を拝見しながら、溢れ出るパワーを頂きに行ってみてはいかがでしょうか。

横尾忠則現代美術館 (外部リンク)
場所:兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
TEL:078-855-5607(総合案内)
OPEN:10:00-18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)
年末年始、展示替え期間
観覧料:
一般    700円
大学生   550円
70歳以上  350円
高校生以下 無料
(割引などもあるので、詳しくはHPをご覧ください)

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旅するフォト&ライター(神戸市)

旅なしに人生は語れない、ノマド系フォトライター。国内から世界各国まであちこち歩きまわって取材する、体当たりレポートを得意とする。趣味は美味しいもの食べ歩き、料理、音楽、ダンス、ものづくり、イベント企画などなど、気になる物には何でも手を出してしまう。南国気質で、とにかくマイペースな自由人。

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