死者たちと会話する横尾忠則、その内容とは?謎を読み解く本「原郷の森」の存在感は驚愕レベル【神戸市】
森の中を模したという「原郷の森」展覧会。木漏れ日を感じさせる光の奥に潜むのは、野生生物のような気配を放つ絵画たち。
入り口には巨大な本の表紙があり、そのページをヨイショとめくって入っていくようなイメージを持って奥へと進むと、絵と同時に言葉が大文字の活字で目の中に飛び込んできました。これは今までの横尾さんの展覧会にはなかった現象です。
言葉と絵画、どちらもがインパクト有りで攻めぎ合っているのですが、その様子が面白い。この日、会場をご覧になっていた横尾さんがしきりに「絵のサイズが小さく見える、こんなに小さかったっけ?」と問いかける姿がありましたが、それほどに言葉が大胆に存在していました。
「原郷の森」。2022年に、文筆家・横尾忠則が発表した異色の「芸術小説」です。その本の内容はもちろん、見た目の存在感の凄さにまず圧倒されます。私は今回の展覧会に先駆けて本屋へ探しに行ったのですが、見つけた瞬間あっと驚きました。
ハードカバーな上、とにかく分厚い!そのページ数は何と500ページ超えです。重量もそれなりにあるので、読書しながら筋トレ効果も期待できそうなぐらいです。本離れがささやかれる現在において、ここまで本というリアルな存在をこれでもかと現実化してしまったことに感動すら覚えました。
ちなみに、横尾忠則現代美術館内のショップでサイン入りの「原郷の森」が手に入ります。ここで本を買えばよかったと後悔した私ですが、まだ買っていない人がいればおすすめします。部屋に飾るコレクションにしてもカッコ良く、オーラが滲み出ているような本ですよ。
今回の「原郷の森」展では、この本の内容が画家・横尾忠則の絵とリンクしてくるような展示方法となっていました。2階の展示では大きな文字が、3階の展示では言葉を音声として流しています。
それらの言葉は、本の中で横尾忠則の分身でもあるYが、既に世を去った芸術家や文化人、宗教家までさまざまな人と対話した内容となっていて、その数およそ280名。
数々の言葉によって、絵の世界観が更に広げられていく感じがあります。その仕掛けから、空間内に故人たちが潜んでいて頭の中に直接言葉を投げかけてくるかのような雰囲気もあります。小説内の言葉なので横尾さんの想像上のものですが、その内容にハッとすることもしばしば。
そんな、自身の書いた本の中でダ・ビンチが語る「今の画家は蝶の標本と同じで、発表の場が美術館で、それが画家の力を弱めた大きい理由です」という言葉の前に立ち、横尾さんは「厳しいことを言っているね」と笑います。
エレベーターの隣にある小部屋には「原郷の森」の原稿が展示されていました。驚くことに、見たところ全部手書きで書かれてあります。赤で手直ししてあったり、文字が棒線で消されていたり…
あれだけの分厚い本ですから、原稿の量もどっさり山積み。横尾さんの丸みを帯びた文字には味があり、ガラスケースの中に無造作に積み上がった原稿までもが芸術作品に思えてきます。
今回、3年ぶりに神戸の横尾忠則現代美術館に来れたという横尾さん。お元気そうで笑顔も見られましたよ。オープニングでもあるこの日に集まったお客さんの皆さんも「原郷の森」の表紙と同じくボーダー服を着ている人が多く、面白い一体感があった会場でした。
皆さんもぜひ、ボーダーを身体いっぱい身につけて展覧会に訪れてみてはいかがでしょうか。
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横尾忠則 原郷の森
横尾忠則現代美術館(外部リンク)
期間:2023年5月27日〜8月27日
開館時間:10:00-18:00 (※入場は17:30まで)
休館日:月曜(但し、7月17日月曜日・祝日は開館、翌18日火曜日休館)
住所:神戸市灘区原田通3-8-30
電話:078-855-5607(総合案内)
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