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『27時間テレビ』マラソン企画、2024年も結果的に“本家”の検証に 「理想」を押し付けず生んだ感動

田辺ユウキ芸能ライター
『FNS27時間テレビ』で総合司会を担当した、霜降り明星(写真:つのだよしお/アフロ)

7月20日18時30分から21日21時54分まで生放送された大型特番『FNS 27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』(フジテレビ系)の企画「100kmサバイバルマラソン」で、お笑いトリオ・モシモシのいけが優勝し、賞金1千万円を獲得した。

2023年放送の『27時間テレビ』で始まった同マラソン企画は、脚力自慢の芸能人ランナーたちが参加し、「100kmの道のりを、必要以上に休憩時間を取らずに走った場合、一体いつゴールできるのか」を検証するもの。芸能人ランナーたちは、一定のペースで走る先導車(ペースメーカー)を追走してレースを進める。その車から引き離されたり、ドクターストップがかかったりした場合は脱落となる。ちなみに女性ランナーの場合は残り3キロ(97キロ時点)となったところでペースメーカーが外れて自分のペースで走ることができ、男性ランナーは3分遅れでペースメーカーが外れるシステムだ。

今回の「100kmサバイバルマラソン」のMVP的存在は金田朋子、森渉の“元夫妻”

今回は7月20日19時頃にスタートが切られ、21日11時30分頃に1位のいけ、2位の佐野文哉(OWV)がほぼ同時にゴールへ駆け込んだ。「100kmサバイバルマラソン」の模様を見守っていた番組の総合司会・せいや(霜降り明星)の「自然と涙があふれてきて」という感想はまさにその通りで、なかでも終盤、意図せずに目頭が熱くなってしまった視聴者は多数いたのではないだろうか。

ゴール寸前まで繰り広げられた、いけと佐野文哉のデッドヒートなど、一生懸命になることで生まれる筋書きのないドラマの数々が、最後に大きな感動を呼んだ要因となった。

そんな今回の「100kmサバイバルマラソン」でMVP的な存在だったのが、声優の金田朋子、俳優の森渉である。

金田朋子と森渉は2013年11月に結婚し、2017年に長女が誕生。しかしマラソン当日の2024年7月20日に離婚を発表した。金田朋子は自身のブログで「金田朋子と森渉は婚姻関係を解消し、戸籍上の夫婦ではなくした上で家族を続けていくことになりました」「家族3人の幸せについて何度も話し合った結果、心だけは家族のままでいたいと思い、この判断になりました」と報告していた。

7月20日のスタート直前には、総合司会・粗品(霜降り明星)から「ちょっと金田・森ペアに話が聞きたいです」という軽いイジりがはいり、金田朋子は「私もびっくりでーす!」とピースサイン。森渉も、金田朋子の肩を抱きながら笑顔で手を振った。

金田朋子、森渉にとって「100kmサバイバルマラソン」は人生の新たなスタートに

そんな状況にあった二人が、「100kmサバイバルマラソン」で完走を果たした。特に、残り3キロで男性ランナーより一足早くペースメーカーが外れ、その瞬間に猛烈なラストスパートを仕掛けた金田朋子の走りは、せいやが言うように「自然と涙が出た」ものだった。かけていたサングラスを沿道に投げ捨てる様子は、2000年のシドニーオリンピックの女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子選手を彷彿。顔をくしゃくしゃにし、歯を食いしばり、給水も取らずに走る51歳の姿には、テレビやスマホ越しから「がんばれ」と声援を贈りたくなるものだった。

森渉も、金田朋子を追走するなかで一旦、上位に踊り出ようとしたが、足がついてこずに後退。それでも懸命に食らいつき、最終的に4位でゴールイン。金田朋子が6位でゴールする際には、森渉が駆け寄って手を繋ぐ場面もあった。

金田朋子は「やっぱり男子は早い。できるだけ追いつけないところまで行きたいなって」とラストスパートについて語り、森渉は「宇宙一の元妻ですね。僕らは戸籍上は離れたかもしれないですが、家族の心は変わっていません。僕ら家族にこういう機会を与えてくださって本当にありがたい」とコメント。その言葉を受けて、「もっと強くなりたい」と言った金田朋子にまた心が揺さぶられた。

金田朋子、森渉が、私生活でいろいろあるなかで「100kmサバイバルマラソン」に挑んだのは、「仕事だから」という責任以上の理由が感じられた。

お互いにこの「100kmサバイバルマラソン」には、人生の新しい一歩をスタートさせる意味合いを持たせていたのではないか。そして、戸籍上は夫婦でなくなったとしても、“家族”としてこれからも一緒にやっていくという気持ちの表れだったように思える。二人にとって「100kmサバイバルマラソン」は、これからの生き方を考える上でも非常に重要な仕事だったと推察できる。

「こういう結果なら泣ける」に迎合せず、テレビ的な理想を押し付けなかったからこその感動

そういった背景が見えるからこそ、金田朋子、森渉に肩入れできた。

金田朋子がラストスパートを仕掛け、一時は後続に400メートルもの大差をつけた時点で、多くの視聴者はきっと「金田朋子が優勝したら絶対に感動できる。このまま逃げ切ってほしい」と思ったのではないだろうか。なんなら、『27時間テレビ』はあくまでバラエティ番組なので「こうなったら2番手以下のランナーは空気を読んでもいいんじゃないか」とさえ考える人もいたはず。ほかにも金田朋子と森渉が揃ってゴールイン、という結末も理想的だった。

ただ『27時間テレビ』の「100kmサバイバルマラソン」はそういうなんらかの演出や理想の押し付けが一切なかった。なんなら、森渉は、失速した金田朋子に並ぶことなくかわして先へ進んだ。

過酷なサバイバル競争であるため、「バラエティ的にこうしよう」「空気を読もう」なんて考えるランナーはいないだろう。それであっても、なんらかのテレビ的な演出やあざとさがまったく感じられなかったからこそ、視聴者も素直に泣けたのだ。金田朋子らと世代が近かったり、二人と同じような状況を持つ人は、きっと共感できたり励まされたりしたのではないか。

全国的に無名な芸人の優勝も含め、結果的に『24時間テレビ』への検証や皮肉になった

2023年の同企画初開催時は、「100kmの道のりを、必要以上に休憩時間を取らずに走った場合、一体いつゴールできるのか」という趣旨から、“本家”の『24時間テレビ』の名物企画であるチャリティマラソンへの皮肉としても捉えられた。『24時間テレビ』は、番組のフィナーレに合わせてランナーがゴールすることが“お決まり”だった。それが良いかどうかは別として、「24時間かけて長距離を走り切って名場面を作り出す」という演出が加えられているのは明白だ。

前回の『27時間テレビ』の「100kmサバイバルマラソン」は、『24時間テレビ』のチャリティマラソンを検証する意味が込められ、体を張ったパロディにもなっていた。「やる理由」があった。しかし今回は、理由という部分では「?」だった。筆者は「また同じことをやる意味はあるのだろうか」と首を傾げるところもあった。

しかし結果論ではあるが今回の「100kmサバイバルマラソン」は、「視聴者が見たいと思うもの」「こうなったら泣ける、ドラマチックに思えるもの」に迎合しないことの良さがあった。それが『24時間テレビ』のチャリティマラソンのやり方に対する検証となっていた。

今回の「100kmサバイバルマラソン」が伝えてくれたのは、真剣に取り組んでいる物事は、テレビ的な演出がなくてもしっかり感動できること。金田朋子が優勝するところが見たい、金田朋子と森渉が一緒にゴールするところが見たい。それらは作り手と視聴者の欲求としては当然かもしれない。テレビ的にもそうなった方がおいしい。しかし、たとえ理想の形に着地しなくても、美しいものは美しく、おもしろいものはおもしろい。

それは優勝者の、いけにも言えること。『24時間テレビ』のチャリティマラソンは有名なランナーが抜てきされるのが定番。ただ今回の『27時間テレビ』の「100kmサバイバルマラソン」では、全国的に無名のお笑い芸人が優勝し、それでも大きな感動に包まれた。その事実自体が一つの検証結果となっていた。これもある意味「この人が勝ったら盛り上がる」という、「理想の押し付け」ではないと言えるだろう。

2024年も『27時間テレビ』の「100kmサバイバルマラソン」は大好評となった。しかもスポンサーまで数社ついた。企画としてどんどん膨らみが出てきている。では今後も継続するべきか、となるとそうでもないだろう。『27時間テレビ』の関係者もそれは認識しているはず。求められることをそのままやり続けることの難しさ、そして風当たりがガラッと変わることの大変さは、『24時間テレビ』のチャリティマラソンではっきりしている。今後は、「100kmサバイバルマラソン」からあっさり手を引く決断力も重要になってくる。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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